1-3 侵入者
スローペースで書いているので更新は遅いですが気長に待ってくださるとありがたいです。
では、三話をどうぞ。
昼休みも六時間目も掃除も終わって七時間目。
クラスで遠足について色々決める為、クラス委員の遠坂が担任の佐藤香奈美先生に指名されて彼女を中心に話し合いが行われていた。
クラスの様子を見渡すとやる気の無さそうな人も何人か居て心ここに在らずというような人や他事をしている人もいる。
「じゃあ明後日の遠足の班とバスの座席を決めようと思います。原則一人行動は禁止されているので二人以上で班を作ってください」
遠坂の忠告にやる気の無さそうな人達が眉をひそめた。
どうやら一人で行動するつもりだったらしい。
行動パターンが似ているから一緒の班になればいいのにと思う。
まぁ、それが出来たら一人で行動するつもりではなかっただろうけど規則は一応守って欲しいものだ。自分が言えることでは無いのだけど。
「十分間時間を取ります。席を立っていいので相談してください」
クラス内は既に騒がしかったが許可が降りると更に騒いで班を作り始めた。
ぞろぞろと席を立ち友人達の元へ向かう人々。
その流れに乗じて晴人と七瀬、遠坂が俺の机の周りに集まってきた。
俺が動こうと思ったのにこの構図だと俺が中心人物みたいだ。
集まってすぐに一人の女子がやってきた。
「ねぇねぇ七海。もしかしてもう班決めちゃった?」
雰囲気的にリア充感を醸し出している若干茶髪の女子が七瀬に話し掛けて、班にどうかと勧誘してきた。
しかし、七瀬は俺らを一瞥すると
「うん。もう班決まってるの。ごめんね、早希ちゃん」
「あー、そっか。しょうがないね。分かった」
早希と呼ばれた女子は残念そうにしてタタタッと小走りに班に戻って行った。
「それにしても案外速く決まったようだね」
晴人は周りを見てそう言う。
確かに大体班は出来上がっているようだ。
始めに見たやる気のない人たちも二人や三人ほどで固まっているのがわかる。
「晴人くんの言う通りだったね」
七瀬は昼休みに晴人が言ったことを思い出して凄いねと褒めた。
「あはは。たまたまかな」
晴人は照れ隠しで頭をかいている。
「私としては早く終わるからいいんだけどね」
クラス委員の遠坂がそう言う。昼休みにも思ったが面倒な仕事をする遠坂には頭が上がらないよ、と伝えようとしたところ十分というのは短くて伝える前に遠坂は前へ戻り二人も席へと戻って行った。
同じく他の生徒も席へ着く。
「班が決まったので次はバスの座席を決めたいと思います。決める方法はどうしますか? 自由に決めるか、くじで決めるか」
遠坂は選択肢を与えた。決定は多数決をとるつもりのようだ。
クラスメイト達は近くの人と相談すると、多数決は自由に決めるに過半数の票が入った。
そして、先ほどのように席を立って相談して遠坂が黒板に綺麗な真っ直ぐな線で書いたバスの座席の簡略図に出席番号と名前を書くということになった。
「悠斗ー隣になろうぜ」
「いいよ」
晴人が近寄ってきたので言葉に被せるようにして即答した。
「じゃあよろしく」
黒板に書く係は晴人に任せた。
席の場所もどこでもいいと伝えて席へと戻る。
待っていると人が溢れて見えなかった黒板が次第に見えてくる。
席は右側の前の方で後ろには遠坂と七瀬のペアが座ることになっていた。
それよりも俺らの列自体が女子ばかりで左側の列は男子ばかりと典型的に偏っている。
流石に女子と女子の間の席という訳では無いので大丈夫だ。頼んだ身としては文句は言えない。
遠足に関して決めることは決めてしまったので佐藤先生が遠坂とバトンタッチをして前に立つ。
「はい。じゃあ、前から言っていた進路希望調査の紙を提出してください」
進路希望調査の紙を後ろから裏向きで集めて集計して斉藤先生へ出す。
ちなみに大学進学を考えているので興味がある大学を少し書いて出した。
晴人はどこ志望なのだろうか。
七瀬はやはり芸能界で活躍しているのでその道でやっていくのだろうか。
遠坂は何か目標とか夢とかあるのだろうか。
進路関係になると依然として自分が何をしたいのか分からなくて他の人を参考にしたいのだが、自分のことだからやはり自分で決めないと意味が無いだろう。
進路希望調査の紙を提出すると、進路についての話が始まる。
一方で俺は話を聞きながらラピスに言われたメニューについて考察していた。
昼休みと授業の間の休みにメニューを発動してどのようなものなのかを確認をした。
発動を念じると半透明なボードが視界に現れていくつもの項目が表示される。
それはさながらゲームのメインメニューのようで、
「ステータス」「ストレージ」「迷宮」「超解析」「マップ」「ログ」
などが主要項目にあり、まだ未確認の能力も多くあるだろう。
メニューは他人には認識出来ずに晴人の前で使っても問題ない事を確認済みである。
取り敢えずステータスを開くと新たに半透明なボードが現れて俺のステータスと思われるものが表示される。
名前:上坂悠斗
種族:魔人
性別:男
称号:迷宮主
レベル:1
HP:2500
MP:6666
筋力:689
耐久:756
敏捷:699
器用:1480
幸運:77
スキルポイント:66
ユニークスキル:「魔眼」「言語理解」「メニュー」
スキル:「魔力感知Lv.1」「飛翔Lv.3」「手加減Lv.5」「念話Lv.8」
予想通りと言うべきかスキルという欄に俺の能力が表示されていた。
ユニークスキルというのは恐らく固有能力ということであるのだろう。それが三つも有るのはすごいことだと思う。
更にメニューについては様々な能力の集合体なので実質的には三つ以上の固有能力を持っているということになるだろう。
スキルには興味深いものが沢山あって詳しく調べたいことばかりだが深く掘り下げるには時間があまりにも無さすぎるので後回しにする。
能力値については比較対象があると分かりやすいので、クラスメイト達のステータスを見ることにした。
これに使うのはメニューの付属能力で『超解析』というスキル。解析系スキルの最上位らしいので対象のステータスを見ることも出来る。
この情報もメニューを少し解析して得たものだ。
そして、見るのはやはり晴人だろう。
名前:清水晴人
種族:人間
性別:男
称号:主人公体質
レベル:0
HP:25
MP:1
筋力:15
耐久:12
敏捷:16
器用:14
幸運:99
以上の結果となった。
レベルは0で能力値は軒並み低い。正直人間は脆いということが分かる。
しかし、幸運値だけは俺を抜いている。
昔から運もいいんだよなぁ……。
それと突っ込みたい称号、主人公体質。清水晴人を表現するならこれ以上ない適切なもののような気もする。
誰が称号を与えているのか知らないがグッジョブ。
比較対象が晴人だけではデータが取れないと思ってクラスメイト達を片っ端から解析していく。
個体差はあるものの殆ど似たような結果だった。
しかし、晴人がクラス内で一番幸運値が高いことはわかった。
もう宝くじ買ったら当たるんじゃないの。それか競馬とか賭け事したら強そう。
さて、次は何の能力を試そうかなと思索しているとーー
『マスターっ! 侵入者です!!』
唐突に入ったラピスからの緊急連絡に驚愕した。
いや、待てと心を落ち着かせる。想定していたことじゃないか。何のために学校に来る前に罠を設置したのか忘れたのか。
自分に言い聞かせて一度深呼吸をする。
『ラピス。侵入者は何人?』
『オルトロス一体とケルベロス一体です』
え……。今なんと仰ったのでしょうか。
オルトロスにケルベロス? それって何かやばそうなんですけど。
『やばそうではなくやばいです。毒針と毒槍の罠では対抗不可能です』
『おぃぃぃー! 防衛率80%はどこいったんだよ!』
『それはゴブリンを基準としたものですので……』
ゴブリンって……ゲームでも最弱種のモンスターだろ。それを基準にしたら迷宮とかすぐに落ちるに決まってる。
そもそもゆ雑魚キャラで定番のゴブリン相手に防衛率80%って低過ぎるだろ。
『で、どういう状況なの?』
『いま映像を送ります』
映像? そんなものまであるのか、と疑問に思っているとメニューからボードが現れて迷宮の様子が映されていた。
『うわっ、こんなことも出来るのか』
『はい、魔力は少し使いますけどね』
『それであの迷宮の入口で怪獣大決戦をしているのがオルトロスとケルベロス?』
『はい、二つ首がオルトロスで三つ首がケルベロスです』
映像の質は良くてはっきりと見える。
オルトロスは体毛が森に擬態するかのような深緑色と所々に黒い体毛が迸っていてケルベロスは地獄の番犬と呼ばれるにふさわしい漆黒の体毛だった。
それにしても昔、神話を少し調べたことがあってネットによるとオルトロスとケルベロスは兄弟でケルベロスの方が上だったような気がするんだが、現状ではオルトロスが優勢のようである。
『どうすればいい? この場から罠の設置は出来るのか?』
『可能です。罠を設置しますか?』
『あぁ、だけどアレを倒すとなると……いや、ケルベロスにオルトロスを倒させればいいのか。普通は優勢な側を手助けすれば早いけど上手く行けばケルベロスを眷属に出来るかもしれない』
『全てはマスターの思うままに。ご命令を』
考えろ。考えろ。
オルトロスを劣勢にするための策を。
『どれくらい魔力がある?』
『残り魔力4万です』
『結構あるな。ガンガン行くか』
作戦名はガンガンいこうぜ! で侵入者を阻む。
戦闘中の二体は更に迷宮の深部へ向かってくるので……。
『オルトロスに照準を合わせて壁を出現』
『了承。消費魔力450』
映像でオルトロスが地面から隆起した壁に阻まれて衝突する。
しかし、数度の突進を受けると壁はバラバラに崩れてしまった。
流石に何者かの横槍が入っているのに気がついてイラついている様子のオルトロスは更に暴れて狭まった洞窟を壊しそうだ。
『更に二重の壁を出現』
『了承。消費魔力900』
洞窟を塞ぐようにオルトロスの目の前へ出現させる。
『立て続けに落とし穴とその中に強酸を設置』
『了承。消費魔力1500』
『グォォォォォォーーーンッ!!』
ケルベロスはオルトロスから逃げるように更に奥へ進んでいるがオルトロスは俺の罠に足止めされている。
二重の壁を破壊したオルトロスは勢い余って落とし穴に落下。
強酸で徐々に溶かされるのを待てばいいかなと思っていたら自力で這い上がってきた。
無傷とは行かなかったようでところどころ肉がただれている様子だ。
それにしてもしぶとい。柔な罠でどうこうするのは悪あがきにしかならないかもしれない。
『ぐぅ……どうしようか。魔物の召喚でどうにかなるのか?』
『残りの魔力を全て使えば何とかなるかも知れませんが……』
『知性があって魔法も使える現在召喚できる最強の魔物は?』
『リッチです』
リッチと言えば死霊系の魔物で魔法使いが不老不死を目指した末路とかそう言う逸話があった気がする。
『それを召喚しよう。ラピスが魔力が枯渇するとどうなる?』
『念話と映像が切れます。魔力が回復するまでは罠の設置もできません。リッチを召喚しますか?』
『……あぁ、頼む。リッチにはケルベロスを味方するように伝えてくれ。あと、敵対したら殺しても構わない。第一優先は迷宮の守護だ』
『了承。全魔力を消費してリッチを召喚』
それ以降映像はプツリと切れて念話も繋がらなくなった。
心臓がバクバクと鳴っているのが聞こえる。
俺は迷宮が危機的状況にあるにも関わらず学校で遠くから援護することしか出来なかった。
情けない。迷宮主として役目を果たせていない。
「悠斗くーん。皆、君を待っているんだけど帰りの挨拶をしようか」
佐藤先生が俺の名前を呼んだ。気が付くと皆は席を立っており、荷物もまとめている。
時計を見ると時間も結構経ってしまっていた。集中し過ぎて時間を忘れていた。
「あ、すみません」
サッと立ち上がって挨拶をする。
帰れるのなら早く帰ろう。
状況が気になって仕方がない。
「悠斗、大丈夫か? 体調悪いのか?」
「ん? あぁ、大丈夫。眠くてボーッとしてただけだから」
「おいおい。頼むよ? 遠足来れないとかは無しだからな」
「大丈夫だよ。じゃあ、俺急いでるからじゃあね」
手を振って俺は早歩きで教室を出て校舎を出る。
人目がなくなった頃に走り出す。
結末がどんなであろうと俺は受け入れられるだろうか。
そんな心配事がいくつも募りながら帰路についた。
斉藤先生→佐藤先生に名前を変更しました。