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リアルダンジョン  作者: 真城まひろ
二章 魔境探索
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2-5 休日


 四人の美少女に囲まれて、のほほんと過ごす旅。

 馬車で、様々な場所を訪れては、観光を楽しむような穏やかな風景。

 男のロマンか、もしくは願望を映していたのか、夢心地で穏やかな気持ちのまま静かに起床した。


 身体を起こそうとする。しかし、俺の上に何かが乗っているように重さを感じた。

 妙に温かくて、すべすべしていて、もふもふしていて……。

 それらの特徴を感じ取ると、ハッとする。

 冷静に首だけを動かして状況を視認すると、案の定と言うべきか俺の周りにはレイリー、黒猫の二人が眠っていた。

 ソフィーは、ベッドに腰掛けており俺が起きたのに気が付いたようだった。


「おはようございます。調子はいかがでしょうか?」

「少しだるい気もするけど、ほぼいつもと変わらないな」

「騒動の後、気絶したまま起きないと皆が心配していました。……私の落ち度です。申し訳ございませんでした」


 立ち上がると彼女は頭を下げる。

 深いお辞儀だった。

 軸がしっかりとしているからか、姿勢が綺麗で思わず見とれる。


「いや、頼んだのは俺だから……気にすんな。謝る暇があるなら黒猫と何故か小さくなったレイリーを降ろしてくれないか」


 黒猫は少女の姿で、レイリーは大型犬くらいの大きさ。二人は仲良く抱き合うようにして眠っていた。

 起こすのも悪いと思い、ソフィーの手を借りて、そっとベッドから脱出した。


 立ち上がると服が変えられているのに今更気がついた。変えたのは……多分ソフィーだろう。

 何から何まで世話を掛けて申し訳なく思う。今の俺、役立たずのニート。

 正直、現状ではソフィーに大きく依存している部分があるのは確かで、主として自立しなければならないだろう。

 

「ちょっと外に出る」

「はい。外は風が冷たいので、これを」


 肩に掛けられるブランケット。毛触りがフワフワで暖かい。

 それしてもこんな高価なものは家に置いてないはずなのだが……。

 視線をソフィーへと向ける。それで察したのか、話してくれる。


「あ、新品ですから安心してください」


 そういう事じゃねえよ。と思わず突っ込む。

 そして、聞きたかったことを聞いた。


「入手経路ですか? 昔、知り合いのアラクネに作って貰ったものです。宝物庫にあったので好きに使ってください」

「そ、そう。ありがとう」


 ふふっと微笑むソフィーは、話があると俺に告げる。

 了承した俺は、気持ちよさそうに寝る二人の眷属を起こさぬように外のバルコニーに出た。


 付き従うように半歩後ろを歩くソフィー。

 俺は気になって仕方なくて、少し歩くと止まって話しかけた。


「そう言えば、この迷宮に風が吹くことは無かったよな」

「そうですね。ラピスによるとユート様の暴走した魔力による影響だそうです」

「あ、そうなんだ。環境が増えたってことは喜ばしいことかな」


 そんな他愛もない話を暫くしながら、ソフィーは再び俺に謝った。


「私は、少し急ぎ過ぎました。疲れもあるでしょうし、今日は休息日としましょう。迷宮を見て回ったりするのはいかがでしょうか」

「確かに、何だかんだで造った迷宮を実際に見てないな。それにジャイアントアントの様子も気になるし」



 そういう訳で……。

 俺は、珍しく一人で迷宮を見て回ることになった。


 ソフィーもレイリーも黒猫もいない。

 姿はここには無いがラピスと話しながらという迷宮観光を楽しんでいた。


 ここは迷宮第一階層。一定時間が経つと経路がランダムに入れ替わる可変式迷路だ。

 ジャイアントアント二十体が、せっせと掘り進めた凶悪極まりないこの階層は、初めて迷宮に入り込んでしまった時に見た景色である淡い光を放っていた。


 これだけ見ると綺麗に思えてしまうが、あの光る壁のすぐ横には致死性の毒槍が飛び出す罠が仕掛けられていたりするのだから怖いものだ。

 流石に、迷宮主が罠で死んだなんて無様なことにはならないように、常時マップの展開とメニューによる補助を受けている。

 故に、安心な筈だが用心するに越したことはないだろう。


「あっ、おーい! ジャイアントアント達ー!」


 俺は、通り掛かったジャイアントアント達に手を振る。

 すると、あちらも気が付いたようでこちらへと隊列を組むようにゾロゾロとやってくる。


 しかし……会話が成り立たないのが残念で仕方ない。念話もまだ使えないみたいだしな。


『いえ、マスター。先頭のジェネラルアントは念話を使えます』

「え、まじで。あ、確かに一際大きいし解析にも間違いなさそうだ」


 それにジャイアントアントから種族進化して、ジェネラルアントになっていたとは気が付かなかった。

 名前をつけてやるべきだろうかとそれっぽい名前を考えていると、


『これは王様、お疲れ様です。倒れられたと聞きましたが大丈夫でしょうか?』

 

 地に伏して頭を下げるという行為にはだいぶ見慣れて来ているが、こうも大勢にされると圧迫感がすごいなぁ、と見当違いなことを考えつつ大丈夫だと返す。


「君は将軍ジェネラルになったんだよね?」

『はい。侵入者の迎撃の際、種族進化を致しました』

「そうか、ご苦労さま。君には褒美をあげたいと思ってね。名前をあげよう」

『誠でございますか! ありがとうございます!』


 流石、将軍ジェネラルと言うべきか忠誠心が高いのだと鈍感な俺でも分かる。

 これは、いい名前をあげなくては……。


「シュバルツ、というのはどうだろうか。男らしく君にぴったりだと思うよ」

『はっ! ありがたく頂戴いたします! シュバルツと名乗らせて頂きます』


 そんな口上が終わると案の定と言うべきか、魔力の流入とシュバルツが苦しむというこれまた見慣れ始めた光景を経て、別れて次の目的地へやってきた。


 ここは、眷属空間の中でも一際お気に入りで小川が流れる穏やかな時間が流れる場所だ。

 ここにログハウスを建てて悠々自適な生活を送りたいものだ。


 今日は、そんな俺の些細な夢を叶えるためにここへ来たと言っても過言ではない。


「ラピス。魔力は充分あるよな?」

『はい。ログハウスの建設分は余裕です』

「じゃあログハウス建設」


 そう宣言すると小川のすぐ側の広間で魔力が集約して空間が歪み、ログハウスが創造された。

 いきなり現れたログハウス。それは俺のイメージ通りのものだった。


「いやぁー、凄いの一言しか出てこない。流石ラピス」

『ありがとうございます』


 ログハウスの中は家具も揃っているし、暖炉なんてお洒落なものまでついている。

 サンタさんがやって来るにはもってこいな煙突もあった。


 ふかふかなソファーに腰掛けると身体がクッションに沈んでいき、俺は気持ちよさのあまり意識が遠くなって……。



「起きろー!」


 急な衝撃と共に俺は目覚めた。

 こんなことをするのはあいつしか居ない。


「てめぇ、黒猫。なにすんだ」

「ユートが妾を置いてこんな離れにある家でくつろいでおるからお仕置きじゃ!」


 なんだそれ、と呆れつつ少女の姿の黒猫から逃げる。

 躍起になって追いかけてくる黒猫との鬼ごっこ。

 何だかこれはこれで悪くない休日だと思いながら足を止めた。


「捕まえた」


 勢い良く走ってくる黒猫を抱きとめる。


「な、何をする!」

「お腹空いたから帰ろっか」


 猫耳をモフりながら俺たちは城へ帰る。

 きっと、豪華な夕飯が待っているだろう。



 

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