4 ~ふたりだけの秘密~
いつしか僕とアオイさんは先生の目を盗んで授業中、一冊のノートに絵を描くようになっていた。
先生が黒板に向かってチョークを動かしている時、ぴったりくっついている僕の机とアオイさんの机のちょうど真ん中に開いたノートに、どちらかが何か描いて、それに付け加えて相手が何か描くっていうのを繰り返して一つの絵を完成させる。
僕は左利きだから右利きのアオイさんと同時に描くこともできる。花の絵やお互いの似顔絵や空想の風景を描いた。先生には内緒のふたりだけの秘密……と思うと、とってもスリルがあって楽しかった。
けれど、ある日アズマ先生が不意に振り向いて、アオイさんと一緒に絵を描いているところを見つかってしまった。
「ウエダとタチバナ、今日は掃除の後に残るように」
アズマ先生は恐い顔をして大きな声でそう言った。叱られる! 僕とアオイは顔を見合わせた。教室中がクスクス笑ってる。それはそうだ。周りのみんなはとっくに気付いていたことだから。
掃除が終わって、僕とアオイさんはふたりだけで教室に残った。だんだん寒くなってきたなと思ったとき、ガラッと音がして教室の扉が開いた。アズマ先生だ。先生は黒板の前で仁王立ちになり、腕組みをした。
「二人とも、なぜ残されたかわかっているな」
「はい」
僕とアオイさんは同時に答えた。
「ノートを見せなさい」
僕は絵を描いたノートをアズマ先生に渡した。
先生はそのノートをめくってひとつひとつの絵を見ていた。先生の顔は恐かったけど怒ってはいなかった。慈しむようにノートを見ているのがわかった。
「ウエダ、タチバナ。授業中に勝手に絵を描いていいか悪いか、わかるか」
「勝手に絵を描いてはいけません」
「では、なぜ描いた」
「タチバナさんと絵を描くのがとても楽しかったからです」
「私も、ウエダくんと一緒に絵を描くのがとても楽しかったからです」
「理由はそれだけか」
「はい」「そうです」
「このノートは六年生になるまで没収する。いくら楽しくても今後二度と授業中に勝手に絵を描いたらだめだぞ」
「はい。もう二度としません」
ふたり同時に返事をした。
「それと、ふたりに言っておく。ここに描いてある絵はどれも上手だ。いや、上手なんてものではない。才能がある。ふたりとも絵を描くなら本気で描いてみたらどうだ。授業中にこそこそ描くんじゃなくて」
アズマ先生は叱るところはきちんと叱る。けれど、才能は認めてくれた。とてもうれしかった。僕とアオイさんはお互いの顔を見てにっこり笑った。
僕は、
「先生、ありがとうございます」
と素直にお礼をした。アオイさんは、
「先生のお言葉は一生覚えておきます。私は絵の道に進みます」
と宣言した。
アズマ先生はちょっと驚いたように目をぱっちりさせたけれど、すぐに穏やかに笑って、気をつけて帰りなさいと言った。
僕は昇降口までの階段を降りながら、さっきのアオイさんの言葉について考えていた。
「絵の道に進むって本当なの?」