その4 中ボスがイケメンすぎる件
「うわっ、カズトだ!」
「なんやちぶけん、知り合いか?」
「友達のアニキだよ。すっげー怖いんだ」
かったるそうな表情でカズトが三人を見下ろす。
「ちっ、年少のガキと遊んでるヒマはないんだけどな……面倒だからさっさと降参しろよ」
「ふざけんな!ワイらはぜーったいに降参なんかせんからな!」
「ねぇちぶけん、あの人そんなに怖いの?」
「ああ、キレると手がつけられない。力も強いし、頭もいい。しかも……」
「しかも?」
「女の子にモテるんだ」
カズトがため息をひとつついてゆっくりと三人に近づいてきた。
「まぁ、アキに頼まれたんやからしゃーない。やると決めたからには……真剣にやるぜ!」
「キャーッ」「カズトくん、ステキーッ」
突然、周りから黄色い声援が聞こえてきた。先ほどバレーボール攻撃をしてきた女子ショッカーたちがカズトの周りを取り囲む。
「うわっ、なんやなんや」
「これみんな、カズトのファンなのか?」
「みんな、さっきはありがとなー」
「キャッ、うれしい」「もー、やさしいんだから~~」
「な、なんかやりにくいなぁ」
「そのくせ本人は凶暴ときている……ほんとにアイツは……ん?」
ただならぬ気配を感じてちぶけんが振り返ると、そこには下を向き、ぶるぶると震えているちゅるのの姿があった。
「ゆ……許さんっ!」
「ちゅるの?」
「アイツめぇっ、カワイコチャンに囲まれて調子に乗りやがって……ワイよりモテるやつはみんな敵じゃっ!」
「うわぁ、逆恨み」
「ちゅるのー、見苦しいよ」
「なんでもええっ!とにかくアイツを倒すんじゃ!」
「ふん。お前らとは人生経験が違うんだよ。みんな、行くぞ!」
取り巻きの女子ショッカーの手にはおもちゃのハンマーが握られている。
「えーーいっ!」
非力な女子が投げたハンマーはふらふらと宙に舞い、ゆっくりと落ちてくる。
「なんだありゃ?」
「こんなの簡単によけられるじゃないの」
「あまーい」
カズトが両手を振りかざし、呪文を唱える。
「ピコハン!」
無数のハンマーが集結し、大きなハンマーとなって三人の頭上に接近してくる。
「うわーっ」
慌てて逃げる三人。鈍い音を立ててハンマーが地面にめり込む。
「どわーっ、危ないやないか!」
「文句を言ってる暇はないぞ」
カズトが呪文を唱えるたびに、ハンマーが合体していく。
「うわっ、うわっ!」
「と、とにかくハンマーを避けるんだ」
空を見上げ、着地点を予想してあちこちに逃げ回る。
「アカン、これじゃ近づけん!」
「ははは、逃げてるだけかよ。それじゃ、さっさと終わらせるとするかな」
カズトの手から真っ赤な火の玉が飛び出した。
「あちーっ!」
頭上からの攻撃に加え、前からやってくる火の玉を避けるのは非常に辛い。
「ちゅるの、あそこに隠れよう」
かちゅんどに連れられて岩陰に隠れるちゅるのとちぶけん。
「くそっ、アイツ、中ボスのくせに強いやないかい!」
「誰が中ボスだっ!」
岩に向かって火の玉が飛んでくる。少しずつ岩が削れて三人が隠れる場所がなくなっていく。
「くっそー、せめてあの火の玉さえなんとかなれば」
「もうだめだ」
「このままじゃやられちゃうよ」
「くっ……ワイはこんなところで負けてしまうんか……かずこちゃんっ!」
(ちゅるの、かちゅんど、ちぶけん!あの技を使うんだ!)
「先生!」「あの技ってなんだよ?」
(しっかりしろ、お前たちは何だ?ミミズか?オケラか?)
「センセ何言うとんねん。ワイらは……はっ!」
(そうだ。お前たちにはあの技があるだろう)
「そうか!そういうことか!」
突然ちゅるのがズボンを脱ぎだした。
「ちゅるの、何やってんだ!」
「ええから、お前らも脱げ!」
さらにパンツを脱ぎながらちゅるのが二人に耳打ちをする。
「あっ、わかった!わかったよ!」
「そうか、俺たちは!」
三人仲良く下半身すっぽんぽんになり、カズトの前に姿を現す。
「なんだぁ、お前たち?」
奇妙な姿を見せられてカズトが一瞬うろたえる。三人はなおも降り注ぐ火の玉に向かって、思いっきりジャンプした。
「ワイらはセミや。セミにはセミの必殺技がある!」
「くらえっ、俺たちの!」
「究極奥義!」
「フライングオシッコアターーーーック!」
ジューッ!
「げげっ!火の玉が!」
セミっ子たちのオシッコをかけられた火の玉がどんどん消えていく。
「やだーっ」「きったなーい」
女子ショッカー達が蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
「うわっ、きたねーっ!俺にかかる!」
オシッコの雨にビビったカズトが頭を抱えて背中を向けたその時。
「隙ありっ!」
「今だっ!」
巨大化したハンマーを三人で握り締める。
「いっくでぇっ!お返しやっ!」
「スーパーミンミントライアングル……アターーーーック!」
「ひえええっ!」
ピコーンと奇妙な音がこだまする。自らが出したハンマーに殴られて遠くに飛んでいくカズト。
「どやっ!参ったか!」
「やったね、ちゅるの。僕たちの勝ちだ!」
「つ……疲れたぁ」
「だーっはっは!あーんなヤツなんかひとひねりじゃっ!楽勝すぎて涙が出てくるわ。やっぱりワイは最強蝉人間や!はっはーっ!な?二人ともそう思うやろ?ワイ、最強やろ?な?な?」
「……ちゅるのぉ」
ちぶけんが呆れた口調でちゅるのに声をかける。
「おぅ、なんや!」
「さっさとパンツ穿けよ」
「えっ?うぇぇっ!?」
気がつくと二人ともすでに着替えを済ませている。
たった一人、フルチンではしゃぐちゅるのを先ほどの女子ショッカー達が遠巻きに見ていた。
「なあにあの子」「きっと見られて喜んでるのよ」「やだー、気持ち悪いー」
「なっ、なんやお前ら!そそそそんなんちゃうわ!」
あたふたとパンツに足を通すちゅるの。
「なーんか最後が締まらないんだよなぁ」
「ほっといて先に行こうぜ」
「あっ、ちょっと待てや!おいっ、うわっアカン!足が引っかかって……ちょっ、待て、待ってくれや~~!」