表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リアルダンジョン  作者: 真城まひろ
二章 魔境探索
14/20

2-4 暴走


「はぁ、はぁ、はぁ……。お前ら、速過ぎ、だろ……」


 心臓の鼓動が聴こえるほど息が上がっていた。

 身体中が熱っぽくて疲労感が、どっと押し寄せてくる。

 対してソフィーとレイリーの二人は、なんてことの無いようにケロッとしており、一位は自分だと主張し合っていた。


『判定の結果……同着でした』


 ラピスの判定が出たところで、俺に期待の視線が集まる。

 要するに褒美を早くくれと言いたいのだろうが、少しだけ待って欲しいと告げる。今の俺は疲労で動けないのだ。

 深呼吸を何度も繰り返して、身体を回復させようとする。

 そして、中庭の芝生に寝転がる俺の隣には、死にそうな少女が一人。黒猫だ。


「速過ぎて……死にそう。うぇー……」


 人目もはばからず、四つん這いで吐きそうな彼女。

 確か、遊園地の絶叫マシンに乗った時も、死にそうになってたような気がする。

 遠坂が乗っていたら失神しているレベルだろうと思う。

 いや、常人でも絶叫マシンが大好きという人も嫌いになるだろう。


 あいつら、音を置き去りにして行くんだもん。

 戦闘機かと思ったわ。


「大丈夫ですか?」

『黒猫殿、すまない。つい熱くなってしまったようだ』


 レイリーと黒猫は、だいぶ仲良くなったらしい。

 最近思っていたが、ソフィーとレイリーの二人は、俺に対して丁寧な口調になるのに他人だと素と思われる口調で話すのだ。


 ソフィーは探求者のように好奇心旺盛で、砕けた口調の時はお姉さんらしく感じたり、子供っぽく感じることもある。


 レイリーは武人のようで、厳格なイメージを持っている。口調も寡黙で、行動で示す感じだろうか。


 共に過ごした時間は、短いながらにも何となくどういう性格なのかが見えてきたような気がした。


「休憩、したら、魔力操作の鍛錬するから」

「分かりました。あと、回復速度も意識した方がいいですよ」


 うん、と短く返事をして目を瞑る。

 今の俺の体内での魔力の乱れが素人の俺でも感じられたので、平常の状態へ魔力操作を行う。

 当然、思ったようには上手くは行かないが、楽にはなった。

 呼吸法にも気をつけて、自分の身体をより感じ取れるように意識した。


 数分後には呼吸、魔力の乱れも落ち着いて、少し身体が重い程度まで回復した。


「うぅー。はぁ……だる」


 伸びをして起き上がる。

 黒猫もグロッキー状態から回復しているようだった。

 レイリーと何かを話している。

 打ち解けられたならそれでよし。黒猫も肩身が狭い思いをしなくても済むだろう。


 俺が起きたのに気がついて、全員が俺の周りに集まってくる。


「おはよう?」

「ふふ、おはようございます。では、褒美の魔力を頂戴したく思います」


 にじり寄ってくるソフィーとレイリー。魔力が欲しくてたまらない、と言った様子だ。

 息も荒いし、ちょっと怖い。


「わ、分かったよ」


 両手で制止しながら渋々了承する。

 そして、物欲しそうに見てくる黒猫。

 残念ながら彼女には魔力譲渡禁止令がソフィーから出ているので、お菓子で我慢してもらおう。

 カステラとか置いてあった気がするし。


「黒猫は、もちろんダメだから。カステラで我慢しような」

「子供扱いするな! でも、カステラは欲しい」


 欲望に忠実すぎる奴が多いなと思いつつ、待ちきれない様子の二人に魔力を譲渡した。


「くはぁっ! これです! これこれ!」


 ソフィーが艶めかしく吐息を漏らして恍惚とした表情をする。

 その隣では、ビクビクと痙攣するレイリーの姿。

 彼女もまた、艶めかしく吐息を漏らしている。


 俺の魔力には、何かやばいものが入っているんじゃないだろうか、と不安になるくらいの狂いっぷりだ。

 その様子を見る黒猫もまた、羨ましそうに見ている。


「俺の魔力ってあんなにヤバイの?」


 好奇心から実体験をしたばかりの黒猫に聞いてしまった。


「……。気持ち良すぎて、おかしくなるんだ」


 一瞬躊躇ったようだったが、話してくれた。

 そして、物欲しそうに俺を見る。


「俺を見ても何も出ないぞ。出るのはカステラか、羊羹ようかんくらいだぞ」

 

 和菓子が好きなので取っておいたものなのだが、黒猫にあげよう。

 但し、この貸しは高くつくぞ、と添えて。


「ん? それは菓子と貸しを掛けてるのか。なかなか面白いの」

「え、あぁ。分かった? はは、受けてくれるなんて嬉しいなぁ」


 正直、場が凍るくらい寒くなる予定だったのだけど……ダジャレの才能、あるのかもしれない。

 なんて、自惚れてみたりして。


「カステラとかは、また後でな。取り敢えず、魔力操作の鍛錬しておくよ」


 黒猫の頭をポンポンと優しく撫でる。


 一つ深呼吸をして、集中力を高めて魔力操作を始めた。


■□


 この迷宮には、風が吹かない。

 黒く輝く、人口太陽はあるけれど、芝生をなびかせる気持ちの良い風は吹かないのだ。


 それなのにどうだろう。

 この清々しい風は。


 俺は、猛ダッシュと形容するのが相応しいほどに音を置き去りにして地上を踏みしめて走っていた。


 いくら魔人の身体能力があっても音を置き去りにすることは出来ない。

 横を併走するレイリーは、なんの強化もしていないのだろう。

 しかし、ついに俺は、魔力を身体に循環させて行う身体強化を会得したのだ。


 これにより身体能力は飛躍的に上昇した。


 今なら何でもできそうな気がする。


 それにしても……眷属空間ってこんなに広いの?

 かれこれ数十分は走っているのに、壁は見当たらない。


 徐々に減速をして、駆け足程度の速度まで落として、レイリーに聞いた。


『把握しかねます。しかし、眷属空間自体は恐らく、常に拡大していると思われます』


 常に拡大?

 ラピスに聞けば手っ取り早いと思って、念話を使った。


『レイリーの言う通り、徐々に拡大しています。周囲から微力の魔力を吸収して拡大しているのです。これから眷属は増えると思われるのでこのような機能をつけました』

「そうなんだ」

『あと、マスター。自分で把握するくらい出来ますよね? 次からは自力でお願いしますね』


 やけにトゲトゲしい口調で、念話を切られてしまった。

 最近、構ってやれてなかったからヤキモチを焼いたとか?

 いやいや、ないだろう……。無いのか? 分からない。

 ていうか、未だに自分の能力について把握していないのだが……。


 今までは自分でどうにかしてきたのに、眷属が出来て頼り癖が出来始めてるから直せってことか。


「レイリー。戻ったら本格的に魔法の鍛錬だ!」

『はい!』


 来た道を引き返していく。

 再び風を感じて、今度は飛翔して帰る。


 次第に城が大きく見えてきて、戻ってきた。


「どこ行ってた?」

「最果てを見ようと思って……」

「見れたのか?」

「いや、最果ては遥か彼方だったよ」

「え、そんな広いのか」


 出迎えてくれた黒猫の質問攻めに答えると、呆れて苦笑いをした。

 もう驚くのに疲れたらしい。


「ユート様、第一段階クリアおめでとうございます。流石、飲み込みが早いですね」

「あぁ、ありがとう、ソフィー。それで、次の段階なんだけど」

「はい。手本を見せます」


 手のひらを広げて円を作るようにしたと思ったら、魔力の球体が中心で生成されていき、それを地面に押し付けると軽く触れただけなのに抉れた。


「魔力の放出と性質変化です。難易度は高いですが頑張ってくださいね」


 その一言を告げると優しいソフィーは、鬼教官としてのソフィーになっていた。

 纏う雰囲気でだいたいわかる。

 

 見ていた感じだと魔力が螺旋状に回転しているような気がした。

 イメージ的には、身体強化と同じく循環させることを意識するのと、魔力の放出、それの維持が鍵になるだろう。


 実は、魔力の放出に関しては達成済みである。

 あの威力と魔力の球体を維持することさえできればいいのだ。


 手のひらを広げて、魔力を集約する。

 螺旋状に循環させるイメージを持って、魔力操作を慎重にする。

 

 丁寧に、慎重に、手順を踏んで挑戦するが……。


「うわっ!!」


 魔力の球体が暴発してしまい、その威力で身体が投げ出される。

 巻き起こる魔力の奔流。

 地面を抉り、ちょっとしたクレーターを作った。


 投げ出された俺は、地面に片手をつき体勢を立て直して着地する。


「やべぇ威力……。制御しないと自分が危ない」


 チラリとソフィーを見る。

 いや、弱気になるな。助けを借りるまでもなく、自分でやり遂げるんだ。


 再び俺は、自分と向き合う。

 魔力の放出、操作、維持。

 この三つの過程を丁寧かつ慎重に、そして迅速に展開する。


 鍵は、高密度の魔力球を維持すること。


 自分に何度も言い聞かせる。

 何度も、何度も、ボロボロになりながら繰り返す。


 しかし、焦りからか魔力を込め過ぎて、バランスボール程の魔力球になりーー


「くっ……制御、できない」


 俺の内に内包する魔力がみるみる放出されて行く。

 そこには魔力球どころではなく、巨大な魔力の竜巻が出来上がっていた。


 竜巻は、内部で雷のようなものを迸らせて、周囲一体を飲み込んでいく。

 中庭は、既に荒地と化していた。


「ななな、なんだあれは!!」

「不味い! レイリー! ユート様を運んで退避!」

『了解!』


 突然起こった、超自然の暴力に対して混乱が起こる。それを瞬時にソフィーが対応して行く。

 魔力を殆ど出し切って身動きが取れない俺は、レイリーの背中に乗せられて城の中へと運ばれる。

 乗せてくれたのは黒猫。非力かと思いきや、念力のような力で俺を運んでくれた。


 竜巻に飛ばされた瓦礫が飛んでくる。


 しかし、当たる直前に塵となって消えた。

 まるで結界のようなものが、レイリーを中心として展開されているようだ。

 事実、これはレイリーのお陰なのだろう。

 吹き荒れる風も感じない。穏やかな状態だからだ。


 運ばれている最中、ソフィーは竜巻に対して、干渉しているように見えた。

 両手を広げ、同等以上の魔力で、あの竜巻を消し去ろうとしているのかもしれない。

 そして、ソフィーから膨大な魔力が感じられた瞬間ーー


 竜巻は圧縮されるように小さくなり、やがて消え去った。


 何をしたのだろうか。

 魔力を打ち消した?

 消滅させたようにも見えた。



 風が止まない。

 竜巻は、消滅した筈なのに。


 結界が解けて、レイリーの背の上。

 俺は、迷宮で風を感じていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ