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命題7:罪と悦楽の境界に

「ふふっ……あなた達、人の忠告は受けるものよぉ…?」

ドアが吹き飛び、大量の埃があがる中、その埃を一切気にする素振りもなくソイツは現れた。

その女は笠音達が来ている、あのどこか近代的な鎧と同じような鎧を来ていた。

ボディは赤黒い。その赤黒さに金や銀が装飾されたソイツの鎧は……きれいというよりも、むしろおびただしい血の色を思わせる。

「だ……誰だ……?」

俺は身構えて問うた。


「私ぃ……? あなた自身がさっき答えを言ったでしょう?」

「…伏兵……だと…!?……アンタ…何処から現れた!?」

確かに、このビル内に隠れることの出来る部屋は大量にある。

さっき伏兵が存在する可能性を思わず叫んだのは、そのためだ。

しかしよく考えてみれば、本来、ノゾキの目をかいくぐってこの建物に侵入者するのは難しい。



何故ならノゾキはその能力で半径数十メートルの人間の敵意とESUを常に監視していたはずなのだから。

その監視があったからこそ、先程の襲撃にも落ち着いて対処し、現在はその襲撃者と交戦しているのだ。

そして、ノゾキは交戦している今でさえ―いや、今だからこそ敵意とESTの監視を続けている。

即ち、先程の襲撃に紛れてこのビル内に侵入すれば、ノゾキは気付いてここに来るはずなのだ。

しかし、ノゾキに気付いた様子は無い。

未だ先程の襲撃者と交戦中だ。


「さぞかし不思議に思っているでしょうねぇ……」

俺は身構えるのを止めない。

「でもね」

女は続ける。

「伏兵の存在がバレていたら伏兵の意味が無いでしょう……?」

そういいながら、女の右手の人差し指が僅かに動くのに、俺は気付いた。

「!」


俺はとっさに後ろに飛び跳ねた。

女が僅かに右手を動かしながら、口をにたぁ……と歪ませる。

「そう……いい反応ですわ…。これまで殺してきたヒトの中でも中々にいい素材の『本質』が得られそうですわぁ…。」

「本質…?」

俺の後ろで竹田がそう呟いたが、俺にとってはそんなことよりももっと重要で、最も喰い付かなきゃならない場所をさらに問う。


「人を殺した、だと…?」

「ええ、殺しましたわ。それが何か?」

「…!!」

思わず戦慄する。

今この女はなんて言った?

『何か?』って言ってきたのか!?

人殺しを何とも思ってないって言うのか……!?

「な……『何か?』じゃ、ねぇだろ…?!」

「何を間の抜けた顔をしているのです? この世界では切った貼った、殺った殺られたは日常茶飯事ですのよ? それなのに何を今更―――ああ、そういう事ですか…。」

女は一人得心したように頷き、俺達を値踏みするようにこちらを無遠慮に見渡してくる。

「何を一人で納得している…!!」

「ふふっ…質問ばかりですのねぇ! 『あれは何?これは何?』とまるで子供のようですわ!!」

そして女は再び笑う。

それを見た者の怒りを一気に沸点まで上昇させるほどの嘲笑。

いや、それは嘲るというより、虫けらを哀れみつつもしかし絶対的優位を背にそれをもてあそぶような…

…すでに自身と同じ種であるはずの人間に向ける表情ではなかった。


「テメェ……!!」

誰より早く沸点に達したのは、北川だった。

怒りの余り、俺を突き飛ばすような勢いで俺を押し退け、女の前に立ちはだかり、身構える。


「ひひっ…まぁまぁ、落ち着きなさい、新入りちゃん。今からじっくりと、たっぷりと、私の目的とこの戦いについて教えてあ・げ・る……」

そして、こう付け足す。


「あなたを実験台にしてねぇ!!」


女はそう叫ぶが早いが、先程から僅かに動かしていた右手を正拳突きのように突き出すと、その右手が光りだし――瞬く間に巨大な槍を呼び出した。


そして。

そこからは一瞬だった。

その時何が起こったのか―俺には視認出来なかったのだ。

ただ俺の目の前にいた北川の姿が忽然と消えたかと思うと、俺の真横を何かがとてつもない速さで通り抜け、会議室の奥の壁へと「ベチャァッ」という音を立ててぶつかった。


誰も、何も言えない。

数秒間の沈黙が場を支配する。

その沈黙を破ったのは、竹田だった。

「――き…北……川!?」


振り向くと―――


「な…あ……!!??」

先程何かが叩きつけられた壁には、一目では何か判別不能な肉塊が転がっていた。

その肉塊は……

北川は―――――




全身を何か巨大な杭のような物で何度も貫かれたかのように穴だらけで―――




首から先が、なかった。


「あ……ああ………き………北川ァァァァァッ!!!?」


  ☆☆☆☆☆☆☆☆


「ヒャァァアアッハハハハハァ!!!! これだからやっぱり止められないわねぇ、人殺しはァ!!」


北川の惨憺な姿を見て、俺は…震えながら、この所業をしでかしやがった女へと振り返る。


「何を……した……?」

ナンデコノオンナハワラッテルンダ?

ドウシテワラッテイラレルンダ?

ドウシテ、ドウシテ……?

ドウシテコンナコト……?

女は槍を構えていた。

その槍の先に、北川の首から上がある。

槍の刃を真っ赤に染め、それ自身も真っ赤な液体で染められている……

真っ赤な中でポカンとした表情のまま絶命している北川の顔が…


やめろ……やめてくれ


こんなのは夢だ……!!


悪い夢なんだ……!!


誰かそう言ってくれ!!


この夢から叩き起こしてくれよ!!


その心の叫びも虚しく、女の声は確かな現実感を持って俺の耳に響き渡る。


「これが『本質を奪う』ということ。お分りになりましたか? 私達は他者の命を奪い、その本質の一部を回収することでイデア全てを支配するつもりですわ。 あなた方にはそのための大事な大事な礎になっていただきますわ……ふふふふっ。」


女は残酷に言う。

彼女は本気で、他者を殺すことで悦楽を得ていた。


誰も理解しえない最悪の悦楽の中で、彼女は俺にこう言った。


「さぁて……お次は誰が実験に協力してくれますの…?

さぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁ!!!

この私の悦楽の為に、いち早く死んでくれる方はどなたですのぉ!!!!」

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