第9話「本物」の沙織のママwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
「入るわね」
そう言って入ってきたのは、沙織のお母さんであった。
わざわざお菓子とお茶を持ってきてくれたのだ。
いつもおいしいお菓子やお茶を出してくれて、それはそれで凄く嬉しかったんだけど、今日はあんなことがあった直後だし、学校にも行かず朝からこんなことしてて良いのかなと思った。
本当だったら今頃入学式も終わり、新しいクラスごとに分かれてオリエンテーションが行われているはずだ。
それはきっとまだ見ぬ高校生活に期待しながらも、若干緊張した面持ちで受けていたのだろう。
義務教育ではない高校でのスクールライフは、大人になるための第一歩だと思う。
しかし、実際今何をしているのかといえば、だらだらとアニメを見ながらお茶とお菓子を食べている。
何だか人として堕落してしまいそうだ。
でも沙織はそんなこと全く気にしていないようで「モンブランのクッキーwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」と騒ぎながら、僕から離れベッドから飛び降りた。
あーあ、これで良いのかなあ?
でも今日は学校からうまく逃げ出しただけでも良しとしないとな。
沙織は全く何も考えていないみたいだし、本当に今後の高校生活が思いやられるよ。
沙織のお母さんはテーブルにお茶とお菓子を置くと、それに釣られてテーブルに飛びついた沙織を見てその横に座った。
むしゃむしゃとクッキーを食べる沙織を、沙織のお母さんは優しく見つめた。
「今日は何があったの?」
沙織のお母さんは沙織にそう聞いたんだけど、それは幼稚園の時と全く変わっていなかった。
小さな子にも分かりやすく、そして自分の言葉で返事ができるように。
沙織の心に負担がかからないよう、追い込んだりせずにゆっくりと優しく。
いつもこの光景を見ていると、沙織がとても愛されて大事に育てられているのが伝わってくる。
確かに沙織を怒ってみたところで、どうにもならないからな。
見た目はめっちゃキレイだけど、中身は子供のままなんだからね。
沙織はクッキーを食べながら沙織のママを見ると、小さな子供が甘えるように病んだ笑みを浮かべた。
「ママwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww差身と同じクラスになれなかったんだwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwあと学校が爆発したから差身と逃げてきたwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
沙織が楽しそうに他人が聞いたら訳の分からないことを話したんだけど、沙織のお母さんは優しく微笑み頷きながら沙織の話を聞いていた。
「それはね、今までは沙織が差身君と同じクラスになるように先生に頼んでたけれど、パパとママが話しあって、高校生になったら先生に頼まないことにしたのよ」
その衝撃的事実を聞いて沙織が驚いた様子で口を開けていた。
えっ!嘘だろ!!!!!そんなことって可能なの?????
じゃあ、今まで偶然だと思っていたことは、全部沙織の両親が手を回していたってことか???
「そうなのかwwwwwwwwwwwwwwwwww今まではパパとママが頼んでくれていたのか?wwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「そうよ。沙織も少しずつ大人にならないといけません。大人になったら差身君と結婚するでしょ?差身君が会社に行っている間は1人なんだから、少し差身君と離れていても大丈夫にならないとね」
おい…何勝手に沙織と僕が結婚することになってるんだ?
あなた達…僕の意見を1度も聞かずに、沙織と僕が結婚することが既定路線になっちゃってるの?
一生僕に沙織を面倒見せるつもりなのか?
ねえ…ねえっ!!!!!!
「そうかwwwwwwwwwwwwwママわかったwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww結婚したら少し離れていないといけないwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwパパの会社で働けばすぐに帰ってこれるかな?wwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
沙織が沙織のお母さんの話を素直に聞いていた。
そこには全く疑いがなく、沙織が沙織のお母さんを心から信頼しているのが分かる。
沙織のお母さんは沙織にそう聞かれると、優しく微笑み「うん」と頷いた。
待ってよ…まだ将来どうするかなんてわからないんだけどさあ…
どうして2人で僕の就職先まで決めちゃってるの?
それに沙織のお父さんの会社って何するところなのよ?
あの人から危険な匂いがするから、なるべく関わらないでいたいんだけど!!!
僕の「死亡フラグ回避センサー」が沙織のお父さんに近づくなって言ってるんですよ!!!!
おかしい…僕の未来はこれからだっていうのに…
このまま大人しくしていると、この人達に僕の将来を決められてしまう。
でもここでなにか言い返した所で、問題が大きなるだけだ。
何も良い方向に話は進まない。
あああ…胃が痛い、胃が痛い…
何だか胸も凄くバクバクしてる気がする…
僕は何も言えないまま、強いストレスを抱え、身動きできなかった。
ただただ、この「本物」の親子を、じっとベッドの上から凝視していた。