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リアルダンジョン  作者: 真城まひろ
一章 迷宮出現
8/20

1-8 力の格差

 黒猫と契約して共闘する事になった俺は気配を頼りにして前を突き進む二本の尾を揺らして走る黒猫を追いかけるようにして走っていた。


 数分もせず走っていると目的のお化け屋敷の場所に着く。

 いくら人が少ないとはいえ他校の高校生や家族連れの人々がいるわけでそこには長くもなく短くもない列が出来ていた。

 孫にいい所を見せようとする心臓の弱そうなおじいちゃんが並んでるということは無く勿論、高校生による列だ。

 驚き過ぎると心臓って本当に止まるのかな。気になる。


「あー。並ぶのかぁ……」


 ガックリと肩を落としながら渋々列に並ぶ。

 そしてふと思う。黒猫がこの場にいるのは駄目なのではないだろうか。多分だけど、追い出される気がする。

 猫に話し掛けるヤバイ奴になるのを避けるべく小さな声でも話せるように黒猫を抱いた。


「な、何をするっ!」

「喋ったら周りにバレるだろ!?」


 しーっ! と人差し指で静かにしてとアピールしながら挙動不審に周りを見る。大丈夫だ。誰も気付いた様子はない。

 そしてもう既に初級レベルのヤバイ奴の行動をしている俺。


「ん? あぁ、言っておらんかったな。普通はこの黒猫の姿だと人間にも見える。但し、ただの猫にだがな」

「つまり普通の人には尻尾は一本に見えていると」

「そう。そして、今の妾は隠形という術を使っておる。故に姿形は見えないし声も聞こえん」


 若干一名、普通に見えている魔人がいるんですが……。


「俺は例外ってやつか」

「その眼とその身に宿る膨大な力のおかげかもしれんな」


 忌々しいことに、と付け加えて悪態をつく黒猫は俺に大人しく抱かれて撫でられている。ゴロゴロと喉を鳴らしているので気持ちいいのかもしれない。

 そう言えば昨日のレイリーも気持ちよさそうだったような気がする。今明かされる俺の隠された才能、なんてね。


 それにしても俺に宿る膨大な力を気付いている黒猫。感知に長けるのか俺が力を制御できていないから漏れ出ているのか、多分後者だろうけど早急に対処したい案件である。

 本当にそのうち握手して相手の手を折ったみたいな事件が起こりかねない。

 そのためにも力を理解し制御する鍛錬は必須条件だという事が再び俺に重くのしかかった。


「ほれ、ボケッとしてないでさっさと歩かんか」


 俺の事を見上げて言う黒猫。完全に俺が黒猫の従者ポジションなんですけど。一応俺、迷宮主ダンジョンマスターなのに……器じゃないってことか。

 ぐふぅっ……俺のライフはもうゼロよ。


 深読みというか被害妄想の達人である俺は勝手にダメージを受けつつ目的のお化け屋敷と足を踏み入れる。


「うわぁ……。なんか肌寒いんですけど。ミスト的なやつか? それになんか青白いのがふわふわ浮いてるんですけど」

「それは彷徨う霊魂だ。特に気にする必要もあるまい」


 なんでそんな本物が早々にして出てくるんですかねぇ! て言うかマップが真っ赤っかで機能してないんですけど!


 なので検索とかで表示する敵を絞れば解決できるかもしれないとマップ表示に条件をつけることにした。

 Lv.1以上の敵に条件を絞ると半分程に減り、Lv.2以上にするとさらに見えやすくなった。どうやら成功である。


「何をやっておるのだ?」

「何でもないよ。それより下ろしたほうがいい? 急に来られると対処出来ないんじゃない?」

「ふむ……では、肩の上にでも乗ろうかの」


 ヒョイッと身軽に肩に乗る黒猫。

 今更だけど馴れ馴れしいな……。まぁ良いけど。


「うわっ、これ本物?」

「本物」


 障子から手が出てくるテンプレ的なアレの中に混ざって本物の幽霊が驚かせて来た。

 俺は人間もそう出ない者も人間と同じように見えてしまうので区別が難しい。

 とは言っても気配で慣れてくるものだし、いざとなれば超解析なんてスキルがあるので問題は無い。


「そもそも、幽霊や妖怪などと呼ばれている者の殆どは負のエネルギーを糧にしておる。それは恐怖心であったり妬み、嫉妬、怒り……つまり人は餌のようなものなのだ」

「ふーん。つまり、このお化け屋敷の……統一して妖怪ってことにしておくけどその妖怪達はここが人の恐怖心が入り乱れる格好の餌場だからこんなに集まってきているってことか」

「そういうこと」


 知れてよかったなと黒猫に感謝する。

 でも何でだろうね、学校って結構ドロドロした感情が渦巻いていると思ったのに妖怪を見ていないんだ。

 そのことを伝えると、


「そんなこと聞かれても困るが……正直大勢の人がいる場所に行く妖怪なんてあまり居ないぞ? 人間が嫌いなのにわざわざ人のところに行く必要もあるまい? 餌とは言ったが普通に山で生活している者も多いのだ」

「確かに、人間と妖怪の間には深い溝がありそうだしな」


 そうしてようやく一番強い力を感じる場所へとやって来た。

 お化け屋敷のセットもここまで来るまでに見たものに比べると壮大である。山場がここということは当然、一番怖いという事なので恐怖心も多い筈だからここにいるのかもしれない。


 何も起こりそうにないな、と油断したその時、


「ーー下がれっ!!」


 突然黒猫が叫ぶ。

 ぶわっ! と悪寒がして叫ぶと同時に飛び退いて後退した。


>『危機察知』スキルを習得


 ログに表示されているが見ているほど余裕は無い。

 ギリギリ避けることが出来て眼下に迫ってきていたものがハッキリ見えた。

 それは、刀。反りとその細く鋭い刀身は日本刀だった。


「チッ! 避けたでござるか……」


 闇から現れるのは落武者のような姿をした半透明の存在。


「危ないところだった……太刀筋が遅くてなんとか避けられたな」

「……常人からしたら一瞬見えるか見えないかくらいだったぞ? 相変わらず変なやつだな」


 黒猫が俺の呟きに反応して言い返す。

 その間にも落武者は攻撃のモーションに入っていた。


「おっと! 危ねぇー」


 更なる連撃を全て躱す。黒猫を振り落とさないようにするという心の余裕は無いので実は余裕というわけでもない。

 ただ、身体能力でゴリ押ししているに過ぎないのだ。


「それにしても今回の退魔師は結構やるでござる!」

「あ? 今回の退魔師?」


 今回のと言う落武者も気になるが、退魔師ってなんだよ。

 魔を退けるって書いて退魔だろ? 陰陽師と似たようなものかな。


「そうだ。どうせ貴様も拙者を討伐する為に来ておるのでござろう!?」

「ん? いや……前の退魔師はどうした?」


 気になった質問をしつつ戦闘ではなく対話による解決を模索する。

 俺は落武者に超解析を発動させて様子を伺う。

 奴はLv.15だった。黒猫よりも弱かった。


「聞きたいか? ーー喰らったでござる」

「喰らった?」


 一瞬意味が分からなくて呆然とする。


「お主……退魔師を喰らったのか」


 黒猫が複雑な感情が篭った声音で問いかける。


「ん? 貴様はなんだ? そこの人間の使い魔でござろうか?」

「違うわ。今は短期間の契約を結んでおるだけだ」

「ほう。契約とな。まぁ良いでござる。貴様も喰ってやるでござる」


 憎悪に満ちた負のエネルギーが周囲を包み込む。

 落武者は本気で殺しに来るのが戦いの素人の俺でも理解出来た。最早対話の余地もないだろう。


「ふんっ!」


 落武者による袈裟斬りを躱す。相変わらず太刀筋はスローに見えるので避けることが可能だが、攻撃が出来ない。

 黒猫と俺は二手に分かれて落武者を撹乱する。

 当分の役目は落武者の攻撃を避けつつヘイトを稼ぐ事くらいだろう。

 後は黒猫に任せる。


「全然当たってないぞ! こんなひ弱な太刀筋で良くもまぁ、退魔師を倒せたな」

「くっ!! そういう貴様は避けてばかりござるなぁ!」


 鋭い一線。

 これも避ける。

 しかし、セットが壊れてしまった。後で弁償とか言われたら困るんだが……。


 それにしてもさっきからござるござるうるせぇ。


 イライラして来ている落武者の背後から黒猫が気配を殺して現れる。


「ぐはぁっ!!」


 一瞬にして巨大化した身体とその手によって落武者を押し潰す。


「ドレイン」


 押し潰した手が淡く光を纏い落武者から生命力や魔力といった活動に不可欠なものを奪い尽くす。


「ぐおおおっ!!」


 やがて落武者は動かなくなり黒い灰となって消えていく。


「ふぅ、ご馳走様」


 ポン、と巨大化した時と同じように元の小さな黒猫へと戻る。


「今のは?」

「落武者の生命力を奪い尽くしただけだ」

「そんな凄いスキルを何で俺が黒猫を捕まえた時にしなかったんだ?」


 あの強力なスキルが自分に掛けられたらと思うと怖いな。

 初めて会ったスーパーでの出来事を黒猫に聞いてみた。


「……使った」

「え?」

「使ったけど効かなかった。力の差があり過ぎたせいだろう」


 ふんっ! と不機嫌になる黒猫。

 つーかまじか。俺あの時、命の危機にさらされてたのか! 魔人でよかった。まぁ、魔人にならなきゃ黒猫と関わることもなかっただろうけど。


「驚きを通り越して呆れるな。その力、使いこなせていないようだったが……」

「まぁ、色々あるんだよ。取り敢えず出よう。後ろから客が来てる」


 索敵のスキルレベルが上昇したお陰でマップを見ずに接近する気配を感じ取れた。

 あと、悲鳴がうるさい。


「待て、あの刀はどうするつもりだ」

「刀? あぁ! 刀!」


 黒猫の視線の先には地面に刺さった刀。鞘も近くに投げ捨てられていた。


「どうしようか」


 拾いながら刀を鞘に収める。


「何れにせよ置いておくということは不味いだろう。……仕方ない、妾が持っておこう」


 どうやってその小さな身体で持つのだろうかと鞘に仕舞った刀を持つ俺は思う。


「一応仕舞う術はある。影に仕舞えばいい」


 顔に出ていたのか黒猫はそう言う。


「影?」


 疑問に思っていると黒猫が地面に沈み出した。

 これは影に入れるという事か?


「凄いだろう? お主の影に刀を仕舞えば良いのだ」

「じゃあ、頼む」

「分かった」


 黒猫が俺の足元に手を翳して魔力を流していく。


「刀を影に落としてみよ」


 言われた通りにする。

 すると、刀は黒猫が地面に沈んだように俺の影に消えていった。


「おお、まじで仕舞えた」

「ふふん。もっと妾を褒め讃えよ」

「黒猫様すごーい」

「そうであろう」


 そんなやり取りをしながら黒猫はもはや定位置となりつつある肩に乗りお化け屋敷を出た。

 ここに滞在した時間は約三十分くらいか。

 スマホを取り出して晴人に連絡を入れる。


 返信がすぐに返ってくる。


>『早く帰ってこーい!』


 待ってるのか、と気付いて足早に駆け出す。

 そうして俺はあの休憩所で三人を目視して申し訳なさそうに言い訳を考えながら駆け足で向かったのだった。


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