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魔剣伝承ラブレス  作者: サワハト
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エピローグ「自由と愛情とささやかな幸せを、魔女に」

今日はアルテアの第三王女セシリアの婚礼の日だ。

空は雲一つなく、明るい。

昼過ぎから始まる婚礼の儀式に向けて、アルテア城は喧騒に包まれていた。


「ほら、ランスロット!素敵でしょ?

 この部屋の真ん中の台座で、指輪交換をするのよ」


儀式の間に、セシリアの声が響く。

黒き魔剣の騎士ランスロットは、先のガディスとの戦争の功績を認められ、また戦争で負った傷も浅くなかったことから、貴族の地位と領地を与えられ、若くして第一線を退くことになった。領地は決して広くはないが、寒い地方も少なくないアルテアにおいて、気候が温暖で実り豊かな土地だった。

ランスロットはセシリアを娶り、数日後には領主として着任することになっていた。


「向かって右手の席は楽団、左手の席は大臣たち、後ろの方には……

 って、聞いてるの?」

「あ……はい、すみません。

 セシリア様」

「もう、セシルって呼んでって言ったでしょ!

 結婚するのよ!?」

「あ、そうでした……セシル」


最後の下見に張り切るセシリアの隣で、ランスロットはどこか上の空だ。状況の急速な変化についていけていなかった。

停戦協定が結ばれ、アルテアとガディスでは至る所で復興が始まっていた。ガディスは若き王子が即位し、新体制が発足した。アルテア騎士団はラウンドクレセントの悲劇をも生き延びた団長の下、さらに強固な軍団へと生まれ変わろうとしている。

そして、自分は騎士から一転して貴族だ。


「すみません……ちょっと緊張しているようで、一度、部屋に戻ります」


ランスロットはセシリアに軽く頭を下げて、儀式の間を出た。


☆・☆・☆・☆・☆・☆・☆・☆・☆・☆


儀式の間から控室に戻る途中、ランスロットはある扉の前で足を止めた。

南京錠で閉ざされた、黒い鉄の扉だ。

漆黒の魔剣ラブレスは、今はここに封印されていた。

戦争が終わり、ラブレスを再度封印する指示が王から出されたとき、ランスロットが申し出たのだ。王国を救った剣は雪山のほこらではなく、城の宝として安置するべきだ、と。

言葉を発しなくなったラブレスのためにできる、精いっぱいだった。


「ラブレス……お前は一体どうしたんだ?

 いなくなってしまったのか?」


ランスロットは鉄の扉に語りかけたが、返事はなかった。


☆・☆・☆・☆・☆・☆・☆・☆・☆・☆


控室に戻ったランスロットを、赤髪の少年が待っていた。

不思議なことに、出窓に腰かけた少年の体は透けていて、背後の風景が見える。


「久しぶりだね。

 しばらく魔法は使わないでやっていくつもりだったんだけど、アルテアのお姫さまの結婚の噂を聞いたからさ」


少年に近づいてその半透明の姿を確認しながら、ランスロットは尋ねた。


「エフタル……これは、幻か?

 どこか遠くから話しているのか?」

「そういうこと」


ガディスの魔法使いエフタルは、いつのまにか姿を消していた。

今までの五百年と同じく、あてもなく放浪していたのだろう。

ただし、今は魔法抜きで。


「この通り、肉体的には子どもだから苦労することもあるけどね。

 おかげさまで人間ってやつを見直す良い機会になってるよ」

「……そうか」


エフタルは戦争の時と同じ笑顔を浮かべていたが、目がいくらか澄んでいるようにも見えた。


「ランスロットくん、おめでとう」

「ああ……ありがとう」


エフタルの祝辞に礼を言いながら、ランスロットは椅子に腰かけた。


「姉さんは、この城に置かれてるんだってね」

「ああ」

「ランスロットくんが掛け合ってくれたの?ありがとう」

「ああ」

「姉さんとは、あれっきり?」

「ああ」


エフタルの矢継ぎ早の質問に、ランスロットは淡々と返す。心ここにあらず、といった様子だ。

エフタルはやれやれ、と窓の縁に寄りかかった。


「ランスロットくん、君はそれでいいの?」

「何がだ?」

「君は確かに、僕を少しだけ救ってくれたよ。

 でも、姉さんは?」

「……」


ランスロットは暗い表情でうつむいた。

確かに、自分は言ったのだ。ラブレスを再び封印させるようなことはしない、と。封印の場所は雪山ではなく、城になった。それが自分にできる精いっぱいだった。

でも、だから何だというのだ。

自分にはラブレスが今、何を考えているのかもわからない。


「あー、もう!さすがに限界!」


エフタルは大きな声を出すと窓から飛び降り、ランスロットの正面に回り込んだ。


「答えを言っちゃうけどね、姉さんは君に惚れちゃったんだよ!」

「ラブレスが、私を……?」

「だから、君のために言葉を話すのをやめたんだ。

 君が、姉さんを忘れて、お姫さまと結婚できるように!」

「そうか、ラブレスが私のために……」


ランスロットはずっと、国のために騎士として正しい行いをしてきた。

家族、同僚、上司、王族……周りの人間に喜ばれ、信頼され、認められることがすべてだった。

今も、国王の信頼や王女の愛情に応えるために、結婚しようとしている。ラブレスも、それを応援してくれている。


「でも、君はどうしたいのさ。それでいいの?

 ランスロット!」


自分がしたいことは……


バンッ!


控室のドアを乱暴に開け放って、ランスロットは駆け出した。


☆・☆・☆・☆・☆・☆・☆・☆・☆・☆


「ラブレス!聞こえるか!?」


扉を開け、ラブレスが封印されている部屋に駆け込むと、ランスロットは呼びかけた。


「ラブレス!

 私は……自分の気持ちがわからない。先のことを考えると、今の行動は愚かとしか言いようがない。

 だが、もう一度、お前と話がしたい。

 この先、永遠にお前の声が聞けないなんて……嫌なんだ!

 ラブレス!」


ラブレスの声が聞きたい。意地悪く笑って見せてほしい。いたずらで困らされても構わない。

これがランスロットの素直な気持ちだ。

エフタルに言われるまでもなく、本当はわかっていた。


「……」


だが、ランスロットが自分の気持ちをぶつけたところで、ラブレスの返事はない。

ホワイトウォールに封印されていた時と同様に、漆黒の魔剣は刃を下に向けて台座に固定されていた。赤い宝石が静かに光を放っている。

ランスロットは台座の前までゆっくり歩くと、力なく床に座り込み、うつむいた。


「駄目……か」


エフタルの言ったことが本当だったとしても、時すでに遅し、かもしれない。

自分はもう十分、ラブレスを裏切った。

今さらこんなことをしても、気持ちは届かないのかもしれない。

ランスロットがあきらめかけたとき、


「あーあ……

 せっかくあんたのためを思って消えてあげたのに、ホントバカなんだから」


聞きなれた、女性の声がした。ランスロットの視界に、裸足のつま先が見える。


「それって愛の告白?

 そんなこと言っちゃって、魔と付くものを口説いたりしたら、

 代償は……お安くないわよ?」


ランスロットは顔を上げて、目の前の人物の姿を確認した。

青紫色の髪と、二重まぶたのやや切れ長な目の女性。


「ホント、バカぁ……!」


涙で頬を濡らしたラブレスが、そこにいた。

ランスロットは立ちあがる。

ラブレスは歩み寄る。

二人の距離は限りなくゼロに近づき、ラブレスの額がランスロットの胸に当たる。

そこではっとして、ランスロットが言った。


「ば、馬鹿者!女がそう簡単に肌を見せるな!」

「んふふ……鼻血出しながら言っても締まらないわよ。

 ホント、あんたって最高ね」


ランスロットの胸に抱かれて、ラブレスは笑った。

本当に、幸せそうに、笑った。


☆・☆・☆・☆・☆・☆・☆・☆・☆・☆


ドンドンドン!


控室の扉が激しくノックされた。

セシリアは婚礼の衣装に着替え終わったところだった。


「どうしたの?」

「申し訳ありません、セシリア様!

 ランスロットが、魔剣の間の鍵を奪いまして……!」


扉の向こうから響く騎士団長の声を聞いて、セシリアは全てを理解した。


「やはり魔剣に魅入られていたのか、正気とは思えません!

 今すぐ捕えて参ります!」

「ふうっ……いいわ。

 放っておいてあげて」


溜息を一つついて、言う。


「魔剣に魅入られていたのは……知っていました。

 あなたの言っているのとは、違う意味でね」


着替えを手伝っていた侍女が、心配そうにセシリアの顔を覗き込む。


「姫様……」

「あーあ、フラれちゃったかあ……

 でもいいわ。私はまだ若いもの!

 次はもっと素敵な相手が見つかるでしょう」


セシリアは鏡に映った自分の顔を見ながら、笑顔を作った。


ラブレスよ。

んふふ……最後まで読んでくれて、ありがと。


これであたしとランスロットの話は終わりだけど、

何か教訓みたいなものがあるとしたら、

幸せを追求するのに、遅すぎることはないってことかしら?


お姫様には、ちょっと悪かったけど、ね。


良かったら、サワハトに感想とか教えてやってね。

小心者だから。


それじゃ、バイバイ☆

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