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素直でクールな彼女  作者: わほ
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短編「戦場の素クール」

周囲は絶え間なく響く銃声と、方向の入り混じった足音だけが鮮明に聞こえていた。

「私のことは良いから、置いていけ」

苦しそうな声色が耳元に響く。

「お前、これからって時に死にやがって……」

「そう言ってくれるな、私だって必死だったんだ」

自らを恥じるように彼女は脱力していく体を眺める。

「本当に力が抜けていくような感覚になるんだな」

「分かったから、さっさと最後の相手の情報だけでも伝えていけよな」

「君って奴は最後までそんな言いようだと、私以外からモテないぞ」

「別にそう言うのは今じゃなくて良いから」

やれやれと言った表情で、彼女は残りの力を振り絞るように口元を近づけ、情報を預けると力尽きたようにぐったりと意識を手放した。

横たわる彼女は塵のように消え、その場にはモノだけが残る。

「まったく、せっかく優秀だったのにもったいない最後だったな」

彼女の遺品を回収し、敵討ちと洒落込みますかと指を鳴らす。


チープな西部劇であれば、迫りくる敵に1人果敢に挑み映像が終わるなんて事もあるが、ここは戦場であり、最後まで戦う。それが玉砕と言う形になろうとも。


迫り来る敵はこちらを1人と見込んで挟み撃ちを仕掛けてくる。

1人だけでも道連れにしようと、片方にありったけのグレネードを投げ込み足止めを試みる。

「まず1人目!」

慎重かつ大胆に放たれた銃弾は、見事な曲線を描き相手を捉える。

息つく暇もなく後方へ銃口を向けると、グレネードで運良くもう片方も片付いていた。

「ふぅ……やったか……」


パァン


乾いた音が遠方からしたかと思うと、自身の体は地面に転がっていた。

終わりはなんともあっけない。

高台にキラリと光るスコープを最後に捉え、世界は呆気なく暗転する。




「おつかれさま」

先に散った戦友の声が聞こえるが、幻聴ではない。

少し重たいゴーグル型のVRディスプレイの向こう側に、彼女に似せて作られたアバターが映し出されていた。

「良いところまで行ったんだけどなぁ。漁夫の利で掻っ攫われた」

「最後の挟み撃ち撃破からの、狙撃ヘッドショットはなかなか絵になっていたな」

良いものを見たとばかりに、心底楽しそうな声色だった。

悔しい事この上ない自分は、苦々しい表情で映し出された彼女のアバターを睨みつける。

「足音に気付いた時の共有の仕方教えたよなぁ?」

「そうだったかな?すまない忘れていたよ」

わざとらしい彼女に、こちらのアバターでジト目を向ける。

「君が手取り足取り教えてくれるのが嬉しくてついな」

「お前なぁ……そんな事しなくても何度でも教えてやるから……」

やれやれと分かりやすく、肩をすくめて見せる。



今更補足する訳ではないが、幼馴染とFPSをしていた。

家も隣同士で、誕生日も同じ。

小さい頃は親同士が双子のような扱いで協力して子育てをしていたらしい。


そんな彼女とは学力の圧倒的な方向性の違いから、別々の進路に進んだ、その決定に彼女は最後の最後までごねていた。

どうしても同じ高校に行きたいと。

しかし、彼女の学力は頂上を貫く最上位だった。

自分もそれなりに努力したが、彼女に学校を合わせてもらうわけにはいかなかった。


最終的に彼女を納得させたるために取り交わした約束はこうだった。

『絶対に疎遠にならないこと』

最終的には添い遂げたいとまで言っていたが、そこまでは高校生で生き焦り過ぎだろうと落ち着かせた。


そんな約束をしたからなのか、これまでの習慣か。

外堀は塀になりそうな勢いで埋め立てられ、内側で彼女に籠城されている。

FPSはまだまだこちら側に分はあれど、タワーディフェンスは完敗で白旗も近い。

白旗を上げれば容易に軍門に下るのだろうが、どうしても並び立ちたかった。


安易に白旗を上げたとしても、他愛も無い会話が続き、不意に訪れる無言も、ゆったりとした時間にお互い不満などないのだろう。


それでも考える。余りにも優秀過ぎる彼女の隣に居るにはどうしたら良いかと。


自然とアバターも難しげな表情をしていたことに気がつく。

「考えはまとまったかい?」

そもそも、彼女にはそんな気持ちもお見通しなのかもしれない。

「まぁ、まとまらんな」

「そうか。ちなみに私はどんな君でも受け入れる準備はできている。108パターンまでなら想定済みだ!」

「煩悩かよ……」

クスクスと笑う彼女に、もう一戦やろうと声をかけるのはそう時間はかからなかった。


=======


私は久しぶりの彼との時間を満喫していた。

しばらくテスト期間と言うものに彼を取られていたのだ。

普段の授業を聞いていればテストなんてものは間違える訳もないと思うが、彼がそれを外で言うなと言うから控える。

そう、彼は気が利く男である。


そんな彼は最近何かに悩んでいるようだった。

おおよそ検討は付くが、本人の問題なので特に誘導はしない。

彼の良さなら永遠に語れる自信はあるが、それは自身で自覚してこそ武器足り得る。

「学校なんて狭い枠に囚われなければ、君はいくつも私を超えられるよ」

なんて事を呟くが、彼は次の戦場の周辺調査に夢中で聞いているのかいないのやら。

まぁ、108パターンの中にはヒモと言う路線も、別の女にうつつを抜かすなんて事も考えられるが、受け入れはしても対処はしないとは言っていない。

細工は流々。仕上げは焦らず。結果は分かっているのだから。


幼馴染達の分かり切った関係の行方は、銃弾よりも真っ直ぐに狙った相手へと注がれるのだった。


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