短編「素直クールは駄菓子屋にて」
今どき珍しい駄菓子屋には数名の小学生に混じって、制服姿の男女がいた。
男の方はきな○棒の爪楊枝をくわえたまま、無駄に真剣な面持ちで2つのお菓子を見比べる彼女を待っていた。
きな○棒から爪楊枝の味しかしなくなった頃に、少年たちが話しかけてきた。
「なぁ、兄ちゃんの彼女さ、5分くらいずっとうま○棒のコンポタ味とたこ焼き味で悩んでるけど今日は金ないのか?」
「いや、普通にそこらの高校生より持ってると思うがケチなんだよ」
「めっちゃ美人なのに残念だな」
「まぁ残念さがよく見える時もあるんだよ少年」
店先のベンチに腰掛け、手に顎を乗せると遠い目をする。
艶やかな黒髪を低い位置で結え、整った顔立ちは凛としており。見ている物がうま○棒で無く、花とかであれば随分と映える事だろう。
「お金あるならどっちも買っちゃえば良いのになー」
「それもそうだよな。うま○棒2本くらい20円くらいだもんな」
うんうんとうなずく少年。
しばらく眺めていた少年はうま○棒に悩む彼女の方へと向かっていく。
「姉ちゃん何悩んでんの?」
「私はコンポタ味が好きなんだが、原価の高さならたこ焼き味なんだ。それを考えたら、たこ焼き味にするべきでは無いかと思うんだが、やはりコンポタも捨てがたい。しかし、せっかく食べるなら久しぶりにたこ焼きも良いと思う。あの濃いめのソース味を思い出すと悩ましい。だが、あの優しい甘さはいつだって私の好きな味なんだ。いや待て、たこ焼きだって
……」
少年は諦めたように戻ってきた。
「兄ちゃんよくあんな姉ちゃんと一緒にいるな」
「女性の買い物は何であれ長いんだよ少年。君が高校生くらいになるまでに我慢できるようになるんだぞ」
少年はとてつもない苦い顔になりつつ。買い物の終わった友達と合流して帰っていった。
「兄ちゃんまたなー」
「おー、気をつけて帰れよー」とひらひらと手を振る。
いまだに店内でしゃがみ込み、真剣な表情を崩さずにぶつぶつと怪しげな呪文を呟く彼女のうま○棒を取り上げる。
「あ、待っ……」
抗議を受け付ける前にお金を出す。
「おばちゃん、うまい棒2つ」
奥で船を漕いでいたおばちゃんに商品を見せつつお金を手渡す。
そして、二本を彼女へと戻した。
「悩むなら買っちまえよこれくらい」
不満そうな顔をした彼女だが、素直にうまい棒は受け取った。
「べ、別にお金が無いわけじゃ無いぞ」
「いや、知ってる」
彼女はたこ焼きをこちらに向ける。
「半分食べて」
「なんで」
「買ってくれたんだ。君に食べる権利がある。でも半分は欲しい。それに君はたこ焼き味が好きだろう?」
「まぁそうだな」
受け取りベンチへと腰を下ろす。
彼女は店先の自販機から炭酸を買う。
「ジュースはすんなり買うんかい」
「駄菓子にはファン○だろう?」
「いや、コー○ってのもありだろ」
彼女は首を振る。
「コー○なら、チョコかポテチだな」
まぁ言われてみればと納得してしまった。
彼女はコンポタを開けると一口かじる。
先ほどの真剣な表情から一変して口もとを緩めた。
「やっぱりうまいな」
しみじみと言ってから缶のファン○も煽る。
「けふー。放課後の楽しみだな」
彼女とほぼ毎週1回は通う駄菓子屋。
小学生の頃初めて連れてきたのだが、それまで彼女は駄菓子なんて食べた事が無かったそうだ。
お菓子と言えば、箱に入ったクッキーや母親手作りケーキ。
そんなお嬢様感のあった5年ほど前から、随分と庶民的になった物だとしげしげと眺める。
そんな彼女と目が合う。
「ファン○なら好きに飲んで良いぞ」
「ありがとよ」
たこ焼き味を味わいつつファン○を飲む。徐々に暑さの残り始める季節となった夕暮れのベンチ。
こんな日の事を思い出す事もあるのだろうかと、夕日を見るとセンチメンタルな気分になる。
「また来週も来ような」
「もちろんだとも」夕暮れに染まった彼女は当然だと言うように返事をくれる。
顔の熱さをごまかす必要の無い夕暮れで良かったと安堵するのだった。
キャベ○太郎を食べながら書きました。
お菓子の名称とかってやっぱり伏せ字の方が良いですよね?




