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「今回のトップは佐川だ」
・・・・・・またかよ。
「佐川、よくやった。このままいけば推薦は問題ないだろう」
「さすが佐川だよな」
「あいつ、他の塾もいってるんだろ?」
「井川中の誰かさんとじゃ、レベルが違うってやつだよな」
「聞こえるって」
「いんじゃね?」
…十分聞こえてるよ。
何が言いたいんだよ。
お前らが行ってる中学だって、たいしたことないじゃないか。
ただ、金がかかる私立っていうだけだろう。
お前らに負けた訳じゃない。
…イライラする。
笑うなよ。
早く、受験が終わればこいつらとも会うことなんかないはずなんだ。
とっとと終わらせてやりたい。
いつか、お前らを使う立場になってやる。
「二位は、桜井だ。頑張ってるな」
「…はい」
「万年二位の桜井クンってやつ?」
「名前呼ばれるだけ惨めだよなー、一位にはなれないっていうさー」
「毎日毎日頑張ってるんじゃね?そんで二位とか」
「必死で頑張って、勝てないとか気の毒すぎ。だったらやらない方がいいじゃん」
──…うるさいよ。
あー、桜井君、今回も負けちゃったんだね。
ここの塾、レベル高いらしいし?
どこでも一番になるのって、大変だよねえ。
学校では一番なんだし、十分頑張ってると思うけどなー。
河合さんメロメロでクラクラだったよ?
いいね、ボクも練習してみようかな、メロメロスマイル。
口の端上げて、…って、あんまり奥歯噛んだら割れない?
歯医者さんって、キュイーンって音がボクニガテなんだよね。
桜井君歯医者さんスキ?
でもビジンのおねえさんにキュイーンって、メロメロだよね。
ボクちょっとときめいちゃうさ。
ねぇ、気づいてる?
ママがくれたお守り、カバンの下で潰れちゃってるよ?
持たせてくれたおにぎりも、ほら。
配り終え、一通り確認が終えるとチャイムが鳴り、講師が生徒に告げる。
「それじゃ、皆気をつけて帰るように」
席をすぐ立つものも居れば、そのまま講師に質問を、と残る生徒も。
既に一般家庭の夕食時間には遅い、夜21:30を過ぎた辺り。
「あー、今日の犯人誰だったんだろ」
「ビデオとってあんだろ?」
「あるけどさー、まちきれねーじゃん」
「俺ん家よって見てく?」
有名な塾なだけあって、ここに通う生徒はあちこちの学校から集まってくる。
少年、桜井の火曜井川中学は学区内ではないため、通うのに一時間。
他にも同じ時間をかけて通うものもいれば、近いものも居る。
入塾試験をクリアし、そして成績別に管理されるこの塾。
当然レベルは高い。
志望校合格率90パーセントを誇る名門なだけあって、講師も一流であり、90パーセントの合格率を維持するべく、生徒を選びかつ適切な進路相談をというモットーを貫く。
少子化の生徒不足が嘆かれる中において、それでも譲らないその体制は人気でもあり、批判でもあり。
しかし、「誰でも入れるわけではない」という選ばれた感覚というものが羨望の的になるのは今も昔も変わらない。
帰って、勉強しないと。
次回こそ、あいつらを見下してやる。
「桜井、飯くってかねえ?」
「いや、今日は帰るよ。明日朝連あるからさ」
「あー、んじゃまた今度な」
わざわざ、同じ学校のヤツがいない塾を選んだのは、正解かもしれない。
佐川が来るまでは、「此処」も、俺の「場所」だったのに。
声をかけてきた塾仲間に手を振ると、教室を後にする少年、桜井。
へーぇ、そっか。
努力家なんだねぇ、桜井君ってば。
学校では優しくて優等生の人気者。
うんうん、努力して頑張るっていいよね、ボク、スキよ。
あ、でもオトコノコがスキってことじゃないんだ。
残念?
…っと、河合さんはそろそろお風呂かな。
いいよね、女の子の入浴シーン。
わくわくしちゃうよね?
せっかくだから、ボクそっち見に行こうかな。
寒いし、あったかいお風呂、たまらないよね。