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最後の手紙  作者: 白鳥 真一郎
第4章  ~交渉の日~
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54 ~ラジオニュース~

 僕は都心へ向かう満員電車に乗り、ドア付近に立って朝のラジオニュースをイヤホンで聞きながら今日の交渉のことを考えていた。


 一年以上前から準備し、特に、ここ二十日近くは連日のようにたくさんの人や企業や政府関係者と胃が痛くなるようなぎりぎりの最終調整をしてきた交渉。


 許認可権を持つ官庁や既得権を持つ巨大通信会社と今までに何度も行った予備交渉は熾烈を極めた。


 今日も過酷な戦いが待っているに違いないが、政府と巨大通信会社が同時に交渉のテーブルに着く今日を逃したら再びチャンスが巡ってくるのはいつになるかわからない。


 今日の結果が良いものであれば近いうちに新しい通信会社として政府から認可され、電波を割り当てられるだろう。


 そして僕の新しい事業は順調に船出することができるに違いない。だが、交渉が決裂したら僕は再び一から出直すことになる。どうなるかわからないが、全身全霊を注ぐのみだ。


 ラジオは最新のニュースをリアルタイムで流している。今のところ交渉に影響するような不測の事態は起きていないようだ……。

 

 と、そのとき、通常の番組を中断してイヤホンから聞こえてきた臨時ニュースが一瞬にして僕を凍らせた。


「多くの人々に感動と希望を与え、将来を期待されていた画家、タチバナ・アオイさんが、日本時間の本日午前一時ころ、病気のため、アメリカ、ニューヨークの病院で亡くなりました。二十八歳でした」


 アナウンサーは二回繰り返した。


 ニューヨークにいる画家のタチバナ・アオイ……。それが誰かと世界中の人に聞いたら、「知ってるよ。心を癒やす絵を描くあのタチバナ・アオイのことでしょう」という答えが多くの人から返ってくるだろう。二十八歳、僕と同じ歳。間違いない、ただ一人のアオイ、僕の恋人のアオイだ……。


 そのアオイが亡くなった……。


 病気だなんて聞いてなかった。急病だったのだろうか。


 僕は目を瞑り、電車のドアの冷たいガラスに額を押しつけた。


 クリスマス・イブに東京で一緒に食事をした時、とても優しいまなざしで僕をみつめていたアオイの姿が脳裏をよぎる……。予期しない訃報に全身が驚きと悲しみに震え、こらえきれない涙が頬を伝った。


 アオイ、どうして君は僕を置いて黙って逝ってしまったんだ……。


 




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