第4話「本物」の初登校wwwwwwwwwwwwwwwww
穏やかな春の風が新品の制服を着た僕達を包んでいく。
同じ新品の制服を着た新入生に囲まれながら、僕と沙織は高校へと向かっていた。
もう新しい学校は目の前だ。
さっきは沙織から開放されるのに時間がかかったが、なんとかちゃんと遅刻せずに間に合いそうだ。
入学式から遅れていたら、これから3年間良い高校生活を送れない気がする。
何でも最初が肝心なのだ。
でも沙織は学校に近づくにつれ、歩みが遅くなっていった。
「おwwwwwwおいwwwwwwww差身wwwwwwww知らない人がいっぱいいるぞwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
沙織が僕のそばにピッタリと寄り添い必要以上にゆっくりと歩きながら、病んだ怯えた声でそう言った。
沙織はあからさまに挙動不審な様子で、周りをキョロキョロ見ながら小さくなっている。
見た目の艶やかさに反して、沙織は見たこともない場所や同じ学校の生徒に怯え震えていた。
沙織は僕以外の人と接することを極度に恐れていて、僕以外の人とどう接すれば良いのか?何を話せばいいのか?全く分からないみたいなのだ。
まあ人間は分からないものに対して不安を抱くみたいで、大事に育てられすぎて同年代の友達と接する機会がほとんどなかった沙織は、僕以外の人達が理解不能な生き物に見えてるんだと思う。
沙織はめっちゃ空気も読めないし、このままだと駄目になるから、少しずつ僕が世の中に慣れさせないとな。
ずーーっと沙織がめっちゃ僕にくっついているせいか、周りの人達がみんな見ている気がする…
あれかな?登校初日からリア充を見せびらかしてるなんて勘違いされている?
違うんだよ!!!!!みんな!!!!
沙織の見た目に惑わされたら駄目だよ!!!!!
君達が見ているのは!!!!ただの高校に行きたくなくって引きこもりかけた「本物」なんだよ!!!!!
魅せつけてるんじゃないんだ!!!
君達の視線に怯えてるだけの「本物」なんだよ!!!!!!
「大丈夫だよ。みんなこれからこの学校に入学するんだから、沙織と同じで不安なんだよ」
僕が子供をなだめるようにそう言ったんだけど、ついに沙織はその場に立ち止まり1歩も動かなくなってしまった。
「だwwwwだwwwwwww駄目wwwwwwww駄目だwwwwwwww帰ろうwwwwwww差身wwwwwwwwwwwこの国は間違っているwwwwwwwwwwwwwwwww」
沙織はガタガタ震えたまま僕の腕にしがみつき病んだ笑みを浮かべ首を横に振った。
そしてその震えは、どんどん強くなっていく。
ああ、駄目だ…今年で16歳になるというのにどうしようかなあ…
さっきまで学校に行くことより相当ヤバイことをしてたのに、学校に行くことはできないんだよなあ…
「何言ってるんだよ。まだ、教室にすらついてないだろ。大丈夫だよ。昨日言ったことは全部覚えているか?」
僕が慌てたり怒ったりすると余計に収拾つかなくなる。
昨日沙織に新しい学校でうまくやるために教えたことを思い出させようと、小さな子供に物を教えるようになるべく優しくそう言った。
教えた内容自体は状況によって役に立つかどうか変わってくるけど、それを覚えておくことによって沙織が怖くなってしまった時に「そう言えばこういう時はああしろと言われたな」と思い出せれば良いなと考えていた。
何かあっても不安になって大慌てせず、僕の教えたことを思い出して落ち着けるように、心の常備薬を僕がプレゼントしたのだ。
「もちろんだwwwwwww全て記憶したwwwwwwwwでもwwww怖いんだwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwそこまでして行く価値があると思えないwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
沙織はこの世の終わりのような顔をしながら、僕を地面にでも座らせようとしているのかしゃがみ込むようにして僕のことを引っ張り続けた。
何だか地獄へ引きずり込まれるようだ。
だけどさすが沙織だ。昨日僕が言ったことは全部記憶したんだろうな。
沙織はとても聡明でテストを受けさせればいつも優秀な成績なのである。
本来であれば僕なんかが行く偏差値の高校など通うはずがなかった。
だがしかし高校受験前、志望校を決める時に「高校にはいかねwwwwwwwwww」と沙織は言い出したのだ。
基本的に引きこもりの沙織は新しい環境が怖いようで、進学も就職もせずに家で「永遠の夏休みwwww」を始めるのだという。
沙織は「永遠の夏休みwwww」という進路を選択したわけだが、それを周りが許すはずもなく、何故か僕が沙織のお母さんと担任の先生から「なんとかしてくれ」と相談された。
僕と沙織は幼馴染みなのでずっと一緒だからというのもあるんだけど、正直親も先生もどうして良いのか分からなかったのだろう。
時間はかかったが何とか沙織と話し合って「差身が進学する高校だったら通うwwwwwwwwwwww」ということになったのだ。
沙織は僕と違う高校に進学したり、ずっと家で「永遠の夏休みwwww」を過ごしていると、僕と全然会えなくなってしまうということに気がついたらしい。
それはそれで沙織にとって、とても恐ろしいことなのだ。
沙織の理想は沙織の部屋で僕と永遠にのんのんびよりを見続けることであって、完全なる孤独を望んでいるわけではない。
「差身wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww我々のニャンパスの巣へ帰ろうwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww録画したのんのんびより りぴーとを見るのんwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
沙織の透き通った「本物」の目は、僕に甘えるように「無理だから帰ろうwwwww」と言っていた。
その美しい病んだ目には涙が浮かび、沙織はとても苦しそうだった。
あー、どうしうよう…
どこかへ遊びに行くのであればそれでも良いんだけど学校だからなあ…