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リアルダンジョン  作者: 真城まひろ
一章 迷宮出現
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1-5 名前の意味

 翌朝、目が覚めると目の前に知らない女性の顔があった。


「うわっ!! え……もしかしてソフィー?」


 驚いて勢い良く跳ね起きて壁際まで下がる。

 彼女は白金の髪にサファイアのような透き通った瞳、雪のように白い肌をしていて、間違いなく人間の姿だった。

 しかし、主と眷属の間には繋がりの様なものがあり彼女がソフィーであると確信めいたものを感じていた。


「良くわかりましたね。ソフィーです。この姿は生前の姿をしているのですが、骸骨姿というのはこの世界では受け入れられないようなので幻影魔法で姿を変えてみました」

「そうなんだ」


 骸骨姿を異世界は受け入れているのだろうかと不思議に思いつつ寝惚けた頭を覚まそうとする。


「はい。ですが、変わったのは見た目だけで触れられるとバレてしまいますが……」


 それはなんか微妙な感じだな。

 まぁ、都合よく人間に戻れるならそれは復活を意味している訳だから姿を変えられると言うだけで凄いのだろうと思う。


 「それは難儀だな。でも、生前のソフィーは本当に綺麗だね。この世界でもソフィー程の人はいないと思うよ」


 ついつい寝惚けて変なことを口走ってしまった。まだ頭が冴えていないらしい。

 急いで誤魔化そうと口を手で抑えて小声で「今のは聞かなかったことに」と言ったがソフィーは嬉しそうにしているように見える。


「お褒め頂きありがとうございます。では、朝食が出来てますので」

「……。ありがとう」


 ベッドから降りてリビングへ向かう時ふと思う。

 ソフィーが現代に来ている事に違和感をあまり感じない。この状況に現実味がないのは分かっているのだけど本当に不思議だ。


 因みに昨夜、扉を潜り世界を俺以外が越えられるのかという実験をして成功したことによってソフィーがこちらに来ている。


 そして、手伝いをしたいと言うソフィーと夕食を作り迷宮内で皆で食べたという事があったのだ。

 ケルベロスには申し訳ないが世界を越えられたとしても俺の部屋が破壊される恐れがあったので遠慮してもらっている。


 ソフィーはエルダーリッチ故に睡眠が不要で食事を食べなくても良いらしく夕食を作ったのに遠慮していたがケルベロスはペロリとソフィーの分まで食べていた。

 あの体格に量は少ないのは当然だったのだが、魔物は魔力があれば生命活動を維持できるらしいのでしばらくは我慢してもらうことにした。


「そう言えば主様。ケルベロスの名前は決まりましたか?」

「昨日遅くまで考えてたよ。インターネットは偉大だよね」

「主様の部屋にある四角い魔道具ですか?」


 彼女が言っているのは机の上にあるノートパソコンのことを言っているのだろう。

 それにしたって四角い魔道具なんて表現をするのはソフィーくらいのものだな。そもそも、魔道具ってなんだよってところから始まるんだけど。


「そうそう。あれと同じでこのスマホでも検索できるからこれで調べたよ」


 俺はポケットからスマホを取り出してソフィーに渡す。

 ソフィーは好奇心旺盛で研究者として数多の知識を欲しているため異世界の全てのものに興味津々な様子だ。


「……ふぅ。ご馳走様」

「お粗末様です。では、迷宮へ向かいますか?」

「うん」


 ソフィーが準備をしてくれている間に俺は制服に着替える。

 ノックがして返事をすると靴と木刀を持ったソフィーが入ってくる。


「ありがとう。じゃあ行こうか」


 扉を潜り抜けて階段を降りラピスの部屋に出る。


「おはよう、ラピス」

『おはようございます、マスター』


 挨拶をする。ソフィーとラピスも眷属同士で挨拶をしていた。

 このラピスの部屋には変化が生じている。

 それは部屋が巨大化しており部屋も増えているところだ。

 自室に繋がる扉を北とするなら迷宮の入口に繋がる扉を南として東側に新たな空間を造ったのだ。


 昨夜のノリと言うべきか、オルトロスを倒して得た魔力を使って眷属専用の空間が必要だろうと言うことになり造ったのはいいがそもそもケルベロスが大き過ぎてラピスの部屋に入れない事にあとから気が付くという失態を犯した。

 これには眷属達も失笑を禁じ得なかっただろう。

 以上のことから仕方なくラピスの部屋を拡大して新たに眷属部屋への道を作ったという間抜けな裏話があったりする。


 さて、気を取り直して眷属部屋への扉を開ける。

 するとーー


 この閉鎖的で洞窟のような迷宮とは思えない大自然が目の前に広がった。


 青々とした緑に照り輝く黒い太陽、川が流れて木々が生い茂っている。


 まさに楽園のような光景をオルトロス戦によって得た魔力の全てを消費して創ったのだ。


 木陰にはケルベロスが丸まって寝ていたが入ってきたのに気がついたのか駆け寄ってくる。

 なんか健気で萌える。見た目は子供が見たら泣くレベルで怖いけど。

 俺的には凄いかっこいいと思う。厨二心が燃え上がる。


『おはようございます、ご主人様』

「おはよう。いきなりだけど名前付けようか」

『あ、ありがとうございます!』


 感極まった様子で伏せをするケルベロス。凄い可愛い。


「君の名前はレイリー。勇敢な人という意味があるんだよ。凛々しくて女の子にも似合う名前だと思うんだけど」


 まぁ、人ではないけど気持ちがあればいいだろう。

 すると……ソフィーの時と同じく魔力がレイリーに流入しているようで、


『あぁ!! 凄い魔力が私の中にっ!』


 え……。なんか凄い艶めかしい声をしているんですが……。


「大丈夫……?」

「主様、恐らく聞こえていないです」


 心配をして声を掛けるが……ソフィー曰く聞こえていないらしい。

 そんなにやばいのだろうか。


「どういう状況?」

「溢れる魔力に身体が追いついていないだけだと思います。もしかしたら種族進化をするかもしれませんね」

「種族進化?」

「はい。ある条件を満たすことで種族が変わるのです。その条件とは一説には魔力の上昇やLv.の上昇と言われています。ただ全ての個体が同じ条件で進化する訳では無いので微妙なところですが……」


 へぇ……と声が漏れた。

 ソフィーはやはり研究者なだけあって知識が豊富だ。


「もしかして俺が人間から魔人になったのも魔力の上昇ってのが関係してんのかな」

『はい。私が持ちえるほぼ全ての魔力を消費して種族進化を促しました』

「ほう。主様が人間では無いと思ってはいたがまさか魔人とは……それはあの膨大な魔力とその質に納得がいきますね」

「どういう事だ?」


 魔人の事を詳しく知っていそうなソフィーに好奇心で聞く。


「魔人とは人間の姿に近い魔力の塊と言われている。魔人という種族自体がこちらの世界の一般常識では魔人という種族自体が眉唾物なのでな。一説には魔に落ちた人間が成ると言われているのだ」

「なんか楽しそうに話すね。口調もだいぶ砕けてるし。そっちの方が馴染みやすいかもな」

「そ、そうですか……」


 知識を披露するソフィーはそれはもう嬉々としていて聞いているこちら側も楽しくなってくる。

 それにしても本当に近いうちにソフィーから常識とか教わって置かないと異世界を旅したり冒険が出来ない。まぁそれ以前に迷宮を安定させないといけないのだが。


「あ、レイリーが黒い霧に包まれて……」


 レイリーの様子が一変して心配になる。

 黒い霧に包まれて球体になっていた。それはまるで繭のようにも見える。


『どうやら進化が始まったようですよ』


 ラピスが言うので俺は見逃さぬように見守る。

 超解析のスキルを使うとーー


 ステータスの一部分に『進化待機中』と表示されていた。

 しかも進化先の種族が『ガルム』となっている。

 その事をソフィーに伝えると、


「ガルム……ですか? 確かフェンリルと並ぶ神獣だった気がします。狼種の中ではいずれも最高位種族だと思います」

「そんな凄いのか……」


 オルトロスに追い込まれていたあのケルベロスが最高種族に進化するとは……これ以上ない頼もしさだ。

 そして、進化が最終工程になったのか黒い霧の繭に亀裂が入り一気に四散した。


 現れたのは、巨大な黒い狼。

 特筆すべきはケルベロスの時の三つ首が通常の狼と同じく一つの頭になっており、胸のあたりには血のように赤い毛が生えていた。


「アォォォォォーーーーンッ!」


 レイリーの遠吠えがこの広大な草原に響き渡る。


「レイリー!」

『ご主人様。ご迷惑をお掛けして申し訳ありません』

「気にするな。それにしても大きくなったな。毛並みも艶々してるな」


 飼い犬を撫でるような感覚で撫でている自分にハッと気がつき、ごめんと手を離した。


『いえ、存分に撫でてください』

「いいのかっ!」


 最近はモフモフ成分が足りていなかったので存分にワシャワシャとモフモフ成分を補充する。

 それにしても凛々しくてカッコイイなぁ。


 今時は物の擬人化とかで何かと擬人化が流行ってるらしいしレイリーが擬人化したら超美人でカッコイイのだろうと想像する。


「迷宮主になって人生変わったなぁ……。まだ、三日くらいしか経ってないけど、濃厚過ぎてもう何年も経っている気がしてくる」


 本当に思い返せば……あれ? そこまで濃くもないか。

 魔人になって、迷宮が襲撃されて、眷属が増えて……いや結構濃いな。濃いよな!


『マスター……』


 ラピスが俺を呼ぶ。

 どうしたのかと聞くと、


『時間が押してます。遅刻ギリギリです』

「まじか!」


 俺は名残惜しくもレイリーから離れてスマホを確認すると本当にやばい時間だった。


「という訳で俺は学校に行きます」

「あっ。主様、これをお持ちください」


 そう言ってソフィーは空間に手を突っ込んだ。


「何それ……」


 空間が割れてまるで異空間にでも手を突っ込んでいるかのようだ。


「これは宝物庫というスキルです。異空間に物を収納できる便利なスキルですよ。あ、ありました」


 そう言って取り出したのはいわゆるシルバーアクセサリーと呼ばれるものでチェーンに十字架が付いているシンプルなものだった。


「確か主様は解析スキルが使えますよね? 詳しくは後から見てください。一応、守護の魔法が付与されてますのでいざと言う時に役に立つかも知れません」

「ありがとう。じゃあ行ってくる。迷宮は任せたよ」

「お任せ下さい」

『お任せ下さい、ご主人様』


 別れを済ませて急いで学校へ向かう。

 ソフィーから貰ったネックレスを付けて。

 学校ではアクセサリーとか駄目だった気がするけど何があるかわからないし、付けててもバレなければいいよね。


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