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きょろきょろ、と、辺りを見回す少女。
手に持ったままのダンボールのおき場所を探しているのか。
「河合さん?」
「これ、どこにおこうかって思って…」
「そうだね、この木の下がいいかもしれない」
「うん」
素直に返事をすると、木の下にそれをそっと置く。
あの声、ほんとに大丈夫かな…
探したほうがいいのかな。
でも、…どこにいるんだろう──
「それじゃ、今日は帰ろうか」
「あ、・・・うん」
「河合さんの家、この近くなの?」
「あそこの階段上がってすぐなの」
指差すのは、少女が来た道。
土手を上がる石階段。
それをあがれば、団地があり、少女の家はその川沿いになる。
それをみて、頷く少年を見て、少女も、ただ、頷く。
気になる…けど…
桜井君がそういうんだし、大丈夫…だよね?
河合さん、犬と猫探してるの?
さっきの声。
きっと今日は出てこないよ。
動物はケガしたら、じっとうずくまって、治すんだって。
イタイ、って言わないで、じっとうずくまって治るの待ってる。
人間は、どう?
見た目で、優しくて、周りからも認められてたら。
「 」の叫び声よりも、「そのひと」の声のほうが、大きいんだね。
警戒して、イタくて、出てこないのは、きっと本当。
人間は、どう?
ボク?
ボクだったら、もちろん、 だよ。
ねっ?
顔が、熱い。
まさか、こんなところで逢えるなんて。
「どうしたの?」
「あ、ううん。…なんだか、緊張しちゃって」
「僕もそうだよ。びっくりしたね」
川原から、家までの道がこんなに近いことが、少し残念。
この階段を登ったら、もう家に着いちゃう。
寒さから身を守るためか、恥じらいを隠すためか、少女は頬を手のひらで覆う。
ひんやりと冷たい手のひらが、熱い頬に触れて温かい。
それを、横目で見る少年。
薄く笑う、が、少女の目にはそれは見えていない。
その、少女の手をふっと掴む少年。
「!」
驚いて、歩いていた足取りが止まる。
「手、冷たいね」
「さ、桜井君…?」
驚いて、見つめたその少年は、穏やかに笑みを浮かべて。
少女の手を握ったまま、ゆっくりと下に下ろす。
「ん、ごめんね。手が冷たいのかなって思って」
「う、ううんっ!」
「そっか、余計な事しちゃったね。ごめんね」
そういって、手を放す。
あ…と、一瞬残念そうに、寂しそうに声が漏れる河合。
その様子を見て、くすっと笑う桜井。
「まだ、冷たいなら」
と、手を差し出す。