表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ココロノヤミ  作者: ぬこ
17/21

17


 「ただいま」


 といっても、返事がないのは先刻承知の上のこと。

 それでも、条件反射というべきか、思わず口にしてドアを閉める。

 

 靴を脱いで、洗面所へ向かい。

 手洗いをして、うがいをして。


 自分の部屋に戻り、制服をハンガーにかけると、居間に戻る。

 留守電があるか、電話をみて、着信がないことにほっとする。


 これから風呂を済ませて、それからずっと此処にいてもいいし、子機をもって部屋に戻ってもいい。

 親が帰ってきたら、今日はまっすぐ早めに帰ってきたと言えばいい、と言い訳を考える。

 旅行の準備で、早くなった、でも。


 行きたくはない、旅行。

 かといって、断る理由が思いつかない。

 積み立てをしてくれている親に、それを無駄にするのが申し訳ない。

 毎月の積み立てが戻ってくれば、親が欲しがっていた新しい鞄も買えるのに、と思って溜息をつく。



 「……お風呂、しちゃおうかな」


 電話の子機を持って、浴場へ向かう少女。

 




 あ、河合さん、これからお風呂?

 いいよね、昼間のお風呂。

 明るくて、視界はばっちり、湯気でふんわり。


 嬉しいな、お外寒かったから早く入ろうよー?


 ボクね、頭にタオルまいてさ、お湯につかってるうなじが大スキ。

 こう、ぴよーんって後れ毛があってさ、いいよね、アレ。


 思わず引っ張って、指でくるくるしたくなっちゃう。


 あ、キミもちょっとされてみたい?


 ボクのテクにクラクラしちゃうよ?

 だって、危険なセクシーダンディだからね、ボク。

 

 

 

 

 

 「ふぅ」


 昼間のお風呂って、変な感じ。

 電気つけなくても明るくて、あたりまえだけど、外は昼間で。


 ゆっくりと湯船につかり、冷えた体を温める。

 指先までピンク色に染まり、湯気で満ちた浴室に自分の溜息が響く。

 ちゃぷん、と湯に手を沈めて、皮膚に少しずつ気泡がついていくのをじっと見つめる少女。

 なにか、考えなくては、とも思う。

 かといって、何が思い浮かぶわけでもなく。

 ただ、温かいその湯に体を浸しては溜息をつく。



 


 んー、たまらないねっ?

 やっぱ、お風呂ってボクだーいすきさ。

  

 ピンク色の肌って、すっごいイイよね?

 ボク、ドキドキしちゃう。

 ほっぺたも、うなじもピンク。


 うん、オンナノコってやっぱり大スキ。


 後れ毛くるくる、したくてたまらなくなっちゃう。

 いやん、とかいわれちゃったら、ボク、どうしよー?


 ねぇねぇ、キミならわかるよね、このロマン。





 「それじゃ、そろそろでよっかな」


 一人、呟いて湯船から出る。

 湯から出た途端、ずしんっと体が重くなるのを感じて、ほんのわずかにだるさを感じるが、それでも体があたたまるのは心地よい。


 どうしようかな。

 宿題…もないし、予習…

 ──明日、学校いきたくないよ…


 このまま、いかなくてすむのなら、いいのに。

 

 でも、そしたら、親心配するよね…



 体を拭いて、頭を乾かす少女。

 未だ湯気がひかない体とは裏腹に、加速して冷えて行く心。

 部屋着に着替えて、再び溜息をつく。


 

 お弁当、今日はいいよっていっておいて、良かった。

 

 

 全て学校に置いて来てしまったことを思い出す。

 昼飯を購買で買うつもりだったので、お弁当を作ってもらわなかったのは、正解だった。

 今から取りにいくなんて、出来そうにない。

 再び学校を思い出すだけで、一層心が冷えて行くのを感じる。


 戸棚からカップラーメンを出すと、電気ポットから湯を注ぐ。

 しゅわっと湯気をあげて、食欲をそそる臭いがふわっと立ち上る、が。


 ───……っ。

 行きたくないよ……っ


 ぽた、と涙が零れ落ちる。

 あと、20時間もしないうちに、再び学校にいかなくてはいけない。

 それを思うと、どうしようもなく哀しくて。


 立ち上る湯気が温かく、心地よい、が。

 ほんの少し顔を背ければ途端にどうしようもなく冷たくなる。

 

 行きたく、ないよ。

 行きたくない、よ。


 ──生きたく、ない…




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ