短編「小柄な君はゲーム好きクール」
「右、ジャンプしてガード、左、右、アタック!」
呪文の様にブツブツと呟きながら、コントローラーを巧みに操作するのは、喫茶店の店番をしている女の子だった。
なぜ店番をしている人間がゲームなんてしているのか。
客は顔馴染みの自分しかおらず、接客などあってない様なものだった。
要するに、閑古鳥が盛大に鳴いているのである。
昼食もおやつの時間も過ぎた午後は、こんな日も珍しい事はなく、緩やかに日が陰り始めていた。
真剣に画面へと向かう彼女は、10代のように幼く見える華奢な肢体に、黒く艶やかな髪と整った顔立ちをしていた。
実年齢はと言えば自分より3個ほど上で、23歳だと言うことを知ったのは衝撃的だった。
この誰もいない時間帯を狙って店を訪れるのは、そんな彼女が1人でいる事を知った上だった。
「なぁ。今日はどんなゲームやってるんだ?」
彼女は画面から目は逸らさずに答える。
「いわゆる死にゲーだ。そして、年上には敬語を使えと言っているだろう?」
年上なのは確かだが、この見た目である。
「今お子ちゃまぺったんこ体型の癖にと思っただろう?」
「そこまでは思ってない」本当である。
「まぁ君はそれが好みらしいが」
ようやく顔をこちらに向けて口を開いたかと思えばコレである。
こいつはそういう事を気にせず言うのだ。
言い返せない自分の気恥ずかしさに、残りのコーヒーを飲み干し何とか声を絞り出す。
「ロリコンって訳じゃないからな」
見た目の幼さとは打って変わって妖艶な雰囲気を醸し出す。
「それも知っているよ」
艶かしくも優しげな声色は反則である。完全敗北なのだ。
こちらの白旗を感じ取ったのか、随分と満足そうな表情をした彼女は立ち上がり腰に手を当て胸を張る。
「こんなちんちくりんを好んでくれる君に特別サービスだ。今度の土日で空いている日はあるかな?」
「はぇ……えっ?」
一瞬何を聞かれているのか分からず、おかしな反応をしてしまった。
散々とこちらの誘いをかわしてきた彼女から、突然の誘いに1分ほど無言で見つめてしまった。
「どうした?返答が無いなら仕事を入れてしまうぞ?」
「いやっ!空いてる!どっちも!」
慌てて答えてしまい、結果かなり欲張りな返答となった。
「最初のデートで宿泊を希望とは、手が早いな君は」
「あ……いや……そう言う意図じゃなくて」と、しどろもどろになりつつも彼女の表情から、からかわれているのだと気がつく。
「これでも純情な青年なんだ……からかわないでくれよ……」
手を口元に持っていき、クスクスと笑う彼女は楽しそうに口を開く。
「良いよ。後は君の努力次第だ」
その場で全力のガッツポーズを披露して小躍りを踊りたい衝動を何とか抑えつつ、努めて冷静に震え声を出す。
「ま、任せろ」
とまぁ散々期待させておいて結局のところ、土日の行き先はゲーム売り場で新作狩ゲームを買う事がメインに決まっていた。
そのまま家に押し掛けられ、素材集めに一晩中付き合うのだった。
しかし、徹夜明けの朝日に照らされ、少し眠たげな彼女を見れた事は、正直最高だったとだけ感想を述べておくことにする。
最近Vの沼にハマってSSは書いてたんですが、こちらに投稿するのは久しぶりとなります。




