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ココロノヤミ  作者: ぬこ
7/21

7


 



 「河合さん、もう夜遅いよ、どうしたの?」

 「あ…」

 「女の子が夜遅くに一人出歩いてたら、危ないよ?」


 驚いて目を丸くする河合。

 それに優しく笑って、桜井が言う。


 「あの、私…」

 「それ、なに?」


 河合の抱えたダンボールを指差す桜井。

 

 「あ、これ、ここに小さな猫が居て…」

 「ああ、あったかそうだね。河合さんは優しいね」


 そういって、にっこりと笑う桜井。

 

 こんなところで桜井君に会うなんて…。

 頭もボサボサだし、もうちょっと整えてくればよかった。

 

 …って、さっきの声は?


 「あ、あの、桜井君、猫みてない?」

 「猫?」

 「さっき、すごい声して…」


 ぐるり、と川原を見回す桜井。


 「ああ、さっき大きな犬も居たね。ケンカでもしたのかな?」

 「おじいちゃん犬で、昼間仲良くしてたの…」

 

 心配そうに辺りを見回す河合の目に留まったのは、食べかけのおにぎり。

 白い飯がてんてんと川原に散らばっている。


 ふっとその目線に桜井が気づく。


 「僕が悪い事しちゃったのかもしれないな」

 「──え?」

 「食べ物を、と思って投げてやったんだけど…」


 そういって目を伏せる。


 「動物だと、食べ物争ってケンカはよくあることだからね、悪い事した」

 「そんな…桜井君、優しいよ。おなかすかせたら、可愛そうだもん」

 「ありがとう。河合さんは優しいね」

 

 ぽっと頬を赤らめてうつむく河合。

 それをみて顔に穏やかな笑みを浮かべる桜井。


 「あ、桜井君は塾の帰り?」

 「うん。ちょっと帰りに頼まれごとあってね」

 「そうなんだ。いつも、ほんと大変なのに桜井君、凄い」

 「そんなことないよ、人の役に立てるのは嬉しいことだから」


 うつむいた河合の目線に、ふっと見えたのは。





 ──血?

 ケンカして、…どんな酷いケガしたんだろう…。

 あんなちっちゃいのに。

 あんなに仲よさそうだったのに。


 夜の闇にまぎれて、はっきりは見えない。

 が、その赤黒く、地面にのこった染み。

 少女がもうあと少し早くそれに気がついて、触れていたのなら温かさを感じたのかもしれない、それ。


 気がついて、じっとそれを見る少女に、少年が言う。

 


 「河合さんも、早めに帰ったほうがいいよ。犬に襲われたら大変だから」

 「うん…でも、おじいちゃん犬だから──」

 「それでも、襲ってきてケガでもしたら良くない。後で保健所に連絡しておかないと。」

 「保健所…?」

 「うん、他にもケガしたりする人いたら大変だし、遠吠えで騒音公害になるからね」



 保健所…。

 あんなおじいちゃん犬なのに──


 そんなの、イヤ。

 家に連れて行けたら…。


 「桜井君…連絡、保健所にしないで…」

 「え?」

 「おじいちゃん犬だし、きっと…お願い」


 家に、・・・きっと無理。

 ずっと面倒みるなんて出来ないし、それに、親だって反対する。

 だもん、きっと、仕方ないけど・・・。

 


 放っておいても長くないだろうけどね。

 まぁ、逢ったのが河合でよかった。

 まさか誰かに逢うとは思わなかったけど、コイツなら問題ない。


 「そうだね、それじゃ僕はやめておこう」

 「ありがとう」

 「河合さんは優しいね。お風呂上り?髪が濡れてるみたいだけど?」

 「──あ…ボサボサだから、あんまり見ないで」




 黙って、じっと河合を見る桜井。

 

 困ったようにうつむく、河合。


 

 コイツなら、いけるよな。

 信用してるし態度からして僕のことを好いているのは間違いない。

 学校でも、誰かと話してる様子はないし。



 「桜井…君?」

 「河合さん、髪に」


 そういって、河合の髪に触れる桜井。

 びくっとするその反応を楽しむように、それでも優しい表情を崩さず。

 

 「ごめん、びっくりさせたね」

 「え、う、ううんっ」

 

 一度伏せた視線が再び絡む。



 

 どうしようか。

 夜も遅いしな、勉強もあるし。

 それにここでどうこう出来る訳じゃないし、今は辞めとくか。


 「それじゃ、送るから帰ろう」

 「あ、う、うんっ!」

 

 気づかれないうちに家に帰さないと。

 問題はないと思うけど、念の為早いとこ帰ってもらうほうがいい。





 


 ふぅん、そうなんだ。

 ここで、なにしようとしてたのかなー?


 いいよね、夜の風呂上りのドキドキとかさ。

 ボクもしてみたいんだけどね。


 にっこりわらって先手を取る、うん、これだね?

 でも、ニヒルなカゲ、河合さんみれなくて残念だった?

 

 「ギャップにドキドキしちゃうー」ってやつだとおもうのにね。



 にっこり笑って、ちょっと黙って、ドッキドキ。

 ボクもやるから見てて。




 ほら、どう?



 あ、みてないね?

 ダメ、チャンスは一回。


 それがギャップにクラクラ作戦なのさ。


 


 バッチリきめてやるんだぜ。



 うん、やっぱりボクかっこいい。

 




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