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リアルダンジョン  作者: 真城まひろ
一章 迷宮出現
4/20

1-4 眷属召喚

出来れば週一で投稿出来ればいいなと思ってます。

では、四話をどうぞ。

 虹色の輝きが満ちる六畳間の最深部。

 そこは地上七階にある悠斗が住むマンションの一室に繋がる世界と世界をつなぐ場所。

 偶然か必然か悠斗の部屋のクローゼットと同じ位置に出現した扉。

 悠斗は走ってそこへ向かっていた。



 ラピスは悠斗からの命令を遂行するために全魔力を消費してリッチを召喚しようとする。

 部屋には赤黒い魔法陣のようなものが展開されて魔の気配が満ちてくる。


『……イレギュラー発生。魔物はエルダーリッチと確認。対価の魔力が圧倒的に不足』


 ピシピシッ!

 迸る赤黒い魔力が空間を揺らし亀裂が入る。

 亀裂は更に大きくなり空間に綻びが生じ始める。


 そして、その綻びから現れたのは漆黒のローブを纏う“死”を具現化したかのような存在だった。


「面白そうな魔力を感じてみれば、迷宮の召喚魔法だったか。いい退屈しのぎになると思ったのだが……」


 ローブから見え隠れするのは骨。白い骸骨の双眸からは蒼白い光がチラついている。

 落胆するようにするエルダーリッチは自分を召喚した本体を見つめた。


『眷属化を跳ね返しましたか』


 それはリッチの上位種であるエルダーリッチが格の違う存在だと分かる瞬間だった。


「ふん。貴様程度の迷宮核ダンジョン・コアなら造作もないわ。今すぐにでも破壊してやろうか」


 一触即発の空気が流れる。


『いえ、退屈しのぎを探しているそうですね。では、異世界人が迷宮主ダンジョンマスターの眷属になるのも悪くないのでは?』


 ラピスは悠斗の“迷宮の守護を最優先に”という命令を遂行するためにマスターを賭けに出してでも迷宮守ろうとしていた。


 リッチとは魔法使いの成れの果て。つまり研究者だと言うこと。


 異世界人などという貴重な研究対象が目の前にあるというのだから断るという選択肢は研究者として死んでいるに等しい。


「ほう。異世界人の迷宮か。これは興味深い。私も生前は大魔道士と呼ばれ勇者と共に魔王を討伐したこともあったが異世界人というのは面白い。興味が尽き無かったのを覚えている」


 懐かしむような様子で語り出すリッチ。そして続ける。


「いいだろう。前金として異界の知識を貰おう。しかし、肝心の迷宮主が居ないようだが……」

『それについては心配いりません。私がマスターの記憶を共有し保有していますのでそれをあなたに対価として差し出せば問題ないでしょう』


 ラピスは悠斗を魔人に適応化させた時に得た記憶データを対価に払うと言うのだ。つまり、悠斗の全てである。

 但し、過去のという注釈は付くだろう。

 悠斗は今でも前に進んでいるのだから。


「なるほど。優秀な迷宮核だ。もしかして名前でも貰ったのか?」

『えぇ、我がマスターは偉大ですので』


 名前はその者を表す半身である。

 それを名付けるということはその者をその者として確立するとても重要なことなのだ。


「どうやらそのようだな」


 名付けの重要さは両者の共通理解だった。


『では、私に触れてください。前金として払う知識は限られますが、マスターに頼めば追加で払うので了承してくださいね』

「……仕方ない。了解した」


 いつの間にか立場は逆転していた。

 ラピスは黒い手袋をしたリッチの手が触れられたのを確認して記憶を讓渡する。

 讓渡する内容は悠斗が好きだったアニメ、ゲーム、漫画、ライトノベルなどの所謂サブカルチャーに関するものだった。


「おぉ……なんだこの魔道具は……!! 映像をコントローラーで操作しているだとっ!?」


 恐らくリッチはゲームの記憶を見ているのだろう。

 この世界にはない技術と文化に驚きを隠せない様子だ。


「ふ、ふんっ。では、眷属化を受け入れる。名実ともに私は迷宮主、ユート・ウエサカ様に仕える眷属だ」


 興奮した様子で宣誓すると展開していた赤黒い魔法陣が収束してリッチに溶け込むようにして消えた。


『完了です。現在の状況についての記憶も与えました。マスターの要望に沿うように遂行してください』

「了解した」


 早速、リッチはラピスに背を向けて二体の魔物が戦う入口の洞窟へ通じる扉を透過して進んでいく。

 入り組んだ迷宮内をなんてことのないように突き進んで、ケルベロスと遭遇する。


「そこの子犬ケルベロス。主の命で君を助けに来た」

「グルルルルルルッ!」


 リッチは肉を抉られて血を流し弱っているケルベロスに声を掛けた。

 しかし、気配を消していたためケルベロスは気が付かず、気が付くと威嚇をしてきた。

 どうやらケルベロスには全てが敵に見えているらしい。

 それに、相手がリッチなので尚更警戒していた。


「安心したまえ。私は対話を望んでいる。その気になれば一瞬でお前を消せる」


 死を直感させる鋭すぎる威圧がリッチから一瞬放たれてケルベロスは震えることしか出来ない。

 その様子はまさに子犬同然だ。


「念話は使えるだろう? 何故オルトロスと戦っている?」

『……家族を皆殺しにされた。これは復讐だ……』


 念話による対話が始まる。


「は、はははっ。笑わせないでくれ……。復讐ならば何故死を恐れて逃げている。地獄の番犬が聞いて呆れるわ」


 リッチの態度が豹変した。ケルベロスの答えに気が触ったようだ。


「ふんっ。まぁよい。我が主の理想通りに事を進めるだけだ。復讐する機会は与えてやろう」


 ケルベロスは何も答えない。

 ただ静かに了承の意を示すように頷いて前に進む。

 すると奥から振動が伝わってきた。どうやら入り組んだこの洞窟で暴れながらケルベロスを探しているようだった。


「騒がしいな……」


 緊張感が無いリッチに比べてケルベロスは筋肉が強ばって警戒心を剥き出しにしている。

 そして、奴は姿を現した。


『貴様……っ!』

「まぁ待て。私が少し手心を加えよう」


 その様子を見ていたオルトロスは、


『助けを求めたか……。無様だな』

『くっ……』


 怒りを押し殺すかのような唸りがケルベロスから漏れる。

 リッチはその様子を見て告げる。


「オルトロスよ。我が主の命は此奴を助ける事だ。手を引くならば見逃してやるが、どうする?」


 ケルベロスは話が違うぞ、という顔をして避難の視線を向けるがリッチは見向きもしない。


『愚かな。獲物が増えただけの話だ』

「そうか……」


 リッチは手を出し指をオルトロスへ向けた。


ーーグシャッ!!


 何の前触れもなくオルトロスの左前足がぐちゃぐちゃに弾け飛んだ。

 否、リッチは気配を察知されることなく極初級なダークボールの魔法を放ったのだった。


 闇を圧縮したその小さな球体は強靭な肉体をいとも容易く破壊する。


『グァァァァァァッッ!!』


 激しい痛みによる苦痛の叫びが迷宮内に反響する。

 空気が震えるかのようだ。


「貴様は選択を間違えた。力の差を理解できない愚かな犬っころよ。貴様に地獄というものを見せてやろう」


ーー『グラビティ』


 リッチは更に魔法を発動させた。

 途端にオルトロスは地に伏してしまう。

 地面はそこの場所だけ重力が異なるかのように陥没しオルトロスからは骨が砕ける音が生々しく響く。

 圧迫されて血が吹き出てくる。

 まさに地獄絵図というものはこのことを示すのだろう。


「おっと、やり過ぎた。ほら、ケルベロス。復讐をするといい」

『……』


 ケルベロスは身動き一つしないオルトロスに煉獄の炎を吐き出した。

 今度こそオルトロスは身体を消し炭にされ死んだ。

 そしてその血肉は迷宮へ溶けるようにして吸収され魔力となる。


「終わったか」


 虚しく反響する終わりを告げる声。

 リッチはオルトロスが消えてなくなるのを見届けるとラピスのいる方へ帰っていく。

 その後ろ姿をケルベロスは一歩後ろで追いかけた。


■□


 焦る気持ちが強いせいか今朝は息を乱さなかった道程を息を乱しながら走ってようやく玄関の前に着いた。

 焦りと呼吸を落ち着けつつ慎重に鍵を開け靴を脱いで手に持って自室へ向かう。

 クローゼットは閉められている。その横には特に活躍もしていない木刀が掛けられているのでそれを手にしてクローゼットを開けて迷宮への扉を潜る。


 タタタッと軽快な足音を響かせて地下に着く。


「どうなった!?」


 俺は着くなりラピスに聞いた。


『問題なく解決しました。ですが……』


 落ち着いた声音だったが何やら別の問題があるようだ。

 何が起きたのだろうか。まさか、リッチが相打ちしてしまったのか?


「おぉ……主様」


 突然現れたのは漆黒のローブを纏った骸骨だった。

 扉を透過しているのは能力だろうか。それにしてもどこから声をだしているのか気になるところだ。

 しかも俺のことを主様と呼んだということはこの骸骨が召喚したリッチということだろう。

 リッチは俺の前で跪いて頭を垂れた。


「……召喚されたリッチか?」

「はい。ですが正確にはエルダーリッチという種族です。リッチの上位種族であります。Lv.250で嘗ては魔王討伐の任を請け負っていたこともありました」

「Lv.250!?  魔王討伐!? ラピス……こんな大物とどうやって契約したんだよ」


 訝しげに俺はラピスを見つめた。


『……申し訳ありません。実はーー』


 そう言って経緯を説明するラピス。

 その内容は驚くべきものだった。


「俺の記憶を対価に眷属になったのか……。まぁ、俺程度の記憶や知識ならいくらでもあげるけど」

「本当か!? あ、いえ……こほん。ありがとうございます、主様」


 我を忘れて喜んだエルダーリッチを微笑ましく思いつつ眷属にしたケルベロスを一目見ようとして怪我の程度が気になった。

 あれだけの激闘を繰り広げて無傷というわけにもいかないだろう。


「怪我の程度ですか? 肉を抉られていましたが治癒魔法で治しておきました」

「そうか、やっぱり召喚して良かったよ。迷宮を守ってくれてありがとう」

「眷属として当然の事です。それと、主様が眷属に頭を下げるというのはあってはならない事ですよ」

「いや、感謝しているから伝えるのは当たり前だよ。それにできれば対等に接して欲しいしな」

「主様……」

『いい感じのところすみませんがもう一人の眷属が待ちくたびれているので行ってあげてください』


 ラピスからの忠告でハッとなり新たに眷属となったケルベロスに会いに行くことにした。

 

「おぉ……迫力あるなぁ」


 扉を開けて直ぐにある少し開けた場所にケルベロスはいた。

 漆黒の毛と三つの頭に尻尾は蛇のようになっている。

 映像で見たよりも迫力が段違いだった。


『ご主人様。助けていただきありがとうございます。眷属としてご主人様をサポートさせていただきます』


 ラピスと同様に念話で話し掛けてきた。

 礼儀正しい様子だ。

 それにしてもエルダーリッチとケルベロスは声質的に女性なのだろうか。


「あぁ、よろしく。怪我は大丈夫そうで良かったよ」

『お気遣いありがとうございます』

「どうも。……さて、一応危機は去ったんだが安定した迷宮運営をするには眷属との親睦を深めなければ始まらないということで名前を聞きたいんだが」

「私は生前はオリヴィアという名前がありましたが……主様に名前を付けて欲しいと思います」

『我も名前を付けてもらいたい、です』


 俺は今朝ラピスに名前をつける時に魔力と思われる不思議な力が抜けていく感覚を思い出す。回復はしていると思うが一気に二人はきついだろう。


「取り敢えずエルダーリッチのほうから名前を付けるよ。ケルベロスのほうは明日の朝でいいかな」


 文句はないようで両者ともに了承した。

 しかし、ラピスは俺の体を案じてかもう少し日にちを開けるべきだと提案してくれたが時間もなく、迷宮主になって初日にこれだけの騒ぎになっているので地盤は早く固めたいのが本音だ。


 早速、エルダーリッチの名前のを考えていく。


「オリヴィアって名前的に女性だよね?」

「そうですよ」

「そうだなぁ……直感的に思い付いたのはソフィーって名前なんだけど。うわ、 何かすごい力が抜けてく……」


 それと同時にソフィーはとても濃密な力を纏って俺にまでピリピリと肌を焦がすような感覚を与える。

 暫くするとその感覚は無くなって穏やかな気配が戻ってくる。

 気のせいかもしれないがソフィーから感じていた死の気配が薄らいだ気もする。


「ありがとうございます! 主様。さすが異世界人と言うべきか魔力の質が桁違いで力が漲ってきます」


 どうやら凄いことらしい。

 知らないことが多すぎてソフィーから学ばないといけないと思う。


「良かったよ。俺は少し疲れた……はは。まぁ、よろしくソフィー」

「はい。主様」


 その一瞬、骸骨姿のソフィーが生前の姿かは分からないが美しい生身の人間が見えた気がした。


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