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手が冷たい。
──それにしても、家近かったのか。
これからは場所気をつけないといけないな。
「また、そのうちに」
近いうちに。
悪くないよな、うるさいタイプじゃなさそうだし。
どうせ、高校入れば学校変わるんだし、後腐れもないもんな。
いちいち人に言うタイプじゃなさそうだし、第一言う人もいなそうだし。
ふぅっと溜息を吐くと、自分の家の門を音を立てないように開けて、中へ。
夜も遅く、しびれるような冷たさを指先に感じて、ぐっと拳を握り、軽く暖めると靴を脱ぎ、部屋へと戻る。
「あら、おかえりなさい。遅かったのね?」
「ああ、少し残って質問してきたんだ」
「そう、おなかはすいてない?」
「大丈夫。風呂入ってもうちょっと勉強したら寝るから」
「無理しないでね?お夜食もっていく?」
心配そうに声を掛けてくる母親に、笑顔で応える少年。
「ううん、母さんも早く休んで。少ししたら僕も休むから」
その笑顔にほっとしたように、同じように笑顔をかわすと頷いて自室に戻る母親。
それを見届けて、少年は冷えた体を温めるべく、風呂場へ向かう。
いいなー、ママすっごい優しそう。
おにぎりつくってくれたり、うらやましい。
ビジンなママで、優しくて。
おうちはキレイであったかくて。
あ、桜井君これからお風呂?
オトコノコのお風呂、別に見ても楽しくないんだけどな。
でもせっかくだからみーちゃおっ。
入浴剤で真っ白だってオッケーさ。
むしろそのほうがオッケーなのはヒミツ。
あ、キミはどう?
お風呂は入浴剤いれるタイプ?
「・・・っ!」
じんわり、と口元から滲む血。
最近生え始めた口元のヒゲを風呂場で剃るのが日課なのだが、少し手元が狂ったのか。
その血を湯で洗い流し、頭からシャワーを浴びると、湯船に浸かる少年。
明日、学校に行ったら。
予習と復習はこれからすればいい。
放課後にならないうちに役員日誌書いて、先生に渡して。
明日の塾は少し早く行けるかな。
帰りに、又あの川原に行ってもいい。
河合があの犬猫知ってたって言うのはちょっと問題だったな。
まぁ、まだどうこうっていうわけじゃないし、また探せばいい。
まずは、河合かな。
色々試してみるのも悪くない。
勉強ばかりで女知らないとか言われるのも不愉快だ。
塾に来てるヤツラでさえ、暇さえありゃ女・女・女……うるさいんだよ。
お前らに劣ってるつもりなんかないい。
その気になれば何だってできるんだ。
あー、ボクって残念な気持ちでいっぱい。
桜井君は入浴剤いれないんだね。
っていってもさ、体洗う時もタオルかけるの?
まぁボクには救いだけどさ?
でも、タオル越しに見えるのもちょっとセツナイね。
先に桜井君お風呂入っててくれたら河合さんで口直しできたのにな。
あ、でも桜井君って、体毛意外と薄いんだ。
その辺もモテポイント?
腕とかツルツルだし、おへそも。
あ、これ以上はボクいいや。
密林ジャングルが頭に焼き付いちゃったら眠れなくなっちゃう。