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妄想遊戯  作者: 秋鹿
2/10

妄想は乙女の嗜み

「なあ、相田さん。この資料、まとめといてくれない?」


 そう言いながら、書類のファイルを渡してきたのは、年下の上司、小堀勝こぼりまさる主任。28歳だった。

 165センチの私とさして変わらない身長に、華奢な体つき。

 そんな体付きのくせに、昔は野球部だったなんて。実においしい設定だ。

 切れ長の目とすっきり高い鼻立ちの正統派男前

 性格はとにかく勝気。前向きなムードメーカー。

 ついでに自信家で、すぐに調子に乗る。

 でも根が真面目で単純だから、すぐにその勝気をからかわれる。

 そんなところがオジサンたちは可愛いのか、よく目を掛けてもらっているようだ。

 身長の所為か、かなり幼く見えて、学ランを着ても違和感なし。

 その上、ツンツンした髪型が、まさに運動部に所属してますって感じの青々しさを醸し出していて………。

 おっさんばっかりの会社において、まさに重要なショタ属性。

 でも私のお勧めは、勝気な性格を活かしての、強気受け。

 俺様攻めもいいかも。いや、やっぱり襲い受けだな。

 ワンコも捨てがたい。

 耳も尻尾も、首輪もつけて……いじめてやりたい。

 もちろんいじめる方は……って、はっ!違う、違う。

 妄想は私生活に支障をきたさないレベルって誓ったでしょ!私!

 ゆっくりと視線を向けると、青いファイルを差し出したまま、不思議そうな目をしている小堀さん。

 ダメダメ。変な妄想をしていると気づかれないように、努めて冷静に対応するのよ、私。


「失礼しました。くしゃみが出そうなのを我慢していました。その、花粉症なので」


 抑揚なくそう伝え、ファイルを受け取る。


「花粉症なんですか?のど飴いります?」


 そう言ってこちらをのぞき込んできたのは、小堀さんのペアである菊池敬きくちけい27歳だ。

 真ん中分け長めのサラサラおしゃれヘアがお似合いの爽やかなイケメン。

 くっきり二重の柔らかい瞳と薄い唇がいい味を出している。

 177センチの長身に、昔バスケットボールで鍛えたという無駄のないボディ。

 ちょっと細身の、紺色のスーツをおしゃれに着こなせるのは、彼ぐらいだ。

 誰にでも人当たりが良くて、卒のない世渡り上手。

 八方美人というか、如才ないというか。

 でも爽やかなだけの男なんているわけない。

 この穏やかそうな目の奥にあるのは、そう!

 無理やりにでも気に入った相手を自分のものにしようとするドSの炎。

 なんでも卒なくこなす爽やか系男子の裏の顔は、腹黒ドSで、鬼畜敬語攻めだ、間違えない!

 って、ダメダメ、平常心平常心。取り乱してはならぬよ、私。

 ほら、深呼吸。ヒィヒィフー。


「だから、いつもマスクしてるんだ?大丈夫ですか?」


 私がラマーズ法で平常心を取り戻しているなど露もしらない上司は、言葉通りに心配げな顔をしている。

 いい人だが、単純すぎる。

 夏も近づく八十八……いや、後十五日くらいであっつい夏が来る梅雨も半ばの6月。

 花粉症の全盛期はすでに過ぎている。

 いや、この鬱陶しい雨が毎日続く中でどうして花粉が飛んでいると思うのか。

 しかもこの職場で特に鼻水やくしゃみを訴えたこともないこの私が花粉症って、ちったぁ疑えよ。

 まぁ、そういう素直なとこが受けっぽくってアリなんだけど。

 じゃあ、なんで花粉症でもない私が年柄年中マスクしてるかって?

 それは妄想している時に無意識にニヤニヤ笑ってしまうからに決まってんでしょ。

 この分厚いメガネも必需品です。

 フフンッ。

 何に対してか分からないけれど、私は心の中で最上級のドヤ顔をしてみせた。

 でも大丈夫。私の鉄の表情筋はピクリとも動いていないから、小堀さんだって気づいてないはずだ。

 彼らと同じ職場になって丸1年。

 彼らに何も気づかせぬまま、私は私の趣味の時間を楽しませてもらっている。

 そう―――二人が隠れ同性カップルという妄想の趣味を。


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