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素直でクールな彼女  作者: わほ
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短編「魔法は物理で乗り切る素直クール」

こちらは「TxT Live」と言う物書き向けのライブ配信サイトで書いた短編となります。


書いている光景はこちらのURLからどうぞ。

https://txtlive.net/lr/1600711903436

世の中で魔法が当たり前になり数十年が経った。

世界の9割が魔法を扱い、魔法の力を我がものとして、無くてはならないものとして活用していた。

移動は空を、重い荷物には重力制御を、機械と魔法は両立し、この数年は目覚ましいほどの発展を遂げていた。

世間では魔法が使えない物は『欠陥品』と罵られ肩身の狭いお思いをしていた。


学校とはさらに狭い世界である。

万が一、魔法が使えないなどど言うことが知れ渡れば、いじめの対象となっていた。

幸いにも自分の通う学校には魔法の使えない人はいないらしく、多少のスクールカーストが存在するのみとなっていた。


前置きはここまでとして、自分の通っている学校の話をしよう。

多少のスクールカーストと表現してみたものだが、スクールカーストの上位の争いは激しいモノだった。

校内での公な私闘は禁じられていたが、正式な手順を踏んだ上での決闘は認められていた。

戦闘特化の魔法を用いる生徒はその力を誇示するように、日々研鑽と決闘を繰り広げていた。

実力者の一人として知れ渡っている、須直 空という人物がいる。

魔法能力はそれほど高くは無いと噂されているが、容姿端麗、文武両道を地でいく人物でクラスメイトでもある。

基本的に他人の魔法能力は秘匿されており、攻撃時と隠蔽は同時にされ能力の本質は見抜けることは上位になるほど少ない。しかし、彼女の行動はわかりやすいものだった。

紙一重で避け、懐に潜り込む動きから、彼女の魔法は身体能力を上げるものだと予想が立てられている。

火や水、空を飛ぶと言った定番の魔法を使っている様子は特になく、相手の攻撃をひたすらに避け続け、強烈な一撃をもって相手を沈める。

一撃を受けた相手は総じて「動きが速すぎる、巨大なハンマーで殴られたようだった」と口をそろえて言う。


そんな彼女のことをなぜ話題に出したのか。

それは現在進行形で目の前の彼女に迫られていたのだ。

迫られているのは決してロマンチックなものではなく、掴まれた肩がじりじりと痛みを増していく状況である。


何が起こったのか。


それは自分が魔法を視覚的に捉えられることが原因だった。

魔法は魔力が事象に関与するまでは目に見えないが、ごく稀に魔力事態を視認できる人がいる。

魔力が見えると言うことは、魔法を使う人物がどのように魔法を使っているかある程度分かるのだが、彼女はその魔法を使っている様子が一切見られなかったのである。

その事を思い切って、模擬戦中に聞いてしまったのである。


「須直さんって魔力が見えないんだけれど、どうなっているの?」

この迂闊すぎる一言で、自分の肩とサヨナラをしなければならなくなりそうであることに、ひどく後悔している。

「君は魔力が見えるのか?」

切れ長の目を見開くようにして、こちらを真っすぐ見据える瞳にたじろぎそうになりつつ、肯定する。

「そうだけど……須直さんからはカケラも見えないから、どういう原理なのかと思って気になっていたんだ」

「そのことをクラスの誰かに言ったか?」

次第に殺気にも取れる圧を感じ始める。

「いや、そもそも魔力見えること自体言ってない」

「そうか……」

彼女はその瞬間、驚くべき速度で距離を詰めてくる。

そうして先ほどの状況となる。

肩を掴みじりじりと力を込められていく。

「それなら以降その話はしないことだ。君のためにもだ」

「いや、正直自分の見えることも秘密にしたいから、ここだけの話にしたい」

「わかった。放課後で構わないが、時間を頂くぞ」

NOとは言わせない迫力で彼女は掴んだ手に力を込める。

「約束するから、いったん手を放してもらえると助かる」

「すまない、力を入れ過ぎた」

何とか解放され、何事も無いように模擬戦は終わった。


なぜ秘密にしていることを彼女に話したのか。

自身が強くなるには、この見える力を何とかして鍛えていきたかったのだ。

そのためには、見えない秘密だけは何とかして明かしておきたかった。

上位陣の中で彼女だけが見えないことが不思議でならなかったことも、明かした一因でもある。


放課後になると、彼女は1枚のメモを握らせ、先に教室を出た。

『4階奥の空き教室で待つ』とだけ書かれていた。

約束を反故にするわけにはいかず、重い足取りで階段を上るのだった。

人の気配の無い4階は外の喧騒とは異なり、静まり返っていた。

最奥の教室の扉を開くと、彼女は待っていた。

「来ない可能性を考えていたが、杞憂だったようだ」

「待たせたならすまない」

彼女は首を振る。

「大丈夫だ。いつまでも待つつもりだったからな」

状況としては、美少女と放課後の教室で二人きりなのだが、ドキドキの方向性は確実に違っていた。

「ど、どうして呼び出しなんてマネを?」

「ふむ、確約が欲しくてな」

「確約っていうは?」

「君が私に対する魔力が見えない件について他言しないことをだ」

「も、もちろん約束はする」

「察しているかと思うが、私は魔法が使えない」

魔力が見えないことは一族の秘密にかかわる。なんて話であれば最悪消されるのではないかとさっきまで考えていたがそんなことはなく単純な話だった。

「あの強さで魔法が使えないは嘘だろ……?」

「人より少し運動能力が高いだけだ」

真っすぐな瞳は、嘘をついているような泳ぎ方はしておらず信じられるものかと錯覚してしまう。

「本当なのか?」

「もし信じられないのであれば、信じられる対価として何を求める?」

「いや、対価とか言われても」

「私に出せるものであれば、『欠陥品』などと罵られることは耐えられないからな」

「あぁなるほど」

須直さんの実力であれば言われたとしても腕力で黙らせることはできるだろうが、今後に関わることは確かだった。

「これはこちらからの提案なんだが、自分も魔力が見えることは他言してほしくない。代わりと言っては何だが、魔力が使えるように練習してみる気は無いか?」

彼女の目が先ほど以上に見開く。

「それこそ嘘なら許さないぞ」

今度はこちらがその視線を真っすぐに見返す。

「魔力が見えるだけじゃなく、魔力をある程度操作できるんだ」

魔力とは、本人のうちから操作するもので、外部から扱えるものはごく限られている。

更にそれを外部から操作し、他人に使わせるなどということは前代未聞の可能性もある。

しかし、これまでひた隠しにしてきた能力を試せる機会はここしかないとも思えた。


彼女は口をパクパクと何かを言いかけては、言葉が出ない様子であった。


「本当にできるのか?私に魔法が扱えるのか?」

「恐らくだが、できるはず……指を立ててみて」

恐る恐る彼女は人差し指を立てる。

体内の魔力を彼女の手に集中させる。

「今須直さんの手に魔力が集まってるから、指先からマッチの火みたいなものイメージして」

彼女は真剣に指先を見つめる。

「最初はこっちでやるから、感覚を覚えて」

すると小さな火が指先に灯る。

「大丈夫熱くない?」

「だ……大丈夫だ」

小さな火は数秒で消える。

「今の感覚でできそう?」

「やってみる」

改めて魔力を手に集め、促す。

10秒…20秒と時間が経過し、彼女の指に小さな小さな火が灯る。

「ついた……これは私がつけたのか……?」

「そうだよ。魔力はこっちで集めたけれどつけたのは須直さんだよ」

小さな火を見つめた彼女の瞳から一筋の涙がこぼれる。

「ありがとう。これが魔法なんだな」

一心に火を見つめてた彼女は切れ長の目を緩める。

「今日は思いがけないことがいくつもあった。良ければまた練習させてもらえないか」

「まぁ、自分も試したかったし協力させてよ」

彼女とお近づきなれるのであれば大歓迎である。とことん協力させても貰おう。

「ありがとう。肩は痣になってないだろうか、突然のことでかなり力を込めていたかもしれない」

「いやいや全然大丈夫」

くっきり手の跡がついているのだが、そんなことはもう些細なことだ。

最初は後悔したが、今となってはありだったのだろう。

それから何度も魔法の練習を暗くなるまで続いた。


「今日はありがとう」

だいぶ柔らかい表情となった彼女の振る手に振り返し。その日は解散となった。


これからお互いに日を合わせて練習するようになり、コンビとして活躍していくことになるのだが、それはまたいつか。

彼女との出会いは肩の痣と共に始まり、甘やかな日々へと変化してくのだった。


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