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「またトップ佐川かよ…クソ」
呟いて、ライターを取り出す桜井。
足元の草を蹴り飛ばし、唾を吐くと、周りを見回す。
誰も居ないことを確認すると、煙草に火をつけると、煙を吐く。
薄暗い夕方の川原はとても静かで、土手の向こう側に行き来する車の音が遠く聞こえるだけだ。
「やってらんねーっつの」
そう、呟いてふと頭上を見上げると、そこには鳥の巣が。
枯れ草を編んで作られたような形のそれは、既に雛鳥はいなく、また季節が来れば、そこには卵が、そして、雛鳥が。
そして、またいつか、巣立っていくのだろう。
「バカじゃねーの、虫とか食って生きてくとか」
忌々しげに吐き捨てる、少年桜井。
足元から石を拾って、それにむかって投げつける、がうまく当たらない。
桜井君、お礼っ。
ボク、やっぱり、イイ、と、ワルイ、わからなかったの。
だからね、同じことが起こるようにって。
してあげたことが、自分にちゃんと戻ってくるようにって。
ボク、こないだおじいさん荷物重そうなの、持ってあげたの。
ボクが重いものもってたら、誰か手伝ってくれたら嬉しい。
うん、ボクってば、やっぱりかしこいよねっ?
おじいさん、喜んでくれてたし、ボクってばイイコ。
イイ、と、ワルイはわからなかったけど、十分ボク、満足っ!
きっと、皆も喜んでるよね?
「なんで当たらないんだよ」
再び、石を拾って投げようと振りかぶる、少年桜井。
その、足元から。
「!!!」
なにか、が少年の体を掴む。
「な、なんだっ!?」
必死になって自分の体を掴んでいるなにかを振り払おうとするが、何も、ない。
さらに、触った感じすら、ない。
「……っ!」
何もないはずなのに、なにかが体を掴む感触が離れない。
唾を吐いてみるが、自分の服を汚すだけだ。
「…なっ!」
その、指先が。
その、背が。
「うわぁあああああああ!!!!!」
じわっと、血が滲んで、鋭い痛みが。
何かが直撃するような、鈍い痛みが。
「誰か!誰かああああっ!!!!」
ゆっくり、ゆっくりと肉をえぐられていく感触が、痛みが。
肉を断ち切られ、神経が遮断され、血管から血液が体外に排出され。
そして、それはゆっくりと体の内部に侵入していき、やがてその、白い骨に、何かが触れ、関節が無理な方向へと捻じ曲げられ、
……バキッ
真っ二つに折れて。
「うわあああああああああ!!!!!!」
ぼとり、と、草むらに、体の一部であったそれが、落下した。
「誰か!誰かああああああ!」
ねぇ、桜井君は、何をしたの?
それ、が、桜井君のされたいことだったの?
頭イイ桜井君、イイ、と、ワルイってわかる?
ボク、痛いのスキじゃないからわからないや。
うん、ニンゲンって、奥が深いよね。
いつか、ボクにもわかるようになるのかな?
イイ、と、ワルイ、キミはわかる?
他の皆にも、お礼しなくっちゃ。
ちゃんとお世話になったら恩返し、ボクって律儀。
うん、ちゃんと皆にお礼するよ?
ボク、かえっちゃったら淋しい?
んー、やっぱりボクって罪作り。
でも、大丈夫っ。
皆ボクにメロメロなのはわかってるから、時々見に来るよ。
そして、また、お礼してあげる。
いつか、イイと、ワルイ、ボクにもわかるかな?
ねぇ、キミは、わかる?