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その2 レンガとキノコと無敵スター

「こちらちゅるの。年長組の校舎に潜入した」


大きなおもちゃ箱の陰に身を隠し、ちゅるのがみっちゃん先生に脳内通信を送る。


(状況はどうだ?)

「アカンな。変な奴らがウロウロしとる」

(彼らはアキの忠実な部下、イールショッカーだ。見つかるとまずい、身を隠してそっと進んでいくんだ)

「さすが先生」「的確なアドバイスだね」

ちゅるのの後ろで小さくなっているかちゅんどがそっとおもちゃ箱ごしに様子をうかがう。

一人の園児がキョロキョロと辺りを見回しながらこちらへ近づいてきた。年長組にしては背が低く、普段とは違った雰囲気におびえているようだ。


「敵がこっちに来た。むこうに回ってやり過ごそう」

小声で話しながらそっとちぶけんが体を動かす。十分に注意したつもりだが、足元にあった小さなおもちゃを蹴飛ばしてしまった。

ガラガラと大きな音が響く。その音に気づいた敵が三人のいる方向に視線を向けた。

「しまった!」「なにしとんねん!」「まずいよ、敵が来るっ!」

慌てて動き出す三人。しかし、もがけばもがくほど物音は大きくなり、身動きが取れなくなっていく。

「ええい、ジタバタしてもしゃーないわ!こんなちっこい奴、ワイが吹っ飛ばしたる!」

ちゅるのが敵の前に飛び出す。敵は一瞬ひるんだ様子を見せたが、恐怖を押し殺して戦う構えを見せた。

思いっきりダッシュするちゅるのにあわせて敵も両手を前に突き出して走り出す。

「くらえっ!」

「えーいっ!」


正面からぶつかり合う二人。決着はあっという間についた。

「うわーっ」

「ちゅるのおおおっ!」

あっさりと弾き飛ばされるちゅるの。やはり幼稚園児にとって二歳の差は大きかった。

派手に転んで床に倒れるちゅるのを無視して、敵はかちゅんどの方へやってきた。


「わ、わわっ」

(かちゅんど、飛ぶんだ!)

みっちゃん先生の声がかちゅんどの脳内に響き渡る。言われた通りに思いっきりジャンプして敵の背後に着地する。

「あれっ!消えた!?」

目標を見失って敵がうろたえる。

「チャーンス!」

今度はちぶけんが突撃する。同じく目前で飛び上がり、

「とりゃっ」

敵の頭をつま先でトンッと蹴飛ばす。


「あっ……うわーん、痛いよー」

泣きながら敵が去っていった。

「よしっ!」


(お前たちすごいぞ。そうだ、そうやって敵をやっつけていくんだ)

「エヘヘ、ほめられた」「この調子で行こうぜ!」

「う、うーん」

ようやくちゅるのが起き上がった。

「イタタタ。やられてモータ」

(ちゅるのー、お前はもっと慎重になれ。いっつも言ってるだろ)

「うぅっ、ワイだけ怒られた……くそー、この恨みもアキにぶつけたる!」

「それは完全に筋違いだろ」「この冒険、大丈夫なのかなぁ」



慎重に警戒しながら廊下に出た。レンガのようなブロックがぷかぷかと宙に浮いている。

「なんや、あれ?」

(ちゅるの、ブロックを叩いてみろ)

「お、おう」


軽くジャンプしてブロックを叩く。するとブロックからポロリと何かが落ちてきた。

「キノコや」

「何でキノコ?」

ちぶけんが恐る恐るキノコに触れる。すると……

「わあっ、なんだなんだ?周りの物が小さくなっていく!」

「ちがうよ、ちぶけん!自分が大きくなってるんだよ!」

突然のことにうろたえるちぶけんに向かって、新たな敵が近づいてきた。ジャンプのタイミングを逃し、逃げ場を失ったちぶけんがやけくそで敵に向かっていく。

「な、なんか勝てそうな気がする……くらえっ、円月烈風斬りっ!」

いつの間にかちぶけんの手には刀が握られていた。ポカッポカッと頭を二回叩かれて敵が退却していく。


「勝った……つか、この刀、どうなってるんだ?」

「それがキノコのパワーや。自分の能力に適した技が出せるようになるんやな。ただし、一度でも敵にやられるとパワーがなくなるから注意するんやでえ」

「へぇ、そうなのか。よく知ってるなー」

「ちゅるのぉ……それ、さっき先生に教わったことでしょ」

「デヘヘ☆バレテモータ!」


その後も三人は敵をかわし、時には倒し、順調に奥に進んでいく。

「大分進んだな」

「戦いのコツも掴んだね」

ちゅるのは一人でひたすらブロックを叩き続けていく。

「おりゃっ、とぉっ、まだまだっ」

突然、ブロックがカキンッと大きな音を立てた。

「イッテェェッ」

ちゅるのが頭を抱えて床に転がる。ひとつだけ硬いプラスチックのブロックがあったようだ。

「ちゅるのっ」

「大丈夫か!?」

「うぅーアカン……ピヨピヨや~~」

ちゅるのの頭の周りを星がチカチカと回る。やがてその星が動きを止め、床にコトリと落ちた。


「イテテ……ん?この星、もしかしてキノコみたいに取れるんちゃうか?」

なおも光り続ける星にちゅるのが触れる。

「おっ、おぉっ、なんやこれ!」

「うわっ、ちゅるの!」


ちゅるのの小さな体が白い光に包まれた。

「うおおっ!力がみなぎる!」

猛ダッシュで廊下を突き進む。

「おりゃあっ!」

襲い来る敵に体当たりをかます。同時に五人、軽々と跳ね飛ばしてなおも突き進む。


「ちゅるの、すごい!」

「おうっ、お前らもついて来いや!」

「うん!」「いっけーー!」


敵を跳ね除け、ブロックを粉砕しながら三人は廊下を曲がる。

「だーはっはっは!どやっ、ワイのパワーは!おりゃおりゃーっ、ワイが無敵のちゅるの様じゃーっ!」

(ちゅるの、危ないっ)

「え?」

数メートル先に落とし穴が見える。

「うわっ、止まらん!」

勢いがつきすぎてスピードが落ちない。かちゅんどとちぶけんが必死に足を踏ん張る。

「落ちるー!」「ちゅるのっ、飛んで!」

「とりゃーーーっ!」


落とし穴を飛び越えて三人が着地する。

「危ないところだった……」

「ありゃ、体が戻ってモータ」

「暴走は禁物だね」

(まったく、お前らは……)


みっちゃん先生のため息を聞きながら、三人は廊下の突き当たりにある扉へと足を進めた。

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