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リアルダンジョン  作者: 真城まひろ
二章 魔境探索
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2-1 最強への道筋

毎週日曜日に更新予定とすることにしました。

では、二章が始まります。


「はぁああああっ!」


 渾身の拳を放つ。


「ーー甘いっ!」


 目の前に居た筈のソフィーが、残像の様に掻き消える。


 後ろから声が聞こえて振り返る間もなくーー


 世界が一回転した。


 気が付けば、俺は、空を仰いでいた。

 雲一つ無い晴天。黒い太陽が燃え盛る様子が見える。


 ここは迷宮の城の中庭。

 俺は、最強を目指すと誓った。

 その為に、魔法、剣術、格闘術など様々な分野を修めているソフィーから師事してもらうことになったのが三日前。


 しかし、未だソフィーから一本も取ることが出来ていない。

 彼女の洗練された技術と純粋な力は俺のレベルではその頂が見えない。


 格が違い過ぎるのだ。


 改めてソフィーの強さを目の当たりにした。

 オルトロスを倒した時、どれほど加減していたのか身に染みて理解させられる。

 俺は、この彼女を越えた自分を想像することが出来なかった。


「ふぅ……もう休憩か?」


 俺を上から覗くようにして声を掛けてきた。

 ソフィーが手を差し出してくれたのでその手を掴んで起き上がる。


「あぁ……もう、四時間くらい、ぶっ通しで、組手……。正直、きつい」


 息を整えながら話す。

 いくら魔人の強靭な肉体でさえソフィーのレベルの前には赤子同然であり何度も地に組み伏せられ限界を迎えていた。


「しかし、このままでは到底私に追いつけないぞ?」


 辛辣で厳しい指摘をする。


「レベルの差がありすぎるから仕方ないだろ」


 疲れ過ぎてイラッと来てしまい言い返してしまうが、ソフィーは気にもせず言う。


「レベルの数字は絶対ではない。それを補うのが技術だ。さぁ、立て。私を良く見ろ。駆け引きをして一発でも当ててみろ」


 鬼だ。

 ここに鬼教官がいるぞ。

 心の中でそう呟いた。同時に必要な事でもあると思っていた。


 俺には全てが足りていない。


 自分から厳しくしてくれとは頼み、丁寧な口調も修行の間は辞めて甘えの無い過酷な環境を求めた。


 故に厳しい。ここまでとは思ってもみなかったが……。


 しかし、これだけの……否、それ以上の修行の末に生前の彼女は魔王を倒しているのだと思うと納得せざる負えない。

 魔王を圧倒する力を求めるならこれでは足りないのだ。


「分かった。俺はお前を越える」


 俺は深呼吸をして構える。

 怒りやイライラを力に変える。


 魔力を纏って身体強化をするとーー懐へ飛び込んだ。


■□


「黒猫は、まだ、目を覚まさないか……」


 眷属達による誕生日パーティが終わりを迎えて部屋に戻った俺は未だ眠り続けている黒猫を心配していた。

 傍らにはソフィーも居て容態を見てくれている。

 先程、診断した時よりも良くなってきているらしい。


 「目を覚ましたら、きつく言い含めなければいけませんね」と彼女は俺と黒猫を批判する。

 落ち度は俺にも黒猫にもあるので仕方が無い。ソフィーの説教は黒猫と共に受けるしか無さそうだ。

 だから、早く目を覚ましてくれ。


 そんなことを思いつつ黒猫を人撫ですると、リビングへ足を運ぶ。

 机にソフィーと向かい合うよう座って話したいことがあると切り出した。


「なんでしょうか?」

「俺に戦う力をくれないか?」

「……それは、つまり、私に主様の師を勤めろという事でしょうか?」

「あぁ、頼む。俺を最強へと導いてくれ」


 頭を下げて懇願する。

 守られる存在ではなく守る存在になりたいのだ、と告げた。


「……。眷属として主様を危険に晒すのは、あってはならない事ですが、分かりました。その熱意にお応えしましょう」


 逡巡の末に出した答えは否定ではなく了承だった。


「本当か!? ありがとう!」


 喜びから思わずソフィーの手を両手で包んで感謝を告げていた。


「しかし! 私を師として仰ぐ者は三日として持ちませんでしたが……主様はどうでしょうね?」

「え……」


 三日と持たない修行って何だよ、と恐怖した。

 どんな事をやらされれば辞めていくのだろうか。いや、辞める以前に力尽きた可能性も……。

 ぶるっと鳥肌が立った。


「まさか、怖気付いたとは言いませんよね?」

「……もちろん」


 声が少し震えてしまった。

 自分が思っているよりも動揺しているらしい。

 しかし、やるからには甘えは必要ない。


「あと、俺のこと名前で呼んでくれ。丁寧な口調も無しだ。修行に甘さは必要ない」


 決意を強固にする為に自分を追い込む。

 ソフィーは俺の決意を気に入ったのか嬉しそうに「はい」と短く答えた。

 しかし、彼女は普段の生活では、いつも通りにしたいと言った。

 それを了承してさらに話を聞く。


「さて、ユート様。早速、明日から修行を始めますが、主な内容は魔力操作や魔法の発動から始まり、格闘術や武器の扱い方、錬金術……など。私が修めた全ての知識を授けます」


 一体その全てを習得するのにどれくらいの年月が必要なのだろうか。

 更に俺には学校もあるので使える時間が限られている。

 そう考えると生半可な覚悟では最強になんていつまで経っても辿り着けないだろう。

 思っている事を話すとソフィーが、


「それにあたっての近道があるのですが……」

「近道?」


 最強への道に近道なんてあるのか!? と驚きながらソフィーに聞き返した。

 そんなものがあるなら誰でも聞きたいだろう。

 もしかしたら、魂を差し出せ。なんて悪魔の契約じみたものかもしれないが……。


「はい。既にユート様はラピスと『魂の共有』を行っているようですが、それの下位互換で『知識の共有』というものがあります。知識を持っているのと持っていないのでは天と地ほどの差がありますので……上手く使いこなすことが出来れば大幅に力の上昇が見込めるでしょう」


 要するに知識を与えるからそれを使いこなせという事だ。

 ついでに俺の知識もソフィーに共有されてwin-winの関係という事だ。

 眷属として更なる繋がりを持つという利点もある。

 デメリットを挙げるなら知られたくないことも知られてしまう可能性があるということだろうか。


「それはいいとしてどうするの? あと、プライバシーは守られるの?」

「ぷらいばしー、とやらは分かりませんが、ありのまま全てを共有するの危険なもので、禁術の一つです。覚悟はしてください」


 最強への近道には大きなリスクがあるという事か。

 確かに、そうそう上手い話が転がっているはずもない。

 当然のリスクと言えるだろう。

 もっとも、ラピスと既にそれ以上のリスクを犯しているわけだから今更なんだけどね。


「大丈夫だろ。多分……」

「では、今から始めましょう」


 え! もう!?


 てっきり明日かと思ってたので思わず驚いた声を出してしまった。


「まだ……覚悟ができてませんでしたか?」

「いや、大丈夫、大丈夫」


 席を立ったソフィーにつられて俺も席を立つ。

 どうすればいいのか聞くと、額を合わせてソフィーとの眷属の繋がりを感じていればいいらしい。

 互いの魔力が共鳴して次第に知識の共有が行われるとのこと。

 簡単のようで簡単じゃない。


 俺はソフィーと額を合わせた。

 それにしてもソフィーから体温を感じるのはなぜだろう。

 女の子のいい匂いがする気もする。

 これは本当に幻影なのだろうかと疑問に思う。


 いけない。集中してソフィーとの繋がりを意識しなければ、と切り替える。

 感じる温かな繋がり。

 これが魔力なのだろうか。俺とソフィーを繋ぐ確かなものを感じていた。


「知識の共有」


 ソフィーが発動させると様々な記憶が脳裏を駆け巡って行く。

 

 黒髪黒目の勇者や、その従者、強大な敵の姿。


 綺麗な景色。


 魔法についての研究。


ーーソフィーが辿った過去を一瞬の間に旅行して来たかのようだった。


 つまり、ソフィーも俺の過去を見ているのだろう。

 そう思うと恥ずかしい。でも、これで対等な関係になれただろうと思う。


 目をゆっくりと開けて離れる。

 そして、俺はソフィーに何を話そうかと迷っていると、


「この世界は素晴らしいですね」

「え?」

「この日本という国は過去には色々あったようですが、平和だということに感動しました。日本だけではありません。この世界は我々の世界よりも遥かに進んでいると思いました。魔法が存在しない世界故に科学が発展しその技術は世界の法則を紐解いているようです」

「ええ?」

「特に漫画やゲームは凄いですね! 面白い魔法もあるようですし研究者として試さないわけには行きませんよ! あぁ……ユート様! マンガは持っていらっしゃいますか!? よければ本物を見せていただけませんか!?」

「う、うん」


 いきなり、マシンガンのように話し始めたソフィー。

 俺の知識から得たものが余程刺激的だったらしい。


 しかし、ソフィーの気持ちは分からなくもない。

 俺はソフィーと同じように魔法という不思議な力による文明の進化にはとても気になるところがある。


 魔法が主体の世界と科学が主体の世界。


 両世界を繋ぐ扉が俺の部屋にあるという事がどれほど重要で危険なことなのか今更ながらに分かってきた気がした。

 そして、この大きなリスクを背負ってソフィーと知識の共有をしたのは間違ってはいなかっただろうと俺は確信する。


「……何を騒いでおる」


 不意に不機嫌な声が聞こえ、視線を向けると黒猫がいた。

 未だ猫の姿で足元が覚束無い様子だ。


「目が覚めたか! 黒猫っ!」


 俺はトテトテと歩く黒猫をガバッと抱き抱えてモフモフする。


「や、やめろっ!」

「あぁ、ごめん。まだ起きたばかりだったな」


 謝りつつも撫でる手は止まらない。

 反省も後悔もしていない。ただ本能のままに撫でる。


「目覚めたばかりで申し訳ありませんが……黒猫様? あなたに話したいことがございます」


 物凄く怖い笑顔でにじり寄って来るソフィー。

 先程の浮かれ具合とはかけ離れすぎている。

 正直、怖い。


「じゃ、じゃあ俺は部屋に戻って……」

「ユート様。正座、して下さいね?」

「はっ、はいぃーーっ」


 部屋へ逃げようとする身体をソフィーへ向けてスライディング土下座をする。

 怖すぎる威圧。

 黒猫はビビり過ぎて震えが止まらないようだ。

 視線が合うと、


 『このバケモノはなんだ』と目が訴えている。

 分かる! 凄く分かるけど逆らわずに説教を受けよう。


 俺はもう諦めた。


 ソフィーは俺たちに立ったまま言い聞かせる。


「いいですかーー」



 そして、一時間後。


「誠に申し訳ございません。以後、気を付けます」


 俺はソフィーの裏の一面……いや、それどころか本来の姿を見た気がした。

 つまり、超怖い。

 ソフィーを怒らせるとやばいという共通認識が黒猫との間で出来上がっていた。


「黒猫様……ではなく、黒猫さん。少しお話がありますので……」


 ソフィーは個別で黒猫に声を掛けた。

 しかも、様付けからさん付けの変更という不穏な感じが、また恐怖を増長させる。


「わ、分かった」


 震えながら黒猫はソフィーに近寄っていく。

 俺も関係があるのかと思っているとそうではないらしい。

 ソフィーから迷宮へ行ってほかの眷属達に顔を見せてあげて下さい、と遠ざけられた。


 確かにレイリーをモフっていなかったし様子を見に行こう。

 そう思いリビングを後にする。

 チラリと見た時、黒猫と視線が合って助けを求められたが……頑張れ! とエールを送って逃げた。


 黒猫に神のご加護があらんことを。


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