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「明日も学校、やだなぁ…」
また、明日もテスト返しだろうし。
修学旅行の話とかも、やだな。
グループ分けとかなければいいのに。
桜井君は、誰とグループ入るのかな。
一緒に、なんておもうだけ、無駄だよね。
どうせ一緒になれたって、話なんて出来るわけがないもん。
誰にでも優しい、桜井君。
人気者で、頭も良くて。
憧れるけど私は桜井君にはなれない。
あーあ、残念。
入浴剤って、お肌にはいいかもしれないけど、ボクにはつまらないね。
せっかく湯気で雰囲気バッチリなのに、なーんにもみえやしない。
こう、成長期の少女の入浴。
たまらないよね。
せっかく急いで戻ってきたのに、残念。
河合さんは、桜井君が好きなんだ?
頭も良くて、優しくて、人気者で?
つまり、完璧ってやつ?
人間なのに?
「ほら、あんまり浸かってるとのぼせちゃうわよ?」
「はーい」
「お風呂上りに、オレンジジュースあるからね。早くでておいで」
「ありがとー」
あがろっかな。
外、寒そうだしやっぱり今夜ダンボールもっていってあげよう。
風の音凄いし。
お風呂でしっかりあったまったし、すぐ戻ってくればいいもんね。
オレンジジュース飲んだら、急いで走っていかなくちゃ。
こんな寒い夜にあんなちっちゃいこが一人きり、絶対寂しい。
…うちに連れてきてあげられたらいいのにな。
ひゅうひゅう、と風の音が窓越しに聞こえてくる冬の夜。
立ち上る湯気が暖かい風呂場とは別に外の寒さが伺える。
反響して響く少女の声は、学校では発した事がないほどはっきりと明瞭で大きい。
それに気づいてか、小さく溜息をつくと、少女は湯船から体を起こす。
うんうん、早くあがりなよ。
そのほうがボクも嬉しいな。
最近の子はやせすぎてたりして面白くないんだけど、あれ、気にしすぎだよね。
やっぱりある程度こう、でるとこでてたほうがね?
「湯上りに、けむる柔肌、おいしそう」
ほらほら、一句詠できた。
けむる、けぶる、どっちだっけ?
けむるって、ツルツルな予感。
けぶるってセクシィな感じ。
うん、やっぱ入浴シーンは詩人にさせるね。
冬の湯上りピンク肌とか、いいね。
ぐっとくるよね?
「ママ、ちょっと外でてくる」
「寒いわよ?明日にしたら?」
「うん、でもすぐ戻るから」
「ほんとにすぐ戻ってくるのよ?」
「うん」
体を拭き、着替えると居間でテレビを見ている母親に声を掛ける少女。
心配そうに視線を送ってくるのに笑顔で応えると、慌しく部屋へ戻り、荷物をまとめる。
セーター、一枚だけじゃたりないかな。
タオルとかももっていってあげた方がいいよね?
夜露とかにぬれちゃうかなぁ…
ダンボールをじっとみつめて、考え込む少女。
中にセーターを敷いて、古いタオルを何枚か敷いて。
「ちょっと見た目悪いかもだけど、これでどうだろ」
ぐるりと巻いたのは、ビニール袋。
透明なビニールテープでぐるっと固定して、入り口以外を密封して。
うん、これなら多分大丈夫かな?
草の上おいてもきっと濡れないよね。
これでいいかな。
母親が入れてくれたオレンジジュースを一息に飲み干して、上着を手に持つ少女。
玄関に向かい、ドアを開けると外へ出る。
あったかくしてかないとダメだよ。
外はほら、風がすごいからね。
せっかくあったまったピンク肌が冷えちゃうのは残念。
あ、でもボクとしてはジャージよりパジャマがいいな。
ボタンがあるのが好みなんだ。
理由はヒミツ。
うん、そうそう、パジャマ着て、くるくるマフラーにコートがいいよ。
もしかしたら、誰かにあうかもしれないし。