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リアルダンジョン  作者: 真城まひろ
一章 迷宮出現
7/20

1-7 噂の詮索

初めての連続投稿……。

「じゃあ行ってくるけど……頼んだよソフィー」


 玄関で制服に身を包みいつもとは違うバッグを背負いながらソフィーに家事とかやって欲しい事を図々しくも並べていく。


「はい。あとは全てやっておきますので存分に遠足を楽しんで来てください。あ、くれぐれも危険な事は避けるようにしてくださいね」


 ソフィーからの忠告。だが、何故だろう。目が笑っていない。あ、幻影だから目はないんですけどね。


「大丈夫だよ。いってきます」


 いってらっしゃい、と玄関を出てから聞こえた。

 俺は今日遠足に行く。有名と言われればそうだけど人があまり来ていないと噂の遊園地へ向かうのだ。

 学校からバスで約一時間程度。寝ていたらすぐに着く距離だしメニューを弄っていれば暇も潰せるだろう。


 それにしても今の俺の視界はいつもと違うので慣れるのに時間が掛かりそうだと思う。

 縮小化したマップと行動の履歴が分かるログ、つまりメニューを常時展開した状態で過ごしているのだ。

 追加で新たに習得していた『索敵』というスキルも重複して死角はだいぶ減っただろう。

 昨日の猫耳娘が気配を消そうが今の俺には見つけられる自信がある。


 相変わらず朝は通勤の人々で忙しなくて人も多い。

 その中で知った気配を感じて視線を向けると我らがクラス委員長の遠坂がいた。


「と、遠坂」


 ああぁ! 声が裏返ったぁ! 恥ずかし過ぎて死にそう。

 せっかく勇気を出して声を掛けたのに……。ソフィーとは普通に話せてたのに……なんでダメなんだよ。

 顔が熱い。きっと俺の顔は赤くなっているだろう。


「おはよう、上坂君」


 知らない振りをして俺の失態をスルーしてくれる遠坂は救いの女神だった。

 誤魔化しながら返事を返す。

 そしてしみじみと思った。無表情になれるスキルが欲しいと。



 学校へ着くと男女別に分かれて体操服に着替えてバスへ乗る。

 制服のままでないのは女子のスカートがアトラクションで危なかったりするからだろう。


「去年もそうだったけどさ、女子の体操服って結構身体の線が分かるよな」


 女子がいない教室内で禁断のトークが始まる。

 クラスの男子、確か石川とかいう名前の奴が本音を零すとそれに賛同した男子達の話の中心が誰が一番いい身体をしてるかというものに変わって行く。


「そんなの決まってんだろ、七瀬だよ。現役モデル舐めんなよ!」

「いや、待て! 委員長もなかなかの逸材だとは思わないか!?」

「あー、あいつも良くね? 東条。東条明日香も」


 様々な女子の名前が列挙されていく。何でそんなに女子の名前覚えてんだよ、と突っ込みたくなる気持ちを抑えて聞いていた。

 そして傍観者であることに徹して知らぬ存ぜぬで通すことに決めた。

 これから行動をともにするのに関係を悪化させるような不用意な言動や行動は慎むべきなのだ。

 まぁ、俺は三人の後ろを付いていくだけの寄生虫になる予定なのだが。


「そろそろ時間じゃないか?」


 晴人が盛り上がった話を切って時計を指さした。

 そして皆は荷物を背負ってバスへ向かっていく。相変わらず影響力が強いなと感心しつつ晴人と共にバスへ向かった。



「全員揃いましたか〜?」


 担任の佐藤香奈美先生はおっとりとしていてマイペースな人というイメージが強い。タレ目で出るところは出てるし口調も気が抜ける感じだ。

 クラスメイト達からはカナ先生という愛称で呼ばれている。


 「全員います」


 委員長の遠坂が報告する。


「じゃあ、出発までもう少し掛かるから待っててね」


 バス内はたちまち会話の声で騒がしくなり俺は眠れないと諦めてメニューを弄ろうとした。

 すると、マップが反応を示した。

 中立を示す緑点にマーカーが付いた存在。

 敵対するつもりは無いようだが間違いなく昨日の猫耳娘が俺を追って他のバスへと潜入していることが判明した。


 何やってんだあの猫耳娘は……。

 思わず苦笑してしまう。しかし、俺を追ってきているということには変わりがない訳で気を引き秘める必要がありそうだ。


「なぁ、絶叫系マシンって乗れる? 例えばジェットコースターとか」


 他事に意識を向けていると晴人に話し掛けられる。


「え? あぁ、大好物だから安心しろよ」

「お、まじか。七瀬と遠坂は?」


 後ろの席にいる二人にも聞く晴人。コミュ力高いなぁ……。


「うん。大丈夫だよー。莉乃も大丈夫だよね?」

「まぁ……大丈夫」


 すこし間があったのが気になる所だが準備が整ったようでバスが進み始めたので話は切り替えられた。



 それからバスに揺られること約一時間。


「到着でーす」


 佐藤先生の間延びした声が聞こえたので目を覚ます。

 先頭の席なのでさっさと降りるが運転手さんにはきちんと挨拶を忘れない。


「んーーっ……はぁ……。なんか身体が固まってるなぁ」


 晴人がおっさんみたいな事をしている。部活で疲れているのかもしれない。


「おっさんか。にしてもマジで車少ねぇな」

「だな。まぁ、乗り物は速く乗れるだろ」

「いや……つまらないから人が来てないんじゃないの?」


 根本的な原因を突きつけてみると晴人のテンションが下がった。

 悪いことをしたと思う。

 でも、楽しみ方は人それぞれだからな、とフォローしつつ俺達はクラス写真を撮影する為にクラスメイト達の塊に向かった。



 クラス写真を撮り終えると自由行動になる。

 昼食も園内か外のアウトレットで購入してもいいということになっているが、俺は普通に弁当である。おにぎり程度のものだがこういう所は料金が割高だから仕方ないのだ。


「まずどこ行くの?」


 噴水のある広場で四人集まって話し合う。

 俺が三人の希望を聞く。


「ジェットコースターだろ」


 晴人が言う。

 しかし、


「いやいや、まず身体を慣らさないと! 小さいアトラクションから回ろ? ね?」


 必死な様子の遠坂。

 俺は勘ぐってしまう。彼女は絶叫系マシンが苦手なのではないかと。

 そうであるなら強制はできないし、無理なら無理そう言って欲しいと思う。


「うーん。でもジェットコースター行こうか」

「えぇ〜……七海……」


 遠坂の反応がいつもとは違って面白い。一年の時はあまり関わりがなかった分新たな一面が垣間見えた。


「もしかして絶叫系無理?」

「どっちかっていうと苦手と言うか……。乗れないことはないから、さっ行こう」

「ちょっ、無理なら……」


 晴人も無理強いはするつもりは無かったようでやめておけばいいと言おうとしたみたいだが、遠坂がズンズンと地図を見ながらジェットコースターの場所まで歩いていくので言いそびれてしまっていた。


 因みに俺はマップでどこがどのアトラクションで店は何が売っているのかなども詳しく検索できるので把握出来ている。

 後ろ、五十メートル程離れた位置をキープしながら付いてくる存在も勿論把握済みだ。


>『索敵』のスキルレベルが上昇しました。


 視界の端に表示されているログにはそんな情報が流れてくる。

 スキルは使うことでレベルをあげることが出来るらしい。

 猫耳娘との隠密、索敵合戦はある意味良い鍛錬となっているようだ。


「あ、あそこね」


 しばらく歩いていると遠坂が足を止めて乗る予定のジェットコースターを見て声を震わせている。

 そんなに嫌なら辞めればいいのに。結構頑固というか後に引けなくなって自棄になってる感じだ。


「おー。結構激しそうなやつじゃないか?」

「だね〜。空いてるし早速行こっか!」


 一方で晴人と七瀬は怖いもの知らずと言うか好奇心旺盛というかテンション高めでアトラクションに並ぶ。


「遠坂……。嫌なら並ばなくてもーー」

「ううん。大丈夫。イメージトレーニングもしてきたから」


 何のイメージトレーニングか聞こうとしたら手を引かれて先に行った二人に付いていく。

 って言うか俺! 女子と手を繋いでるんですけど!!

 多分小学校の学芸会以来かな……。小学生っていい意味でも悪い意味でも感情が表に出やすいから俺と手を繋ぐ子はすこし嫌そうな顔をしてたなぁ。今でも覚えてるよ。


 だからだろうか……俺は遠坂の顔を見ることが出来なかった。


■□


「……。きもちわるっ……」


 案の定と言うべきか遠坂はグロッキー状態に陥り七瀬に介抱されていた。

 ジェットコースター前にある休憩所で休んでいるのだが、ダラダラと列を成すジェットコースターのアトラクションを見ているとやはり最初に乗らなければ乗れなかっただろうと思う。

 タイミングが良かった。しかし、遠坂にとっては引き返す最後のチャンスだったので最悪のタイミングだっただろう。


 それにしてもジェットコースターに妖怪が一人紛れ込んでいた件について。

 言うまでもなく人に化けた猫耳娘の事だ。

 キャーキャー叫んでいて隠密とかどうでも良くなったのではないかと思うくらいだった。


 楽しんだのも束の間、彼女も隠れてグロッキー状態なのが何となく想像できた。


 しばらく休憩していると他のアトラクションで遊んできた逢坂高校のジャージを来た生徒達がジェットコースターへゾロゾロと流れ込んでくる。

 その待ち時間で話されていたので少し気になったものがあった。


「ここのお化け屋敷って出るらしいよ」

「出るらしいってなんだよ。お化け屋敷なんだから出るに決まってるだろ」

「違うって、人間とか機械じゃなくて本物のお化けだよ。そのせいでこの遊園地の人気が下がってるとか無いとか……ネットで書いてあったよ」

「まじかー」


 なんて噂話をチラホラと異常な聴力が拾ってくるのだ。

 そして、今日、実際に好奇心の赴くままにお化け屋敷に入った生徒達は生気が抜けた様子で出てくるか、途中で気絶してしまったらしい。

 そのせいでこんな噂話が広く広まってきているのかもしれない。


 俺はマップを操作してお化け屋敷をタップする。

 詳細が表示されて屋敷内の状況を確認すると敵対を示す赤点が埋め尽くすように存在していた。

 最初に検索していればもっと早くわかったのだけど……使いこなすのは難しい。


 放っておくわけにも行かないので、一応何とかできそうなら何とかしようと思って立ち上がった。


「ごめん。ちょっと腹が痛くて……遠坂が回復したら回ってていいから。じゃあ、あとから連絡するわ」

「お、おう。分かった」


 この場を離れる際に隠れている猫耳娘にも手伝ってもらおうと隠れ場所へ向かう。

 逃げようとするが誘導したりフェイントを入れて捕まえることが出来た。

 ジェットコースターの反動も手助けしていたかもしれない。


「昨日ぶりだね」

「うるさい。また妾の隠密を見破りおって……。それで何の用だ? もしかしてこの遊園地に巣食う悪霊を退治しにでも行くつもりか?」


 今は人の姿ではなく猫の姿になっていたが喋れるようで俺の目的も言い当てた。


「うん。だから手伝ってくれないかな」

「ふんっ。妖怪相手に対価なしで取引できると思うなよ!」

「やっぱり? じゃあ昨日の刺身のお金払うからとか?」

「却下」


 きっぱりと断られるが大事なことだろう。妖怪にとっては関係ないことかもしれないけど。


「えー。何がいいかなぁ……。魔力を少しあげるとか?」

「何っ!? それは本当か!?」


 凄い食いつき様だが……ソフィーもレイリーも俺の魔力で強くなってたりしたから対価としては多過ぎるかもしれない。


「ふ、ふん。対価が少し多過ぎる。次も何かあれば手伝ってやらんこともない」

「おー! ありがとう。で、名前は?」

「名前はまだ無い」


 なんか猫が言うとやばいなこれ! リアル吾輩は猫であるじゃないか。


「取り敢えず猫耳娘で」

「却下! 黒猫で妥協する」

「了解。じゃあ黒猫! 行くぞ!」


 俺達は共闘関係を結び、悪霊の真実を確かめに向かうことにした。


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