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リアルダンジョン  作者: 真城まひろ
一章 迷宮出現
2/20

1-2 新米迷宮主の日常

誤字、矛盾点等を改訂しました。


「うわっ! 時間やばいっ!!」


 迷宮から帰還した俺は家中を慌ただしく駆け回る。その中でちらりとと確認する時計は朝の七時を指していた。

 どうやら迷宮内で気を失った時に一日が経過していたらしい。スマホの日付も次の日になっていた事も確認済みだ。


ーーバキッ!


「あぁっ! ドアノブがっ!!」


 魔人の身体になって力の制御が上手く出来なくて盛大に折ってしまった。


 日常生活に支障が出てる。多分人間の腕とか簡単に折れそうなんですけど……。


 もう今日は学校休んだ方がいいんじゃないの? と俺の中で囁いてくる心の声を振り払って、どうせ他人と関わらないから大丈夫だと自分に言い聞かせた。


 風呂に入ったり、菓子パンを食べたり、学校の準備をしたり、全ての準備が完了したので家を飛び出す。鍵を閉めたか入念に確認すると同時に鍵を壊さないように慎重に行動する。


 今度こそ俺は駆け出した。

 エレベーターを確認したが一階に止まっていて上がってくるのに時間がかかるだろうと思い階段を選択する。

 マンションから出て駅まで陸上選手も真っ青な速度で走る。

 但し人外の速度は出していない。目立つのは嫌いだし、翼があるからと言って飛ぶのは以ての外だ。


 俺は、汗一つかかずに電車へ余裕を持って乗車する事が出来た。


「あ、上坂君。おはよう」


 声を掛けられてそちらを向けば同じクラスの女子、遠坂莉乃とおさかりのがいた。

 黒縁の眼鏡とセミロングの髪をおさげにしている委員長のオーラを纏った根っからの委員長キャラである。


「おはよう。今日は随分と遅いね」


 俺が尋ねると彼女は「あはは……」と苦笑いしながら寝坊しちゃったのと答えた。

 遠坂が寝坊とは……珍しい事があったものだ。今日は季節外れの雪でも降るかもしれない。


「そういう上坂くんも遅いけど、どうかしたの? 一年の時は学校に来るの早かったよね?」


 そう、確かに俺はそうだった。家にいても暇だから早く学校に行って携帯を触るか課題をするか、読書をするなどやることは沢山あった。

 また、俺が朝学校に行くのが早かったのは誰もいない教室というものがなんとも気分が良くてそれを味わいたい為に早く登校していたという面もある。


「まぁ、同じく寝坊です」


 まさか家に出現した迷宮で気を失ってましたなんて言えるはずもないので差し当たりなく答える。それに、寝ていたのは事実だ。


「あ、やっぱり? 新学期早々気が緩んでるから気を引き締め直さなきゃね」

「そうだね」


 会話終了。

 コミュニケーション能力の乏しい俺にはこの程度の日常会話が限界だということらしい。ましてや相手は女子だから尚更無理がある。


 しかし、沈黙は嫌いじゃない。今時の若者は、はしゃいだり喋り倒さないと安心出来ない性質があるので合わせるのがむしろ大変だ。


ーー『逢坂駅〜』


 数駅乗り過ごして目的の駅に到着すると通勤中のサラリーマンなどの波に流されながら遠坂を波からさりげなく守りつつ降りた。


「凄い人だね」


 いつも経験しているはずだがこればかりは彼女も慣れない様子だ。


「まぁ、朝の電車は辛いよね」


 だよねー。と共感しつつ学校への道のりを二人で歩いて行く。

 女子と二人で歩くという事すら俺にとってはハードルが高い事だ。

 しかし、魔人になった俺のスペックなら大抵の事は出来るはずなのだから勇気を出せさえすればいいのだ。


 暫く歩いていると俺たちと同じく寝坊か何らかの理由で遅れている生徒達を見かけるようになってきた。


 遠坂は俺と歩いているのを他の人に見られたくないとか思ってるのかなと少し自虐的になりつつ気が付いたら遅刻ギリギリの時刻で、予鈴のチャイムがなったのが聞こえたので慌ただしく駆け足で校舎へ入っていった。


■□


 授業中に板書を写しつつ別のノートに今後、迷宮の運営をするにあたっての計画を立てていた。


・迷宮拡大


・防衛設備


・魔物召喚


・異世界調査


 etc………。


 ノートに書き出すと限りがないので取り敢えず優先事項として迷宮拡大と防衛設備にペンで丸を書いた。


 迷宮の拡大といえば設計図のようなものも必要になるかもしれないと思って理想を書いてみる。

 俺の理想としてはゲームとかで良くありがちなボスを倒した後に現れるラストダンジョンや始まりの街に存在する邪神の神殿で攻略難易度が超絶難しいものにしたい。


 かと言ってそれ達成するには途方もないほどのコストが掛かってしまうので現状で出来る範囲のハードな迷宮を創りたい。


 まずは迷路式で一定時間になると変動したりするのは定番だろう。

 俺が侵入者なら間違いなく厄介だと思う。

 更に先に進むには扉に仕掛けた謎解きを解かなければならないという条件を追加すればまず間違いなく人間の侵入者を撃退できるだろう。

 謎解きに使う文字は異世界の言語だから解読不可能という鬼畜仕様。


 ぐふふふふ……。夢が広がるなぁ。


「6番、上坂くん。二段落から読んでください」


 妄想を垂れ流していると不意に当てられて現実に戻ってくる。

 反応が薄い俺にクラスメイト達の視線が向けられた。

 だがしかし、授業にも意識は少しだけ向いているので何をすればいいか分からないという無様な事態にはならない。


「はい」


 読み終えると俺は再び迷宮運営計画を練り始める。

 板書と計画を書くという忙しい作業をしているとふと思った。


ーー俺の能力って何?


 魔人という人外になってしまったわけだがそれによって強靭な肉体を得た。

 それじゃあ他には何も無いのかと言われれば俺は何も把握していないので分からない。迷宮主ダンジョンマスターとしての力は無理やり叩き込まれたので理解しているのだけど……。

 しかし、魔人というからには何かしらの特殊能力があってもいい気がするのだ。


 こういう時、ラピスがいれば教えてくれるのに……。


『お呼びしましたか? マスター』

「っ!?」


 突然ラピスの声がして俺は周囲を見渡したが居るのは黒板を見る生徒と黒板に板書をする先生だけ。

 だが、ラピスがすぐそばに居るような何かが繋がっているような感覚がするのは確かだった。


『マスターとは魂レベルでのリンクをしているので遠く離れた場所でもこうして念話での会話が可能になっています』


 心の声に回答するラピス。と言うことは俺も念じる事でラピスと会話が可能ということだろう。


『あー。聞こえる?』

『はい。感度良好です』

『異世界でも通じるんだな……』


 念話の原理が良く分からないがイメージ的には携帯が異世界で繋がったというレベルの驚きだ。


『ラピス、俺の能力って何?』


 単刀直入に聞いてみた。


『メニューという能力からステータスを見てみてはいかがでしょうか』

『メニューとやらはどう使うの?』


 使い方がわからなければ意味がない。


『メニューと唱えるか使用したいとイメージするだけです』


 そんな簡単に使えるのか。

 しかし、どのようになるのかが分からない以上は授業中に使うなど愚かな真似はできないので授業が終わったらトイレにでも行こうと思う。


『ありがとう、ラピス。じゃあ異変があったら念話で教えてよ』

『了解しました』


 それきりでラピスの声は聞こえなくなった。

 念話が切れたようだ。


ーーキーンコーンカーンコーン


 授業の終わりを告げる鐘の音が鳴る。

 丁度こちらも終わったようだ。

 起立礼と挨拶してクラスメイト達は昼食の準備を始めた。


 バッグから弁当箱を出す人やコンビニの袋を出す人、財布を持って一階の購買へ行こうとしている人など様々だ。

 この光景は一年の時から見慣れているからどうということは無いが二年になってから一人で食べている人を見かけるのが多くなった。

 単に陰キャラが増えたと言うだけの話だ。

 そのうちの一人が俺である。


 だが、今年からは一人で食べるのはあまり無くなるかもしれない。

 理由は一緒に食べようと誘ってくれる友人が同じクラスにいるからだ。

 こうして授業が終わるとーー


「ここ座るけどいい?」


 俺の前の席に座る前に彼は周りに問いかけて了承を得てから座った。

 椅子を俺の机に向けて一つの机に俺の弁当と彼、清水晴人の弁当が並べられている。


「俺、一緒に食うとか言ってなくない?」

「同じ中学だった俺らにそんな言葉は必要ないだろ?」


 笑いながら晴人は俺に言った。

 確かに、同じ中学だろうか無かろうがお前の容姿と雰囲気なら言葉など必要なく自然と男子だろうが女子だろうか仲良くなることが出来るだろう。

 しかし、俺は目立ちたくない。その身体から溢れんばかりのキラキラを抑えてから俺に話しかけてくれと言いたい。


「まぁ一応、親友ってことになってるらしいから……この机の三分の一をお前に与えよう」

「狭っ! せめて半分にしてくれよ……」


 俺が手で机に線を引くを見てツッコミを入れた晴人。


「仕方ない。俺の領地を半分やるから世界を掌握するのを手伝ってもらうぞ、勇者よ」

「ありがとう、魔王。約束通り世界の半分を頂いた分の働きをしよう」


 俺の悪ノリに晴人も乗っかって勇者と魔王ごっこを繰り広げる。

 アニメや漫画とは縁のなさそうな晴人だが、俺の布教によって堕ちている。

 お陰で中学生までは難聴系主人公みたいだった晴人は進化して不用意に女を泣かせることはなくなった。

 俺のお陰だと思う。まぁ……若干ロリコンっぽくなってしまったのも俺のせいかもしれない。


「……食べようか」

「そうだね」


 俺は素っ気なく返事をしつつ弁当を食べ始める。

 家族がいない一人暮らしの俺は必然的に自炊するかコンビ二弁当になるのだが料理はそこそこ好きなので今日の弁当も手作りである。


「うわっ、相変わらずスゲェ美味そうな弁当だな。手作りなんだろ?」


 褒められて悪い気はしない。


「まぁ、ね」

「貰ってもいい?」


 晴人の目は俺の弁当に釘付けになっている。


「いいよ」

「うまっ!! えっ、何これっ!?  お前凄いな!!」


 晴人が俺の弁当を賞賛してくれると同時に強化された聴覚が周りの人の声を拾ってくる。

 どうやら俺の弁当に興味津々のようだ。


「なぁ、上坂! 俺も一口食べてもいいか?」


 近くにいた男子生徒を皮切りに俺も、私もと弁当に群がって気が付くと白米だけが残っていた。

 

「おい、食いすぎて悠斗の弁当が白米だけになってんぞ! 誰か分けてくれ!」


 晴人が言うならと俺の弁当にオカズを入れてくれるが……ピーマンとか人参とか嫌いなものを入れるとか新手のいじめだろこれ。終いには泣くぞ。嫌いじゃないからいいけどね、ピーマンとか人参とか。


「あ、上坂君。なんか大変なことになってるね……。良かったら私のお弁当食べる?」


 そう言って俺に救済の手を差し伸べてくれたのは委員長こと遠坂だった。


「ありがとう、遠坂。本当にありがとう」


 俺は救いの女神に感謝を捧げた。


「う、うん。好きなのとっていいから。代わりに上坂君の手作り弁当、今度食べさせてね」

「いいよ。じゃあ、小さいハンバーグを頂きます」

「どうぞ」


 俺は口にそれを運んで咀嚼する。


「……」

「ど、どうかな?」

「美味しい」

「ほんとに? よかったー。不味いって言われたら自信なくしちゃうところだった」


 遠坂はホッと胸に手を当てて安堵の表情を浮かべた。

 それにしても自信がなくなるとはどういうことだろうか。

 まさかこのハンバーグは……。


「昨日の夜ご飯にハンバーグを作ってお弁当用に小さいのをいくつか作ってたんだ」

「手作りってことか。遠坂は料理上手いんだな」

「そ、そんな事ないけど……」


 じゃあどっちなんだよ。と突っ込みたかったが遠坂の隣にいる女子が何か言いたげでそれははばかられた。


「上坂くん。莉乃のお弁当が美味しいのは分かるけどそれだけじゃこの白米は食べられないよね? ってことで私の唐揚げもあげます」

「あ? あぁ、ありがとう」


 高校生に見えない大人びた容姿で艶やかな長い黒髪を持つ彼女は現役モデルの七瀬七海。一年の時はクラスが違ったが、遠坂とは部活が同じで仲がいいらしい。

 以上のことしか知らない彼女だが、高飛車な感じもなく案外接しやすいのかもしれない。

 ただ、その上目遣いは反則級だと思います。


「うん、美味しいよ」

「まぁ、冷凍食品だけどね。ふふっ。あっ、そう言えばーー」



 ふぅ……何とか白米を攻略できそうだ。

 そして、あれから俺達の近くに座った遠坂と七瀬は晴人と楽しそうに明後日に行われる遠足についての話をしていた。


 そしてーー


「明後日の遠足のグループこの四人になったわ」


 晴人が遠坂、七瀬を指さして弁当箱の片付けをする俺に告げた。

 話の流れ的に三人が班を作ったのだと思ったんだが……。

 

「……ん? それ俺も入ってんの?」

「何言ってんだよ。当たり前だろ」


 晴人はニッと笑って俺の背中を軽く叩く。


「これで七時間目に班決めをやる時間が短縮できそうね」


 遠坂はやれやれといった様子でクラス委員として苦労しているのが分かる。


「他の班次第だと思うけど」

「いや、大丈夫なんじゃないかな?」


 七瀬が昼食を食べ終わっているクラスメイト達を見渡して言うが晴人がそれを否定した。

 確かに、周りの声を聞く限りでは昼食を食べていたグループで大体固まってるので案外すぐに決まるだろう。


 皆が一番誘いたくて同じ班になりたい晴人、七瀬の二人は既に班が決まっているからな。

 それを予期してか一年の頃の教訓か、あらかじめこの四人の班を作ったのだろうと、晴人をちらりと横目に見ながらその腹黒さに苦笑いしか浮かばなかった。


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