その7 愛と感動のエンディン……グ?
「うーん……かずこちゃんアカンてぇ。そんなところにチュウされたらワイ、もう……デヘヘ、かわいいなぁ。お返しにワイがオトナのチュウを教えたるさかいに……グヘヘ……」
「こら」
突然、ちゅるのの目の前がぐるぐると回り始めた。
「うわっ、なんやなんやっ!」
「いつまで寝てるんだ。お昼休みは終わりだぞ」
「へ?おひるやすみ??」
体を起こしてあたりを見渡す。いつもの見慣れた幼稚園の風景だ。
「まさかこれは……いやっ、そんなアホな!」
「何をブツブツ言ってるんだ。ほら、毛布を片付けろ」
「セ、センセ。かずこちゃんは……」
「ん?かずこなら自分の机でお絵かきしているぞ」
さっきまでちゅるのに抱きついていたはずのかずこがそこにいた。赤いクレヨンを握りしめて、笑顔で何かを描いている。
「かずこ……ちゃ……」
「できたあ!」
完成した絵を持ってかずこが子供用のピアノに向かっていく。
「ねぇ、いでくんっ。これあげる!」
「うわあっ、綺麗なお花の絵だねえ」
「今日はバレンタインでしょ。本当はチョコレートをあげたかったんだけど、ママが持って行っちゃダメだって言うから……」
「ありがとう、嬉しいなあ。そうだ!お返しに僕もかずこちゃんの絵を書いてあげるよ」
「きゃはっ。かわいく描いてね」
「うーん、本物のかずこちゃんよりかわいくは描けないなあ」
「もうっ、いでくんったら……」
ラブラブモード全開の二人の間に小さな体が割り込んできた。
「うわああああん!かずこちゃああん!」
「きゃっ」
「いでちん!かずこちゃんから離れろや!」
「なんだよ突然」
「あんまりくっつくな!かずこちゃんとイチャイチャしてええんは、ワイだけや!」
「なんでちゅるのくんがそんなこと決めるのよ!」
「かずこちゃんもヒドイやないかい!ワイのおよめさんになるって言うたやないかい!」
「そんなこと言ってないもんっ!」
かずこがいでちんの腕にしがみついてちゅるのを睨みつける。
「かずこちゃん、相手にしないほうがいい。おそらくちゅるのは現実と妄想の区別がつかなくなっているんだ。現代の若者にありがちな中二病と言われるものだな」
「ふーん、いでくん頭いいねー」
「ちょっ、いでちん!そんな難しい言葉でごまかすな!大体ワイは三歳児や!中二病なわけあるかい!」
「こらっ」
みっちゃん先生がちゅるのの首根っこを掴んで持ち上げる。
「うわっ、高っ!怖いっ!」
「毛布をお片づけしろと言っただろ。さあ、こっちに来るんだ」
「うわーん、かずこちゃああん!」
「しらなーい」
「そ、そんなあ……ちゃんと誓いのチュウもしたやろ?な?」
必死に叫ぶちゅるのだが、みっちゃん先生に抱きかかえられて身動きが取れない。
「もうっ、エッチなこと言わないで。ちゅるのくんキライッ、バカッ、ヘンタイッ!」
「ヘ、ヘンタイ……ひ、ひどすぎる。あんなに頑張ったのに……」
事の次第を把握したみっちゃん先生が小さなため息を一つついて、ちゅるのに語りかけた。
「ちゅるの、諦めろ。あの子はお前の手には負えないぞ」
「でっ、でもっ!」
「男は引き際が肝心だ。この先真面目に生きていれば素敵な女の子に出会えるかもしれないぞ」
「うーん、それもそうやな」
先生の腕に抱かれてちゅるのは大人になった自分の姿を想像する。
「そやなー、まずはウルトラマンや。地球を救ってみんなのヒーローになるんや。ほんで、キレイで優しいおよめさんもらって、海のそばにおウチを建てて。あ、そやそや、バンドもやりたいなー。もちろん一番人気はワイで、カワイコチャンにキャーキャー言われて、テレビにも出たりしてな。それから……」
「そんなに欲張るな」
「ヘヘッ、考えるだけならタダじゃ。そや、夢が叶ったら、センセにも報告するわ」
「ああ、期待しているぞ」
ちゅるのの夢がいくつ叶うのか、それは誰にもわからない。