表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
素直でクールな彼女  作者: わほ
15/46

短編「幼女くーる」

最近ファンタジーで素直クールが書きたくなり、『マッチ売りのクー』と言う別連載を始めましたので、良ければどうぞ。

ちなみに『幼女クール』の季節は今と真逆の春なのは、だいぶ前に書いたまま放置していたからです・・・。

かなり昔の話だが、こんな事があった。


「リンゴが2つあります。

 子供が4人いました。

 さてリンゴを貰えない子供は何人いるでしょうか。」


目の前の少女は、鉛筆を握りしめ「うーん」と考え込み始めた。


そしてしばらくすると少女は質問してくる。

「そのリンゴ私は貰えますか?」

僕は苦笑しながら答える。

「そうだね、空ちゃんは貰えるよ。」

「そうなんですか?それなら、貰えなかった2人には空がリンゴを切って分けてあげるので、4人全員リンゴは貰えます。」

その少女は真っ直ぐな瞳でこちらを見つめてくる。


もちろん望んでいた答えではないのだが、ここでこの答えを否定するような気にはなれなかった。

「空ちゃんは優しくて偉いね。正解だよ。」

そう言いながら頭を撫でてやる。

「空偉いですか?空はお兄さんに頭撫でられるの好きです。」

そう言うと目の前の少女ははにかんだように控えめに笑った。

「そうかそうか、空が偉い子でいたらいつでも撫でてやるぞ。」

「空は偉い子なので、もっとお勉強します。お兄さんはもっと教えてくださいね。」


空ちゃんはお隣の少女なのだが、親同士が仲が良く子供を置いて出かけて行くことや、単純に宿題を見てやることが度々あった。

子供の相手は嫌いでも無く、空ちゃんは小さいながら手の掛からない行儀の良い子供だった。


それからしばらく月日は流れ、その少女は高校生になろうとしていた。

3月も後半に差し掛かり、桜もちらほらと咲き始めた麗らかな春の日に告げられた。


「やっと受験勉強から解放されたので、構ってください。」

「そうだな、合格祝いもまだだったし。大人パワーでなんでも良いぞー。」

「なんでもいいならそうですね、最初の合格祝いは頑張ったので頭を撫でてください。」

そう言って少女はズイっと頭を寄せてきた。

「頭を撫でて欲しいなんて空ちゃんもまだまだ子供だなぁ。」

少し頬を膨らませた少女は抗議する。

「もうすぐ高校生ですから。子供じゃなくなってるんですよお兄さん。」

「子供じゃないなんて言っているうちはまだまだだよ。俺なんかもう子供に戻りたくてたまらない。」

「お兄さんが子供では困ります。ちゃんと大人でいてもらわないと。私が遊びに連れて行ってもらえないじゃないですか。」

「あー俺は空ちゃんの財布になっている気がするよ。

 空ちゃんが働き始めたら、これまで支払ったぶん養って貰おう。」

「良いですよ。私がお兄さんを養ってあげます。」

「おー期待してるぞー。」

そんな風に笑いながら冗談を言い合い、自然な距離を保っていた。

はずだった。


「じゃあ2つ目の合格祝いは、聞いて欲しいお願いがあるんです。」

「たくさんあるなんて欲張りだなぁ空ちゃんは。」

「大丈夫です。2つ目までしかありませんから。」

「おーなんだなんだ?」

「お兄さんは一人しかいませんよね?」

「もちろんそうだぞ。」

「お兄さんを私に貰えませんか。」

ほうほう、俺が欲しいと。

ん?

ん??

「ん?!」

「聞こえませんでしたか?お兄さんが欲しいです。」

「待て待て、欲しいってなんだ。」

「そうですね、具体的には私と結婚を前提にお付き合いをお願いします。」

なるほどなるほど。だから俺が欲しいということなんだな。

よし分かった。何が起こってるのか全然わからないことが分かったぞ。

「ダメですか?

 お兄さんは一人だけです。だから、お兄さんと結婚できるのは一人だけです。

 これだけは誰かに譲りたくないんです。」

「け、結婚って空ちゃんまだ高校生前だろ?!」

「そうです、法律上もまだ満たしていません。

 ですので、予約をしたいんです。」

「空ちゃんは俺と10歳近く離れてるぞ?!

 なんでこんなおっさんを・・・。」

「お兄さんはおっさんなんて年齢じゃないですよね。

 それにあと五年もすれば年齢差なんて気にならなくなるはずです。

 でも、五年もお兄さんが独り身の可能性はきっと低いです。」

「いやいや、俺はこれまで彼女とか居たこと無かったし。」

「そうですね。親しげになりそうな女性の前では私がチラチラと顔見せしましたから。

 お祭りも、プールも、旅行も、極力私が付いていきましたからね。」

あれ、もしかして今まで女性と仲良くなりそうになると、

空ちゃんがべったりしてきたのはそういうことだったの?

って言うか今まで気が付かなった俺は鈍感なのか?

年齢の割に大人びていたなと思ってはいた。

うんうん、よく見ると少女なんて言っては失礼かもしれない。

背丈は自分より低く髪は丁寧に結われており、目は切れ長の少し厳しそうな雰囲気を醸し出すが、唇はほんのりと潤いを持たせているため印象が柔らかくなる。

すらりとした手足を持つ彼女は十分に女性らしくなりつつあった。

5年もしたらとてつもなく美人になる気がしてならない。

こんな可愛いと思ってしまった娘と結婚できるの?いや、この場合まだ婚約か。


「俺ってかなり鈍感なの?と言うか何で突然そんな事を?!」

「1ヶ月ほど前ですが受験勉強中お兄さんに分からないところを教えて貰ったじゃないですか。その時昔の事を思い出したんです。」

「昔の事ってなんだ?」

「多分あれは引き算の勉強をしていたと思うんですけど、例題に使っていたりんごを分けてあげるって答えたんです。」

そんな事があったような無かったような。

はるか昔の記憶は朧げな形をつくる。

あー、高校生ながらわりと衝撃的な優しさを感じた事を思い出した。

「うん、あったかもしれない。」

「あの時はりんごでしたけど、お兄さんに置き換えたらって思うと突然独り占めしたくなったんです。」

「な、なるほど?」

「だから先に予約しておこうと思った次第です。」

「拒否権はあるんですかね?」

「拒否したいんですか?」

「いや、少し反抗期を演じてみただけだ。」

「そう言う冗談は今不要です。」

「ハイスミマセン。」

少しシュンとする。

「でも、私もまだまだ子供なのは本当なんですよね。世間も知らない箱入り娘です。」

自分で箱入り娘と言うのだろうかと質問しかけたが、きっと彼女なりの冗談のため、黙っておく事にした。

「なので、予約だけ!予約だけで良いんです。お願いします。」


暖かな風がひと吹きすると、桜が数枚舞い落ち、空ちゃんの頭の上に落ちる。

それを払うように頭を撫でる。


「予約するならちゃんと受け取りまでするんだぞ。でないと、三十路野郎が世の中に野放しにされる事になるんだからな。」

「安心して下さい。私は買わない予約はしないんです。」

「そうかい。」

照れ隠しに頭をくしゃくしゃと撫でる。


「お兄さんのために気合い入れて結ったんですから。崩さないでくーだーさーいー!」

喋らせないようにくしゃくしゃをより激しくする。

「諦めて大人しく撫でられてな。」


「お兄さんは仕方ない人ですね。」

二人の間に流れる春の風が別の春を告げるように優しく頬を撫でていった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ