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ココロノヤミ  作者: ぬこ
13/21

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 ……そっか、そうだよね。

 桜井君が、…そんなことあるわけないじゃん。

 でも、でも。



 桜井君、もしかしたら、庇ってくれるかもなんて…


 そんなことある訳ないのにね。

 昨日の、アレは、ほんとに偶然で。


 優しかったのに…

 でも、もう、こんなの、やだ。

 もしかしたら、もしかしたら…


 

 俯いて、ぐっと握った拳がわずかに震える。

 何かしなくては。

 言わなくては。

 少女の頭の中に巡る言葉。


 


 「…って…」


 一言、呟く。

 余りにも小さく、その声は誰にも聞き届けられず。

 

 「…だって…っ」


 もう一度、吐き出すように。

 

 「はぁ?」

 

 その声に、桜井と話し込んでいたクラスメートが聞き返す。

 大きく吸い込んだ息を、吐こうとして、ほんのすこし漏れた吐息と共に「何か」が抜けていくのを感じて、ぐっとこらえて。


 ガタッ。


 少女河合は立ち上がる。


 「あ、先生みにいくのー?早く行ってくれるー?」

 「とっとといってこいっつーの、もったいつけてねーでさー?」

 「河合さん、先生呼びにいくのなら速やかにね?」


 「あた…しっ!」

 

 貯めた吐息とともに発した言葉は、思いのほか大きく。

 一瞬、静かになる教室の空気がピリピリと、全身に突き刺さっていくような感覚を味わう。

 

 ──どうしようどうしようどうしよう

 先生呼びに…?

 どうしようどうしようどうしよう……

 それじゃ、それじゃ変わらない

 今なら、きっと今なら



 きっと今なら…っ


 「桜井君に呼ばれて…話があるからって…」

 「はぁ?」

 

 「クラスの女は…っ…うるさくてイヤだからって」

 

 「ウソついてんじゃねーっつーの河合!」

 「あるわけないじゃん、バカじゃないの??」


 口々に反論の声を上げるクラスメート。

 視線を交わす事無く、一度に吸い込んだ呼吸のまま、言葉を続ける河合。

 

 「ウソじゃない…!だから、夜にあたしんちに…!」


 「…河合さん、どうしたの」

 「ほら、桜井君呆れてるじゃーん、いい加減にしたらぁ?」

 


 今までにない桜井の冷たい目線が、乾いた笑いが河合に向けられる。

 彼の声に思わず顔をあげ、その表紙に絡んだ目線がに思わず少女はたじろいでしまう。


 


 やっぱり、やっぱりダメ…?

 

 

 でも、でもっ…

 此処まできたら…こんなこといっちゃったら…


 もう、なんとかしなくちゃ…ウソでも、ウソでもいいからっ!

 


 「あー、ちょーむかつくんだけど?」

 「マジ頭いっちゃったんじゃないのー?」



 呆れたように言うクラスメートは、視界に入っていないのか。

 その、声は耳に届いていないのか。


 届いていて、それでもなお、止められないのか。


 堰を切ったように、少女、河合は下を向いたまま言葉を続ける。


 

 「学校じゃ話せないから…っ…帰りにコンビニ寄るから…っ」


 「河合さん、先生呼びにいってくれるかな」

 「とっとといってこっつーの!ウザいんだよ河合!」

 「桜井君、迷惑してんじゃん!相手欲しいなら出会い系でもいけばぁ?」

 「会ったら即バレだろーけどー?」

 「ほんとほんと、マジウケるっ!」


 

 



 スキだったオトコノコとヒミツの夜。

 ついつい手なんか繋いで雰囲気ばっちり。


 うんうん、期待しちゃうよね?


 期待して、急に親密なカンジ。

 期待して、その分の反動っておっきいねー?


 やっぱり、河合さんも

「手に入らないんだったら、壊しちゃえ?」

「思い通りにならないと、ムッカムカ?」


 純情乙女を期待させて、裏切った罪は重いってやつ?



 それとも、桜井君がいじわるされちゃっても、助けて欲しかった?

 



 うーん、ボクには難しいな。


 こないだ読んだ本でさ、

 「アナタの為ならアタシどうなってもいいの」

 とか、

 「お願い、一緒に死んで頂戴!」

 とか見たけど、どう?


 あ、ボクの読書傾向じゃないからね?

 やっぱりボクはムチムチボインなのがでてきて、ヒーローがでてこなくっちゃ。


 ムチムチボインちゃんがアミアミで、たまらないよね。

 でも、ボクはムチはちょっとイヤかも。


 うーん、オトナって難しいねっ?





 「あた…しっ…」


 ぐっと拳を握って、立ちすくむ少女。

 それを取り囲むように、数名。

 自分の席についたまま、成り行きを笑って眺める者数名。

 まったく興味なさそうに噂話を続ける者も、数名。


 

 「いい加減黙ればー?ほんとムカツクんだけど」

 「キモ河合、マジウザ」

 「河合さん、保健室行ってきたら。僕が先生呼びに行くから君は休んでくるといい」

 「やっぱ桜井君やっさしー?」


 にっ、と優しく、極上の笑顔で笑う桜井。

 冷やかしなのか、からかいなのか。いづれかの声を掛けてくるクラスメートを手を上げて制すると。


 「アタマの具合みてもらうといいよ」

 

 ぽん、と河合の肩を叩いてそう言う。


 「あははははは!ほんっとそうだわ!」

 「妄想おっつかれー!」


 途端、笑い声が巻き起こる。

 



 ──……

 …な…にいったんだろう…

 なに、私……




 かーっと、視界が白く。

 こめかみが熱くなるのを感じる。

 何を考えて、あんなことを言ったのか。

 

 一体何を期待して。


 憧れていた少年と、その秘め事に盛り上がった気持ちが。

 

 私…


 ふと、急速に体から力が抜けて行くのを感じ、我に返る。

 


 

 私…どうしたら…

 何で、あんなこと…でも…


 どうしよう…



 「私…」


 「カーワーイ・キーモーイ!カーワーイ・ウーザーイ!」

 

 

 一言、発した言葉を消し去るように、クラスの中に響く声。


 「カーワーイ・キーモーイ!カーワーイ・ウーザーイ!」


 何か言おう、と口を開くも。


 

 「カーワーイ・キーモーイ!カーワーイ・ウーザーイ!」


 輪唱の様に続けられるそれに言葉を失い、再びうつむく河合。

 ある程度の間隔を保ってくりかえされるそれを止めたのは。


 「皆、ストップ」


 涼やかな、落ち着いた、桜井の声。


 「!?」


 驚いて、ぴたっと黙るクラスメート。

 そして、僅かな期待と、驚きを込めて桜井を見上げる河合。

 集団に見つめられて、口を開く桜井。






 うっひゃー、桜井君、かーっこいー!

 ヒーローってやつだよね?

 落として、あげる、これ最高。


 うんうん、効果絶大。

 なんていうんだっけ、えーっと。


 「桜井の一声でしーんとなりました」


 なんだっけ?


 サルの一声?

 犬の遠吠え?


 惜しい気がするんだけど、どう?




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