短編「秋と冬の間くーる」
いつまでが秋で、いつからが冬なのだろう。
明確な境目なんて無いのに、何か明確な切り分けが欲しかった。
しかし、世界は徐々に色付き始めた木々が山肌を染め上げ、吹き付ける風は日毎に冷たくなっていく。
「なぁお前はそろそろ上着とか着ないのか?」
マフラーを巻き、ダッフルコートを制服の上から着込んだ男は隣を歩く女の子へと声を掛ける。
「私はこの間セーターとタイツを出したばかりだからまだ早い気がするんだ」
コートのポケットへ手を入れ極力小さくなり、温かそうな男とは対照的に、隣を歩く女の子は卸したての少し大きめなセーターから指先を少しだけ覗かせ、姿勢良く歩いていた。
「冬になったらマフラーとコートを出そうと思うんだ」
男の子はいつもの事かと適当な相槌を打つ。
「もう冬みたいなもんじゃ無いか」
「いや、私の中ではその境目がまだ無いんだ」
寒くなったら冬で良いじゃないかと曖昧な感覚で生きてきた自分にとって、隣を歩く女の子のきっちりと物事を白黒付けたい性格は面倒ではあるが、別にまぁ良いかと思っていた。
小学生から付き合いのあるこの女の子は、頭が良く要領も良いのだが、1度自らにルールを決めると絶対に譲らなかった。
「去年まではどうしてたんだ?」
「立冬から着ていい事にしていた」
「じゃあ今年もそれで良いじゃないか」
女の子は腕を組み答える。
「いや、今年の立冬の日はとても良い天気で全く冬と感じなかったんだ」
感じなかったと言っている時点で曖昧な自分ルールだなと思うが、その事には面倒なので触れることはしなかった。
「立冬は冬じゃないと思ってしまってからは、ずるずると過ごしてしまってな」
まったくこいつは、融通が利かな過ぎるだろ。
「どうなったら冬になるんだ?」
「逆にどうなったら冬になるんだろうか?」
その問いは自分にしたものか、自身に問い掛けたのか分からないが、2人して考え込む。
無言の状態で歩き続けると、冷たい風が吹き抜けた。
クシュン!
やけに可愛げのあるくしゃみを女の子が発する。
「ほら、やっぱり寒いんだろ」
「そうだな、寒いらしい」
「じゃあもう冬だ」
「……だがしかし、秋が深まっただけかもしれない」
この女は無駄に強情である。
仕方ない、少し裏技を使う事にする。
目的の場所で立ち止まり、ポケットからスマホを取り出す。
ガコンッと落ちる缶の音で女の子はようやく足を止めた。
振り返った女の子へと、目的の物を放り投げる。
「あったかいな」
冷え切ったであろう指先でしっかり受け止められたミルクティーは、手の中でさっそく転がされていた。
「これがこれからの秋と冬の境界線だ」
「君がくれたあったかいミルクティーと言うことか?」
「そうだ。自販機でミルクティーがあったかくなったら冬だからな」
「ふふっ。そうか、これなら分かりやすいし、あったかいな」
君と居るだけで私の世界はいつだって色付き季節が巡る。
こんなにも寒い冬だって君のおかげであったかくなれた。
「来年もミルクティー期待しているからな」
男「あれ?俺が買ったミルクティーって言う縛りは都合よく捉え過ぎだろ⁈」




