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うわー、なんだか照れちゃったね、ボク。
桜井君ってば、かっこいー!
それで?それで?
河合さんってば、どうしちゃうの?
頭の中、きっとドキドキ桜井でいっぱいだね。
桜井君ってば、河合キラー!
ねらい目は冷え性って感じ?
いいね、冬の夜のドキドキ。
あの、犬と猫は、どうしてるかな。
手、繋いで…ってっ。
石段の前で立ち止まって、じっと無言の二人。
ほんの、あと数段あがればそこは少女の家。
「!」
パッと灯された明かりに驚いて顔を上げる。
少女の家の、風呂場の明かりだろう。
母親が風呂に入る時間なのだとふと思い出して、緊張感が溶けるのを感じる。
「河合さん家?」
「うん。親、お風呂みたい」
それを感じたのは、少年も同じなのだろうか、とふと少女は思う。
急に先ほどまでのあの空気が流れたような、それでいてもまだ、どこか特別なような。
「そっか、それじゃ、ここで帰るよ」
くすっと、笑って桜井が手を振る。
うん、と素直に頷いて、笑顔で手を振る桜井。
「うん、ありがと。気をつけてね」
石段を登る河合を見送ると、土手を上がり、明るい街灯の下を帰っていく桜井。
既に夜も遅くなり、人気は殆どといっていいほどない。
自宅の玄関の前でその姿をしばらく見送り、少年が土手を越え、その姿が見えなくなるのを見届けて、少女はドアを開け、家の中に入る。
「ただいま」
風呂場に声を掛けると、母親がおかえり、と声を掛けてくれる。
犬と、猫、飼いたいっていったら、どうかな?
やっぱ、ダメっていうだろな。
でも、もしいいよっていってくれたら?
…でも、私面倒みきれないかもしれない。
でも、どうしたらいいんだろう。
桜井君、保健所に言わないでくれるって言ってたし、まだ、大丈夫だよね?
ふうん、そっかそっか。
河合さん、ママが「ダメ」っていうの、ちょこっと期待してる?
なんとかしてはあげたいけど、うん、そうだよね。
ずっと一生、っていうのって結構面倒だったり?
うん、しょうがないよね。
途中で面倒見切れなくなって投げ出すのは良くないよね。
だったら。
「ママがダメっていうから」
「ほんとは飼いたかったんだけど」
うん、ニンゲンだしね、仕方ないんじゃない?