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ココロノヤミ  作者: ぬこ
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 週番って、なに?

 長いスカートはいてカミソリ持ってるってやつ?


 こわいねー、ボクだったら逃げちゃう。


 河合さんも、怖いから逃げちゃう?

 

 

 せっかく今日の予習してあるのに、残念だね。

 


 どこいくの?

 家?


 あ、そっか。


 河合さん家も昼間は誰も居ないもんね。


 でも、荷物置いてきちゃって、良かったの?

 靴も、上履きのままだよ?



 

 

 

 ───もう、イヤ……

 どうしよう、学校さぼっちゃった……

 だって。


 ……だって。


 居たくない、居られないよ…

 桜井君に、あんなこと、言っちゃった。

 桜井君、怒ったよね。

 なんてことしたんだろう。


 「そんなわけないだろ、河合さんだぞ?」


 …って、桜井君、言った。

 

 「アタマの具合みてもらうといいよ」

 

 っていって、肩、ぽんって。

 昨日繋いだては温かくて。

 今日の桜井君の手は…


「カーワーイ・キーモーイ!カーワーイ・ウーザーイ!」


 ウザイって、…キモイって…


 言われた言葉が、頭にぐるぐるとイヤになるほど回る。

 ぐっと目をつぶって、耳を塞ぐ。

 それでも、延々と繰り返される頭の中のその言葉。






 「……っく。…」


 しゃくりあげて、滲んだ涙が閉じた瞼から制服に直に吸い込まれていく。

 じわっと温かく、それが風に気化していくかのように、冷たくなっていく。


 少女が座り込んでいるのは、彼女の学校から少し離れた公園のベンチ。

 あてもなく走り続け。

 かといって、上履きのままの自分。

 荷物も持ってきていない。

 家に帰るにも、近所の人に見られでもしたら、親に心配をかけることになったら。


 どこに行く訳にも行かず、人気の少ない此処の公園に来たのだ。


 

 ───制服のままだし、もし、誰かに見られたらどうしよう。

 ……学校で、いじめられて、逃げて。

 そんなこと、絶対言いたくない。

 

 「明日、どうしよう…」


 呟く。

 行きたくない。

 誰にも、会いたくない。


 「まだ午前中だし…」


 散々涙を零したせいか、目がひりひりと痛い。

 

 ふう、と溜息をついて空を見上げる。

 どんよりとした冬の曇り空。

 冷たい風がひゅううと吹いていて、せめて、コートをもってくればよかったと思う。

 汚れて黒ずんだ上履きと、カサカサになった膝小僧。

 少しずつ落ち着いてくるのと同時に、寒さがじわじわと体を侵して行く。


 「一回、うちに帰ろう」

 

 そうだ、そうしよう。

 親は仕事で今は居ない。

 万が一学校から電話が来てたりしたら困るよね…。




 木枯らしぴーぽーふいているー、って歌、あったよね?

 北風だっけ?ぴーぷー?

 まぁ、ボク的にはそんなニュアンス。


 少女が一人、公園のベンチ。

 まさにそんなカンジだよねっ。


 でも、ここ寒いし、おうち帰るのがいいと思うよ。

 あったかいおこたでココアとか、ボクスキだな。


 あ、マシュマロいれると高級感でセレブってカンジ。

 いちごマシュマロがいいんだけど、ココアに、どう?




 

 乾燥したベンチの木材がわずかにささくれ立っていて、なんとなくいじっていた指先に刺さる。

 冷え切った、冷たい指先がわずかにチリチリと痛む。

 滲んだ血をまた指先で拭うと、重い腰をあげ、ベンチから立ち上がる少女。


 わずかに学校の鐘の音が聞こえて、ぐっと唇を噛む。

 

 これから、家に戻って。

 電話がきて、親に知られたら、困る。

 もしかしたら、もう来てるかも知れないし、夜に来るかもしれない。

 それなら、早めに帰って、お風呂もすませて、ずっと電話の近くに居ればいい。


 そう、思って。

 

 うん、と頷くが、前に進まない体。

 

 乾いた唇が風にさらされてヒリヒリと痛む。

 めくれた皮を指先で剥いて、じりっと血が滲む。


 無言で制服からリップクリームを取り出し、がさついた唇に塗りつける。

 スースーとした清涼感が風に、一層冷たい。



 

 んー、女の子の唇はやわやわがいいよー?

 ほら、ちゅーするとき、ドッキドキ。


 あ、でも、静電気でパチッとかなったらどう?

 暗いところでキラキラ?


 君の唇に火花がボンバーだぜ。

 ボクのハートに爆弾ドカーンな予感なんだぜ。


 …悪くないね。

 うん、悪くない。


 そっか、河合さんもテクニシャンだったんだね、やるなー。

 ますますボクドキドキしちゃう。

 やるね、河合さんってばボクキラー?

 たまらないね、電撃キッス。





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