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その5 決戦!虫かごDeath Match!

第二校舎の敵は精鋭ぞろいだった。しつこく付け狙ってくるもの、たくさんのおもちゃを投げつけてくるもの。時にはバットやロープを使って罠を仕掛けてくるものもいた。


「くっ……キッツイな」

「つか、廊下長っ!教室広っ!」

年長組の校舎は年少組の校舎に比べて格段に広くなっている。三歳児にとっては歩いているだけで体力を消耗してしまう。


汗だくになりながら廊下を突っ走る三人は、ようやく「おんがくしつ」のプレートがある部屋を見つけた。

「よっしゃ、突撃や!」

勢いよく音楽室の扉を開ける。


「よくぞここまでたどり着いた!」

「アキッ!」

仁王立ちで三人を睨みつけるアキ。横にある椅子には花嫁衣装のかずこが座らされている。

「ちゅるのく~ん、助けてぇ!」


「アキッ、かずこちゃんを返せ!」

「バーカ、返せと言って返すやつがいるかよ」

アキの周りをたくさんのイールショッカーが取り囲む。

「アキさんサイコー!」「年少組なんかひねりつぶせ!」

アキは彼らを見渡し、満足げな表情でいる。まるでバンドマンとそのファンのようだ。

「三度の飯より喧嘩が好きっ。しばくぞーっ!」

「うおーっ!」


彼らの声と迫力に思わずひるむちゅるの。

「おい、ちゅるのっ!押されてるぞ!」

「よしっ、ワイもやったるわ……三度の飯より喧嘩が好きっ。しばくぞーっ!」

「わーはっはっは!」

かちゅんどとちぶけんが思わず笑い出す。

「こらーっ、笑うな」

「わりぃ」「おかしかったんで、つい……」


「へっ、情けねーヤツ。おい、お前たち、けっこんしきの準備だ!」

「イーッ!」

屈強なイールショッカー達がかずこの体を囲む。両手を押さえつけられてジタバタともがくかずこ。

「いやっ、なにするの」

「今日からお前は俺のおよめさんだ。毎晩じっくり可愛がってやるぜ。ヘヘ……」

アキがかずこの黒髪を指で弄ぶ。かずこの端正な顔が嫌悪感で歪む。

「いや~ん」

「やっ、やめんか!かずこちゃんにヤラシイことすると許さへんでぇっ!」

「まだなんにもしてませーん」

「今からするんやろうが!」

「まーねー」

舌を出し、ちゅるのに馬鹿にした表情を見せるアキ。怒りと屈辱でちゅるのの顔から大量の汗が吹き出し、口吻を伝ってポタポタと床に水たまりを作る。

「ぐぅぅ……許さーーーん!絶対に倒す!」

「……どうしても俺と戦いたいみたいだな」

「当たり前じゃっ!かずこちゃんとエエことするんは、このワイやっ!カワイイかずこちゃんをおよめさんにして、ウハウハライフを送るんじゃっ!」

「あ~ん、それもいや~~」

「かっ、かずこちゃあん……」


かずこが何か言うたびにHPが減っていく気がするちゅるのだが、ここは世のため人のため。そして愛しのあの娘のために己を奮い立たせる。


「このヘニョヘニョワカメ頭めっ!お前を倒してワイがこの幼稚園のヒーローになったる!ほんで、かずこちゃんをおよめさんにして、カワイコチャン独り占めにして、プールをジョアでいーっぱいにして……」


「えい」

「イテェッ!」

アキの手から強力な電流が発射される。


「こらっ、話してる途中で攻撃してくんな!」

「しょーもない話聞いてたらアホが移るわ」

「アホ言うなっ!」

話している間にも電撃が絶え間なく飛んでくる。三人は後退を余儀なくされる。


バリバリと音を立てて電撃が周りの椅子や机を吹き飛ばしていく。

「どうだ、参ったか!ほらっ、降参しろよ!」

「い、イヤや!ぜーったいにイヤや!」

「次の攻撃いくぞー!」

電撃が止まった。ほっとする間もなくアキがギターを持ち上げ、思いっきりかき鳴らした。


ギュイーン ジャカジャカジャーン


「うわーっ、頭が痛い!」

「すげー音だ」

「ア、アカン。見えない力でアイツに近づけん!」


耳を塞ぎ、床にしゃがみこむちゅるの。この音に対抗する方法を必死で考える。

その横で同じように耳を塞いでいたかちゅんどがある異変に気がついた。ひじでちゅるのを軽く小突いて小声で囁く。

「ねぇ……ちゅるの、あれ見てよ」

「ん……え、えぇーーっ!」

ちゅるのの目に映ったのはドヤ顔でギターをかき鳴らすアキとそれを熱っぽい視線で見つめるかずこの姿だった。

「まぁっ、なんてカッコいいギターテクニックなの……ステキ☆」


「うわあああっ!かずこちゅわあああん!」

「だめだこりゃ」「うん……」


ちぶけんとかちゅんどは諦めた表情でちゅるのを見つめていた。三歳にして大人たちから「気まぐれかずこちゃん」と呼ばれるほどの小悪魔ベイビー。向こう十年は三歳児のノーミソで駆け抜ける予定のちゅるのに到底太刀打ち出来るはずはない。

「俺たちの本当の敵って……」

「わかってる、わかってるよ、ちぶけん……」

自分の中で戦意が失われているのがわかる。しかし、このままじっとしている訳にはいかない。逃げるにしても戦うにしても、まずはアキの攻撃を止めなくては話にならないのだ。



「もうだめだ、降参しようよ」

ちゅるのに向かって回復呪文を唱えるかちゅんど。しかし、その声もだんだん弱くなっている。

「なに言うとんねん!何か、何か方法があるはずや!」

「無茶言うなよ、これ以上はもう……ん?あれはなんだ?」

見えない攻撃に対抗する手段もなく防御に徹していたちぶけんが、壁際に寄せられた楽器の中から白く光る何かを見つけた。

「俺を……呼んでいるのか?」

アキだけでなく、仲間の二人にも気づかれないように、ふらふらと光に向かって進んでいく。

「これって、ドラムセット?」

吸い込まれるように椅子に腰掛ける。

「なんだかわからないけど、妙にしっくりくるぞ」

腰に差していた日本刀がいつの間にか木製のスティックに変化していた。それを握りしめて思いっきりドラムを叩いてみる。


タカタカタン、ドン、ダカドンッ!


「ん?」

その音を聴いてかちゅんどが近づいてくる。

「ちぶけん、どうしたの?」

「わかんねー。わかんねーけど、こうするとすっごく元気が出るんだ!」

「え?どういうこと……わっ!」

二つ目の光が現れた。あまりのまぶしさに右手を顔の前に出し、影を作る。

「あ……これは……」

ようやく目が慣れたかちゅんどは周りの楽器をそっと動かして、光るギターを手にすることができた。


ギュイーン、ジャカジャカチュイーン!


「ちぶけんっ、これは!」

「な、わかるだろ!」

演奏するたびに自分たちの力が増幅されていくのがわかる。

二人から不思議なエネルギー体が発生した。それは音楽室を包み込み、アキの奏でる爆音を吸収してしまった。

「なんだこれは、音が、音が出ないっ!」



「なんやなんや、二人ともどうしたんや」

「ちゅるのっ!お前も光を探すんだ!」

「ひかり?そんなんどこに……」

二人の置かれている状況はだいたい把握している。しかし、ちゅるのの視界にその「光」は全く見当たらない。


(ちゅるのっ、後ろの掃除道具入れだ!)


ドッドッドッというベース音と共にみっちゃん先生の声が響く。

「はあ?ホンマかいな?」

訝しげな表情で掃除道具入れの扉を開ける。

「うわあっ、なんでこんなところに!」

ホウキやモップに混じってなぜか光るスタンドマイクがそこにあった。驚きながらもそのマイクに手を伸ばすちゅるの。

「ちょっ、これっ、取りにくいやんけー!なんでワイだけこんな目にあうんじゃ!」


やっとこさマイクを取り出したちゅるの。

「でも、これで何をせぇっちゅうねん」

(ちゅるの、最強召喚魔法だ!)

「ほえ?しょおかんまほお?」

(いいから、呪文を唱えるんだ!)

「呪文?なんや、さっぱりわからん!ワイは、どないしたらエエんじゃ~~!」

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