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その6 召喚魔法発動!

(ああもうっ、じれったい!)

「そんなこと言われてもわからんモンはわからんのや!センセ、さっさと教えてくれや!」

(違うんだちゅるの。呪文というのはお前にしかわからないものなんだ!お前の心の中に芽生えた叫び。それこそがお前だけの最強魔法なんだ!)

「うーん……わかった、やってみるわ」


みっちゃん先生の言葉を信じ、熱病に取り付かれたようにアキを見つめるかずこに意識を集中させる。かちゅんどとちぶけんが必死に爆音を鳴らす。

「かずこちゃん、答えてくれ……ワイの思い、わかっとるんやろ?なぁ、こっち向いてくれや……また一緒に遊んでくれや。その笑顔を、見せてくれやあ……」

かずこの体が一瞬ピクリと動く。

(いいぞ、ちゅるの。その調子だ)

ちゅるのの心の中に何かが芽生えてきた。

「ワ、ワイは……ワイはっ……!」

(今だっ、叫べ!)

「うおおおおおっ!わ、わかった!行くで、かずこちゃん。これがワイの最強召喚魔法(らぶばらあど)やあっ!」


かずこの頭がゆっくりとこちらへ向いた。ぼんやりとしているが、その瞳にはほんの少し、いつものかずこらしさが戻っていた。

二人が演奏を止め、ちゅるのがマイクをキュッと握り締める。

「かずこちゃん!」

「……ちゅるの、くん?」

「あーい」

「……?」

「うおーん」

「……え?なに?」

かずこにはちゅるのの行動が理解できない。しかし、ちゅるのの声に何かを感じたようではある。そのつぶらな瞳でちゅるのを見上げる。


ちゅるのの口元がへの字に曲がった。想いを伝える方法が見つからずに苛立っている様子が伺える。それでも、彼の心の中からこみ上げてくる言葉は、最初に発したこの言葉だけだった。

「あーい……うおーん…………あーい……うおーん……」

何度も何度も同じ言葉を繰り返す。ちぶけんとかちゅんどは不安そうな表情を浮かべながらもそれを見守っている。

そして……数度目の呼びかけでついに反応が帰ってきた。


「あーい」「あーい……」

「うおーん」「うおーん……」


「よしっ、いいぞ!」「頑張れ二人とも!」


二人の応援を受け、汗だくでちゅるのはかずこの意識に呼びかける。

「(目覚めてくれ、かずこちゃん!)」


「あーい」「あーい……」

「うおーん」「うおーん……」

ちゅるのがチラリと後ろの二人を見る。瞬時にちゅるのの意思を悟ったかちゅんどがギターを構える。同時にちぶけんもスティックを高く持ち上げ、その瞬間を待った。


「あーい……うおーん…………チュウウウウウッ!」


ダカダカドンドコドコドコ!

ジャンジャカギャギャーン!


ちゅるの、かちゅんど、ちぶけんのパワーが一つになって教室を駆け巡る。

爆音に呼び起こされたかずこの魂が、彼女を拘束していたすべてのものを取り払った。


「はっ!……え?わたし…………どうしちゃったの?」

「おおっ!」「かずこちゃんが目覚めた!」

「なっ、なんだこの爆音は!」

「えいっ」

アキが一瞬ひるんだ隙をついてかずこが体当たりをしてきた。不意を付かれたアキの手からギターがもぎ取られる。

「ちゅるのくん、わたしにもわかったわ!これでしょ!」

かずこがギターをかき鳴らす。


キュイーン、チュクチュクチュクジャッジャーン!


「かずこちゃんっ、それや!それやあっ!」

ちぶけんのドラム、みっちゃん先生のベース、かちゅんど、かずこのギター。

「うおおーーーっ!」

ちゅるのの絶叫が音楽室に響き渡る。窓ガラスがビリビリと音を立てる。そして……


ズシーン、ズシーン。


教室の外から大きな足音が聞こえてきた。

「なんや、あの音は」

「こ、これが最強召喚魔法……」

「一体何が出てくるんだ」


教室の前で足音が止まる。その場にいた全員の視線が音楽室の扉に集中する。


ガラガラッ。扉を開けて入ってきたのは……

「うっ」「あっ」「えっ」

「げええっ、ヤバイ!」


「アキー、お前こんなところにおったんかー」


「あれはっ」「ウナギ組担任のっ」「ジャイ先生!」


「マズイ、逃げろ!」

アキが慌てて窓際に近づく。

「逃がさん」

ジャイ先生の体から白い布がしゅるしゅると伸びてアキの体に巻き付く。

「うわっ!」

「お前というやつは、いつもいつも教室を抜け出してはイタズラばっかりしおって」

白い布が生き物のように動き、ジャイ先生のそばにアキを運んでいく。

「こっ、これにはワケがっ!」

「言い訳は後で聞く。行くぞ!」

「うわああん、ごめんなさいっ、ごめんなさいーっ!」


アキを連れて教室を去るジャイ先生。ゆっくりとその足音が遠ざかっていった。


「これで、終わったのかな?」

「どうやら、そうみたいだな」

「僕、あの先生苦手だ。いっつも裸だし……」

「俺も……つか、あの布どこから出て……」

(そ、それ以上考えないほうがいいぞ)

「そうだね……」


「よっしゃー、ワイの勝ちや!なんか一人足らんような気がするが、ワイら蝉の爆鳴きでアイツらをやっつけたでぇっ!」

「ちゅるのくんっ!助けに来てくれたのね!」

「当たり前や、ワイは正義のヒーローや!」

「あぁっ、かずこ、嬉しいっ!」

救出されたかずこがちゅるのに抱きつく。

「だっ、だははっ!かずこちゃあん、照れるなぁ☆」


「……アキをやっつけたのってさ、ちゅるのじゃなくてジャイ先生だよね」

「うん……それにかずこちゃん、さっきまであんなにひどいこと言ってたのに……」

いろいろと納得のいかないかちゅんどとちぶけん。しかし、当のちゅるのは完全に有頂天になっていた。


「ちゅるのくん、だあいすき♪」

「デヘヘ☆ワイも好きやでぇ」

「かずこ、ちゅるのくんのおよめさんになってあげるねっ」

ちゅるののほっぺにチュッと愛らしい口づけがプレゼントされる。


「よっしゃーっ!これぞまさしくハッピーエンドやないかい。だーっはっは!笑いが止まらん!どやっ、ワイこそが正義のヒーローやあっ!」

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