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リアルダンジョン  作者: 真城まひろ
一章 迷宮出現
1/20

1-1 始まりの迷宮

誤字、矛盾点等を改訂しました。


 地上七階にある自分の部屋。

 そのクローゼットの奥に突如として、異世界へと続く迷宮の扉が出現した。


 興味本位に関わってしまった俺は、成り行きで迷宮の主となってしまい、人間を辞めてしまった。


 例え他人に打ち明けたところで、普通「何を夢を見ているんだ、目を覚ませ」と一蹴されるのがオチに見えている。


 それ故にこの秘密は話さないし、漏らさない。

 目の前にある黒く禍々しい扉のことは、絶対に……。


■□


 自室に扉が出現した昨日のことは鮮明に覚えている。

 夕方、部活には所属していないので、早く帰宅した。

 すると、自分の部屋の方から重く響く物々しい音が、聞こえてきたのだ。


 急いで原因を調べてみると衣類を仕舞ったクローゼットが、乱暴に開けられて中身は部屋中に散乱していた。


 そして、乱暴に開けられたままのクローゼットの扉の奥には、黒く禍々しい謎の扉があった。


 いつからあったのか不明であるが、少なくとも最近衣替えをしたばかりなのでその時にはなかったはずである。

 この騒ぎが泥棒かと思ったりもしたが、他の部屋には荒らしたような形跡もなく、侵入されたような痕跡もなかったので泥棒という可能性は薄くなった。


 そうなるとやはり、原因はあの謎の扉という事になる。

 どう対処するべきか悩みどころだが、そもそも扉はどこに続いているのだろうか。ふと疑問に思う。


 例えば、隣に繋がっていたとする。

 それは怖い事だし、どう対処したらいいのかさっぱりわからない。


 更に、もしかしたら未知の世界と繋がっているかもしれないという希望的観測は、事実だった時に対処法が不明すぎる。


 インターネットでスレッドを立てて、「自宅に異世界の扉が出現したんだが」と相談してみるとか……。


 そう思うと俺は漫画やファンタジー小説の読みすぎか、と自嘲気味に笑った。


 リビングでウンウンと悩みながら意を決した俺はコップに入れたお茶を一気飲みする。


「好奇心は人間も殺す……じゃないか。何を殺すんだっけ? あ、猫か」


 恐怖心を紛らわせるように独り言が増えていく。

 一応、中学時代に修学旅行で買ってしまい後悔しながら物置に仕舞っていた木刀を取り出し、装備して扉に手を掛けた。


 見た目の重圧とは裏腹にすんなりと扉が開く。


 勢い余ってそのまま扉の奥に足を踏み入れてしまった。

 未知の世界に一歩踏み出すと一瞬目眩がするが、直ぐに元に戻る。


「おっとっと……」


 靴を玄関から持って来ていたので裸足の状態の俺は靴を装備した。

 動きやすい運動靴だ。

 紐を固く縛って気合を入れると先へと進む。


 中は薄暗いがぼんやりと微妙な光が全体を照らし、壁は岩のようでゴツゴツとしている。

 階段は、ある程度整っており、螺旋状に下に続いているようだ。

 

 階段を降りる度にカツンッカツンッと自分の足音が反響する。

 凄く不気味であったが、螺旋階段を二回ほど回って降りると平面に足を着けた。


 出た場所は六畳間くらいの空間で、中央には虹色に輝く光球が浮かんでいた。


「マジかよ……これじゃまるで異空間か、本当に異世界に繋がってるんじゃないだろうな」


 信じられない可能性が脳裏を横切る。

 螺旋階段を降りてきた時点で、下の階を突き破っているはずなのだが……ここはマンションではなく洞窟の中のようだ。

 つまり、空間が歪められているとか非現実的なことが、起こっていることになる。


「この宝石みたいな虹の玉も気になるけどあっちはどこに続いてるんだろうなぁ……」


 階段から対面するように向こうの壁には部屋に出現した扉と同じものがあった。

 だが、流石にこの先へ進むほどの度胸は俺にはない。


「どうすっかなぁ……。はぁ……」


 ため息をついて気持ちを落ち着かせると、無意識的に光球に近づいて右手で触れた。

 ツルツルとした感触を味わった瞬間、虹色の光が強くなり部屋を埋め尽くす。


「ちょっ!! うわっ!!」


 光に視界を奪われる。


 追随して全身に電気が流れ込んできたかのように途轍もない衝撃が、伝わってきて意識を失ってしまった。


■□


『応答……願い……ます』


『応答……願います、マスター』


 無機質な女性の声が聞こえてくる。

 感情の起伏が感じられない。


 俺は、徐々に意識を覚醒させて目を開ける。

 辺りを見渡すと未だ洞窟……いや、迷宮ダンジョンの中にいた。


 迷宮ダンジョンとは様々な定義があるが、この世界では迷宮核ダンジョン・コアがある場所をそう呼ぶらしい。

 つまり、あの虹色の球体がそれに当たる。


 迷宮核ダンジョン・コアは、文字通り迷宮の核で迷宮の運営をする大事な器官だ。


 破壊されれば、迷宮は魔物を創り出さなくなり死ぬ。


 迷宮は生物のようであると与えられた知識から思った。

 それに、脳内に直接語りかけるように俺のことをマスターと呼ぶ無機質な声は、明らかに考える力を持っているので生物に近いのは確かだろう。

 それと重要な事がある。


 ーー俺は既に人では無いらしい。


 あの時、迷宮核ダンジョン・コアに触れて意識失った後、膨大な知識を頭に詰め込まれて、あまつさえ身体を作り変えられてしまった。


 まとめると、


 曰く、虹色の球体は迷宮の核だった。

 曰く、俺は迷宮核ダンジョンコアに身体を作り変えられて迷宮主ダンジョンマスターになった。

 曰く、種族は人間から魔人へ変化した。

 曰く、ここは地球とは異なる異世界らしい。

 曰く……。


 突然のこと過ぎて呆れ笑いがこみ上げてくる。

 どうしろと言うのだ。俺は好奇心に殺された。


 そして、魔人として生き返った。


 ということは、迷宮を守護する迷宮主ダンジョンマスターとして仕事をしないといけないのか。

 それは、まぁ、楽しそうだから異論は無いけれども。


 昔に、読んだ小説では、迷宮主ダンジョンマスターとは厳密には違ったように記憶しているが、得てして管理人という存在は、迷宮から出ることが出来ないという制限がかかったりするものがあった。


 しかし、俺の心配は杞憂に終わる。

 知識には地球と異世界の行き来は可能だと示されているのだ。


 迷宮主及び魔人になってから身体の変化は顕著に現れている。

 背中に黒い蝙蝠のような翼があるのだ。


 違和感があり過ぎて消せないかと試行錯誤していると意識するだけでどこかに収納されて消えた。

 それは、翼を自分で制御できているということにほかならないので、安堵する。


「帰ろう……」


 驚くほど自分から情けない声が零れた。

 俺を呼ぶ迷宮核ダンジョン・コアを一瞥して立ち上がり元来た道を辿ろうとする。


『応答願います。マスター、ユウヤ・ウエサカ』


 無機質な声は俺の名前を呼んだ。

 階段に足をかけようとしていた俺は振り返る。


「何?」

『生存を確認。マスターご命令を。防衛設備を整えることを推奨します』


 プログラミングされたような、ぎこちなさを感じるやり取りだった。

 命令は無しでもいいかなとも一瞬思うが、外からの襲撃に対して無防備すぎるのも一理あると考え直す。


 何故なら迷宮の破壊は俺の死と同義なのだから。


「現在、外からの襲撃に対しての防衛率は?」

『100%陥落します』


 即答された。

 でも、どうすれば……。


「魔物の召喚による防衛は?」

『召喚する魔物より確率は変動』


「じゃあ、侵入者を毒針の罠と毒槍の罠にかけた場合は?」

『防衛率80%です。設置には魔力を100消費します。設置しますか?』

「あぁ。そこの入口の扉に手を掛けた敵に発動させるように設置できるか?」

『可能。……設置完了です』


 早いな。

 迷宮核が保有する魔力の消費は時間が経てば少しずつ回復するはずだが不用意に消費しすぎないように気をつけなければならないだろう。


 防衛率が80%というのも完全では無いので心配だが、いざとなったら彼? 彼女が……あ、名前が無いから呼びづらいな。

 名前付けてあげるか。声質的に女性っぽいし、うーん……ラピスとかそれっぽいからいいかも。


迷宮核ダンジョン・コア。君は名前を持っているか?」

「否定。私は、ノーネームです」


 ノーネーム……。名無しという事か。

 ならば、呼び名を考えよう。意思を交わすのに名前は必要だ。


「じゃあ、ラピスという名前を授ける」


 名前を付けると何故か、身体の何かがゴッソリと持っていかれる気がした。


 何もしていないのに息が乱れている。


『ラピス……感謝しますマスター。名付けにより核としての力も増しました。防衛はお任せ下さい』


 そう言うラピスは、先程よりも感情らしきものを感じさせた。

 やはり、ラピスに名前を付けてゴッソリと持っていかれた力が影響しているのだろうか。


 分からない事を考えても仕方が無い。


「頼んだよラピス」

「イエス、マイマスター」


 俺はそう言い残して元来た道を帰る。

 足取りは疲れとは裏腹に何故か軽かった。

 こうして俺の迷宮主としての生活が始まりを告げたのだった。

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