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「他のクラスに聞こえちゃうだろ?イジメと勘違いされたら怒られる」
そういって、にっこり、と笑う。
「あ、ほんとー!イジメなんかじゃないのにねー」
「そんなんでウチら怒られたら超被害なんだけど」
「ほんと居るだけで迷惑、しゃべればウザイ、見るとキモイ、三拍子揃ったってカンジ?」
口々にそう言って、じっと河合を見るクラスメート。
その視線に射すくめられたかのように立ち尽くしたまま動けない河合。
ほんのわずかに動かした視界に入る桜井は、穏やかに席に座り、笑みを浮かべている。
「つーか、なんで生まれてきたのー?」
「桜井くーん、はーい、しっつもーん!」
「ん?」
「人間一人いることで、どの位資源が無駄になるんでしょうかっ?」
先生に質問する時のように手を上げて、問いかけるクラスメートの一人に。
「まず、酸素を吸って、二酸化炭素を吐き出して。生きていくためには水が欠かせないね。そして、他の生き物を殺してそれを恒常的に摂取することで人体の生命活動が行われる。つまり、生きていくためには他を殺してその上に生きているっていうことだね」
変わらない笑顔で応える桜井。
さっすが!と彼の博学を褒め称える声があちこちであがり、問いかけてきたクラスメートが河合に向き直ると。
「だってさー、てことはコイツ生きてるだけで他が殺されてるって訳」
「うっわー、ひっでぇ。どうせ河合なんだし、死んじゃえば?」
「ほんとほんと。これからもずっと生きてるだけで資源の無駄!」
「…っ」
思わず、涙が滲む。
ずっと立ち尽くしている足に、じりじりと痛みを感じる。
口を開いても、出ない言葉の代わりに漏れるのはしゃくりあげる吐息の音。
「あた…し…」
「キモ!酸素すうなっつーの!」
「その分ウチらのが減るんだって、聞いてなかったの?」
「口塞いでそのまましんじゃえばぁ?」
ぽたっ、とこらえきれない涙が床に落ちる。
ぶるぶる、と肩を震わせて、顔を覆いひっくひっくとしゃくりあげる河合を見て。
「きったねー!河合の体液きたよ!」
「サイッテー、マジ消えてくれない?」
──ガラッ!
「お前らうるさいぞ!なにやってるんだ!」
突然、ドアを開けて入ってきたのは、担任。
重そうな箱を幾つも抱えて、ドアを開けるために一度下に置いたのか、すぐ後にも荷物が重ねられている。
「週番、荷物があるから取りに来るようにと言っただろう、なにやってたんだ!」
「えー?」
「…あ、わすれてたー!」
きゃぁきゃぁ笑いながら返事をする声と、仕方ないな、と呟く担任の声。
「……っ」
何かを言いかけて、言葉は出ない。
反射的に走り出す河合。
クラスメートの中を抜け、教室の後の出口を目指す。
「待て、河合!授業中だぞ!」
「河合、サボリー?ダメじゃーん」
「うっわー、堂々サボリ!?」
背後から聞こえてくる声と、ひやかすような、避難の声。
しかし、追いかけてくる足音は無く。
パタパタパタ、と冷たい廊下をひたすら、少女は走る。