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妄想遊戯  作者: 秋鹿
8/10

妄想が迷走中

 私は相田広子。32歳。

 今日も今日とて、全然仕事をせずに、同僚を相手にムフフな妄想を広げている。

 いや、広げたい。と言ったほうがいいかもしれない。

 何故か今日は全然仕事をしない同僚に絡まれて、私の妄想時間が削られていく。


「まぁ、漢の中の漢ってのは置いておいて……」


 コホンと席を払う小堀さん。

 先ほど思わず歓声を上げてしまったのが恥ずかしいのか、ちょっと頬が染まっている。

 くそう!可愛いな。攻め上げたくなるな。

 先ほどまで全然仕事に関係のない「男のよさ」について語っていた。

 どうも同僚2人には私の発言を自分たちの都合のいいように解釈する機能がついているらしく、私のどうでもいいBL格言が、男の一生についての格言のように扱われている。

 因みに、彼らは私のいう「男」を脳内フィルターで「漢」に変換している感じである。

 彼らの中で、私はどんなキャラにされているのだろう。

 

「相田さんは、男の人のどこに惹かれるの?」


 真っ直ぐにこちらを見てくる小堀さん。

 真っ直ぐ過ぎて、こちらの疚しさを責められている気になる。

 私は慌てて視線を回避するために、しっかり眼鏡をかけた。

 すると菊池さんが残念そうに眉を寄せる。


「眼鏡、かけちゃうんですか?おれ、眼鏡ない方が好きだな~」


 ぎゃ~菊池のアルカイックスマイルに浄化されそうだ!

 やばい、悪魔の羽が燃えてしまいそうだ。

 なんで、こうも簡単に好きとかいうんだ!

 モテ男子に耐性のないアラサー女子にはきつい、きつすぎるぞ。菊池!


「ねぇ、先輩」


 にっこりと小堀さんに話題を振る菊池さん。

 対する小堀さんは何故か真っ赤になって視線を逸らして、口元を覆っている。


「あ、ああ。眼鏡ない方が優しく見えるな。で、でも、眼鏡しとけよ、相田さん。眼鏡してないと、他の人の目に留まるし……ゴニョゴニョ……」


 なんか小堀さんらしくなく、歯切れが悪い。

 きっと気を使って褒めてくれたのだろうが、実直な裏表のない彼は、とりあえず褒めておけばいいやみたいな、菊池さんのようなことはできないんだろう。

 褒めなきゃって分かってるのに、言葉が浮かんでこない的な不器用さが彼にはある。

 てか、女性を褒めると菊池さんが鬼畜なスマイルで


「フフッ、先輩はそういう女性が好みなんですか?」


とか言って、小堀さんにヤキモチを焼くんだろうな。

 だから年齢の割にちょっと初心な反応になるんだろうな。

 いいな、そういう絡みもいい。

 あの、ゴニョゴニョの部分に


「他の人の目に留まるから、菊池にも眼鏡をしてほしい……」


とか、心の声が出ちゃいましたって感じのセリフを埋めたらもう、あなた、羽ばたくしかないじゃないですか!

 いでよ!腐ェニックス!!


『他の人の目に留まるから、菊池にも眼鏡をしてほしい……』


『え?今なんて言ったんですか?よく聞こえなかったな、小堀先輩?』


 最大限の甘いスマイルで小堀を見つめる菊池。

 バラとかしょっちゃって、もう二人の世界だ。

 あまりにも甘い視線で見つめられて、小堀は顔を真っ赤に染める。

 そして照れ隠しなのか、ぷくっと頬を膨らました。


『べ、別に、相田さんを褒めただけだし、お前のことなんてこれっぽちも……』


『これっぽっちも?』


 何故か眼鏡を取り出し、鼻に引っ掛けるようにかける菊池。

 現実世界では一度だって眼鏡をかけているところを見たことないし、視力は両方1.5なんですって、中学生の自慢みたいなこと言っていたけど、妄想ならなんでもありだ。


『なんでおれの方を見ないんですか?それとも見れないんですか?そうでしょうね。この眼鏡をかけている時は、家で寛いでいる時、つまり、勝にご奉仕させている時ですからね』


 そっと小堀の頬に顔を寄せる。

 いやん!いい!眼鏡菊池!

 家で寛ぎながらの絡み合いもいいな……。

 一人暮らしにしては広すぎるマンションのリビング。

 きっと彼らは同棲してるんだ。会社には内緒で!

 そのリビングに置かれた革張りのソファーに座り、コーヒー片手に英字新聞を読む菊池。

 妄想菊池は普段コンタクト、家では眼鏡。ついでに眼鏡は縁なし希望。

 なんかお洒落にVネックの、ピチャっとした着る人を選ぶような服を着てる。

 胸元にはシルバーリングを通したチェーンをつけている。

 これは小堀とお揃いなのだ。

 その足元には犬耳をつけた小堀が潤んだ瞳で菊池を見上げていて……。


『け、けいぃ。おれ、もう……』


 家では甘えまくりな小堀。

 何故か舌足らずな話し方で、何かを期待するように頬を染めている。

 そんな小堀には、何を着せようか。

 なんか犬っぽいコスチュームもいいな。

 無難に、パーカーとかでも可愛いな。

 それとも菊池の大き目Yシャツだけをワンピースのように着ているってのは、どうだろう。

 第一ボタンを開けているだけなのに、くっきりした鎖骨まで見え放題って、こりゃ、もう鼻血が止まらなくなるわ。

 そこで同じく鼻血が出そうな菊池がべっろべろに甘い笑顔を浮かべ、小堀の頬に手を添える。


『おや、口がお留守になっていますよ。頑張れば、後でたくさんご褒美を上げましょう。貴方の好きな濃厚なミルクをたっぷりあげますからね。どっちがいいですか?前から?それともやっぱり、後ろから……』


「やっぱり、後ろ?」


 不思議そうな小堀さんの声に私は、ハタと気づいた。

 やばい、またしても妄想が口から洩れていたらしい。

 前か、後ろか?そりゃやっぱり後ろからだろう。犬耳つけてるし、まるで獣のごとく互いを求め合ってほしい……なんて、腐った妄想がフィーバーし過ぎたらしい。

 一番ダメな部分がまるで涎のように口から垂れていたとは……。

 ドッドッと早鐘を打つ心臓をなんとか押さえつけ、私はギギギッといびつな動きで小堀さんの方を見た。


「えっと、あの……」


「漢のよさが背中で語るっていう相田さんは、やっぱり見た目も後ろが気になるの?」


 いつもどおりの屈託ない表情だ。

 自然体そのものって感じの仕草ができる人は、意外に少ない。

 

「見た目も背中って……別に背筋に惹かれるとか、そういう趣味はありません」


「じゃあ、どんな人が好みですか?」


 素っ気なく答えているのに、何故か笑顔で食いついてくる菊池さん。

 こちらは小堀さんと違って、さらっと卒がないのに、わざとらしい。


「それ、気になるな。相田さんって何考えているか分からないから、どういう人に興味あるのか、気になる」


 まるで宝箱の中身が気になる子どものような顔でこちらを向いている二人。

 何故、こんなにも干からびたアラサー女子の好みが気になるんだ。

 私の中の小箱を開けても、中には色々と腐っていて、ピーでピーピーなものばかりだ。

 さっきから男のよさとか、好みとか、合コンかよって感じの質問ばっかりだな。

 ついでにそんなことから興味がそげて、もう何年になるんだろうと一瞬真剣に考えて、ちょっとだけ落ち込んだ。

 好きなカップリングならいくらでもあげられるんだけど、きっと彼らには永遠に分からないだろう。

 まず、受けと攻めって言葉からして分からないはずだ。

 説明してもバスケットボールをしていた菊池さんなら


「それって守りと攻めってことですか?オフェンス?ディフェンス?」


とか聞かれそうだ。

 もっと露骨に説明してみようか。

 ここは教育テレビのお姉さんみたいなテンションで、


『はぁ~い!みんな!男同士の恋愛ではね、夜の営みの際にそれぞれ役割分担があるんだよ。まずがタチ、もう一つはネコっていうんだ』


『タチとネコ?どう違うんですか?』


『はい、勝くん、いい質問だね。じゃあ、実際に役割に分かれてみようか。勝くんがネコで、敬くんがタチね』


 こうやって無邪気な勝くんと敬くんに大人の階段を昇らせてみるのも面白い。

 いけない教育テレビのお姉さんは二人に隠れてジュルリと涎をぬぐった。


『え~俺、普通に野球したい。べっつに、夜の営みとかどうでもいいし!』


 無邪気でやんちゃキャラのチビ小堀が私の妄想の中で勝手な行動をとる。

 チビ菊池は、きっと両方の意味を分かった上で分からないみたいな顔して、チビ小堀にネコをさせようとするんだろうな。


『まさるくん、ダメだよ。お姉さんの言うことを聞かないと!ちゃんと二人で夜の営みについて学ぼうよ』


『俺、勉強嫌いだし!ってか、タチとネコって、ひろしかよって話だよな!』


 子どものくせに、何故か渋いラインナップでまとめてきた。

 そんな腐った大人の世界で上る冗談をさらっと、しかもドヤ顔で言うなんて。

 そう返されたら、お姉さんのいけない教育番組は終了せざるを得ないな。

 まさか館ひろしと猫ひろしに邪魔をされるなんて、そうやって、妄想をさせない気ですか。チビ小堀め。


「……ひろし……です……か」


 悔しげに唸った拍子に頭の中の言葉がポロリとこぼれた。


「ひろし……」


「ですぅ?」


「んん?」


 何か視線を感じ、私は目の前の二人の顔を見つめた。

 ぎゃあ~またしても、またしても~!

 また、このどうしようもない口が意味不明なBK妄想を語っていたらしい。

 なんでも思ったことを口にする腐った唇にこれほど嫌気がさしたことはない。

 何故だかギョッと目を剥く二人の前で私はただ、あわあわと慌てるしかできない。

 何を言ったんだ、私は。

 できるだけ穏便に済むワードでありますように!


「あの、えっと……その……」


「いや、いいんだ。相田さん。人の好みってそれぞれだし!」


 なんだ、その何の慰めにもなっていないフォローは。

 そして、なんで若干残念なものを見るような、しょっぱい顔をしてるんですかね。小堀さんは。

 本当に私は何を言ったんだ。何を言えば、しょっぱい顔されるんだ。

 

「意外だな~。そういうのが好みなんだ。あ、雰囲気ですか?アダルティな感じですか?」


 頭よさそうな顔して、なんてあほっぽいこと言ってんだ、菊池。

 何故にそこまで興味津々。

 ああもう、私の口、死ね!

 何を口走ったんだ?

 なんで菊池さんはノリノリなんだ。

 もう訳が分からなさ過ぎて、私の思考は考えることを放棄した。


「分かるな~狭くて、薄暗くって、ちょっとくすんだバーとか、大人っぽくて憧れますよね~。あの、何言っているか分かんない歌をさも知ってますって顔して聞いてみたいッス」


「ええ?お前の好みよくわかんねぇよ」


「え~先輩、ああいうの惹かれません?」


「別に?ってか、単純に相田さん、博多弁が好きなんじゃ……」


「違いますよ、雰囲気です!」


「いや、方言だろ?俺も広島弁とか好きだな」


「方言もいいけど、男は黙ってバーボンですよ!」


「バーボンなんて飲めないくせに、言うなじゃけー」


「それ、無理があります!」


 なんてギャーギャーと言い合う二人と頭を抱える私。

 これが私の日常である。



 数時間後。

 パチパチパチッ―――。

 遅れた仕事を取り戻すために、妄想には走らずに仕事をする私。

 そこに同僚の茨城さんが来て、こそっと話しかけてきた。


「ねえ、なんで二人して、斜め四十五度下を見てるの?」


 いつもは騒がしい同僚二人は何故だか静かだ。

 さっきまで男の良さだの、私の好みだの気にしていたくせに。

 男の人は良く分からない。

 ダンディズムと方言でもめにもめていたようだが、私は自己嫌悪に陥っていて、それどころではなかったので、どういう経緯で彼らが斜め四十五度下を向くに至ったかは分からない。

 観察者失格であるが、今回ばかりは私の失言も含めて、全部なかったことにしてほしい。

 しかもこのクールビズの季節に、どこから引っ張り出してきたのか、背広を着ている。


「さぁ?なんでだろ?斜め四十五度下を見たいのは私の方だっての」


 そうため息を零すが、茨城さんは怪訝な顔をするばかりだ。

 そこに、我が営業2課のダンディ課長総川攻介そうかわこうすけ42歳が通りかかった。

 くっきり二重で、余裕な大人の余裕を湛えた顔でこちらを向くと、おっと声を上げた。


「なんだ、二人して夏風邪か?馬鹿でも風邪は引くんだな~無理するなよ~」


 はははっと白い歯を出して笑い、自分の席へ向かう。

 その言葉に茨城さんがなるほどっと手を打った。


「ああ、風邪ひいたから落ち込んでんのね。反省ならサルでもできるってことかしら?」


「単純に騒ぎ疲れただけじゃない?」


 


また書いちゃいました。本当にお目汚し、すいません。

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