1 ~冬の朝~
なんて寒いんだろう。みんなの吐く息が真っ白……。
一九七五年(昭和五十年)一月六日の朝。
丘の上にある東京都多摩市立第四小学校五年六組は、新学期が始まってざわざわしている。
教室にはついさっき暖房が入ったばかり。全学年がぎゅっと集まって始業式をした体育館の方がずっと暖かかった。うーん、寒い。凍えそう。
そこへ、扉がガラガラと横に開いてアズマ先生が入ってきた。大学を卒業してすぐに私たちの担任になった先生は、新年というのに相変わらず髪はボサボサでヨレヨレのジャージ姿だ。
同じ独身の男の先生でも、隣のクラスのシミズ先生はきちんと散髪してスーツを着ていて、とってもスマートなのに……。アズマ先生も同じようにしたらもっと格好よくなるのにな。と思っていたら、見たことのない男の子が先生の後ろにいた。
誰かしら? 教室は一瞬で静かになった。
男の子の背はとびっきり高いという訳ではないけれど、私よりは高いと思う。真面目そうな感じで、肌の色が白い。とっても涼しい目をしている。ああ、あの藍色のセーター、深みがあっていい色だなあ、それに暖かそう。
アズマ先生は黒板に大きく【上田 裕樹】と書き、
「今日からみんなの仲間になるウエダ・ユウキくんです。仲良くしてください」
と、大きな声で言った。それに続いてすぐにウエダくんが一歩前へ出て喋り始めた。
「はじめまして。僕はウエダ・ユウキといいます。父の仕事の関係で秋田県にある能代市という所から転校してきました。能代市は日本海に面していて、海岸沿いにとても美しい松林が広がっている街です。僕の趣味は発明と工作で、暮らしを便利にするいろいろなものを作るのが好きです。絵を描くのも大好きです。みなさんどうぞよろしくお願いします」
ウエダくんはペコリと頭を下げた。なんだか手慣れたあいさつ。転校慣れしているって感じ。
「ねえねえ」
私は通路をはさんだ親友のカオリにささやいた。
「ちょっと変わってるわね、発明が趣味だなんて」
「本当ね」
カオリが軽くうなずく。
「ウエダくんにはタチバナさんの隣の席が空いているので、そこに座ってもらいます。タチバナさんはウエダくんに学校やクラスのことをいろいろ教えてあげてください」
アズマ先生は私に向かってそう言いながら、『頼んだぞ』とでも言いたげに目で合図を送ってくると、ウエダくんを私の右隣の席に案内した。
ウエダくんは私と目が合うと、ぱっと明るい顔になってにっこり笑った。そして、
「タチバナさん、よろしくお願いします」
と言って席に着くと、すぐに澄ました顔をして黒板の方を向いた。
笑顔がとても素敵だった……。どんな性格なんだろう。そうだ、何か話しかけてみよう。
私はウエダくんの方にぐいっと身を乗り出した。