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命題6:その記憶は錯誤か回帰か

もうもうと黒い煙をあげるビル。

その煙の中にたたずむ一人の人影をノゾキは見つけた。

「……何者だ。もし過失や誤解で襲撃してきたのなら、俺達はそちらに危害を加えない。弁明をするのは今のうちだぞ。」


しかし、その人影は答えない。

「……聞こえているか? 俺達は今なら見過ごしてやる、そう言っているんだ。」

すると。

能力を操る他に、自身の力を増強し、その視覚や聴覚、嗅覚を鋭くする装甲―精髄機構によって強化されたノゾキの目は、僅かにその人影の肩が震えているのを捕えた。

決して、怯えて震えているのではないことがわかる。


笑っている。

状況は2対1。

いや、相手が既に仁科たちのことも察知している可能性もある。

しかし、仮に察知していたとして、仁科達が能力を持たない存在であることを知るすべは無い。

つまり、場合によっては7対1であるかもしれないのに、敵は不敵に笑っている。

その不気味さと不快な雰囲気に、ノゾキは眉を寄せた。

「―何がおかしい。」

「気でも狂ってるんじゃない?」

即座にそう返した笠音は、既に臨戦体制に入っていた。

身体中の重火器を人影に向け、その手には笠音の身長ほどもあろうかという超長距離狙撃銃が鈍い金属質の光沢をたたえている。


それでも煙の中の人影は答えない。

ただ、その影を煙のなかに不気味に揺らめかせるだけだ。

そして、黒い煙が薄れていき、人影の姿が明らかになるかならないかの瀬戸際で、ようやく人影は動きだした。

「……背面の鎧を展開。貫け、『ロンギヌスの槍』。」

そう唱えた直後、その人影の背後から幾千もの槍が現れ、その刃が笠音、ノゾキに襲い掛かる。


「!!」

突如現れた幾千もの槍に圧倒される笠音。


人影は狙っていたのだ。

自身の正体がわかるかわからないかの瀬戸際、その正体を知ろうとして一瞬気をとられる、その瞬間を―。

「チッ…!! 私をナメんじゃないわよ!!」

笠音は手に持つ超長距離狙撃銃を構えると、思い切り引き金を引く。

と、

ズドォォ…ッ!!!

という轟音と共に超長距離狙撃銃から大砲弾ほどのエネルギーの塊が大量の槍の群に飛んでいき――

飛んできた槍全てを撒き散らす大爆発を引き起こした。



  ☆☆☆☆☆☆☆☆



「すげぇ…アレが、能力…!?」

「みたい……だな。」

興奮したように叫ぶ竹田に、冷静に答える北川。

しかし、冷静とはいっても、やはり微妙に興奮を隠しきれないでいるらしく、その足はせわしなく貧乏ゆすりをしていた。

「すっげぇ~…なんかSFかアニメみたいだな。」

「かっけーな!!」

田中と橋岡も会話に参加し、興奮した様子で笠音達を応援している。


……しかし、俺はそんな空気に馴染めないでいた。


何故かはわからない。

普段の俺なら、この非日常な光景にテンションMAXになってもおかしくはないのに。

それなのに…笠音達の戦う音が、爆発音が、空気を槍が貫く音が、俺の鼓膜を震わせるたびに俺の不安を増大させていく。

今、目の前で戦っているのが、己の力をぶつけ合い、互いに傷付けあっているのが、人の命で、生きた魂で、そして一方は俺達を砂漠から救い出した恩人であることをまざまざと思い出させる。

そして。

爆発音と同時に吹き荒れる暴風が、今までに無いほどまきあがったとき…それは、いきなり起こった。

「!!!」

突然、自分の心臓が跳ね上がる。

猛烈な吐き気と、思わず片側の膝を付かせるほどの目眩が俺を襲う。




目の前で竹田が死んでいた。

北川も田中も橋岡も皆――

そして、ノゾキも笠音も例外なく、そこで己の血を流し、その亡骸を横たわらせている。

それだけじゃない。

竹田達だけじゃない。

無数の人人ひとひとヒト―

その屍が山となって、まるで廃棄物のような扱いで積み上げられている。

中には体の一部分が無いものもいた。

首があらぬ方向に曲がっている者もいた。

共通していたのは…誰もが死んでいることだけ。そんな、とても現実とは思えない残酷な光景が、唐突に俺の脳裏に映し出された。



なんだよ……今の…!?

今のは、今の光景は…!?


そして、俺は本能的に察知した。

死ぬ……ここにいたら……

ここにいたら皆死ぬ――!!

逃げないと逃げないと逃げないと逃げないと逃げないと逃げ―――

「――い? おい――?」

逃げないと逃げないと……

「おい!! 仁科!! どうしたんだ!?」「!!!!」

竹田が耳元で叫ぶ声で、現実に引き戻された。

まだ胸の拍動は激しく、息は上がっていた。

「どうしたんだよ…。突然倒れたと思ったら、いきなり窒息して…。」

「……逃げないと……。」

「は?」

「ここを逃げないと、俺達みんなやられちまうぞ!! ここは危険だ!!」

「何バカなこと言ってんだよ? あの侵入者ならノゾキさんが戦ってるし、今のところ戦局はこっちが有利な展開だし、危険な要素なんてどこにも――」

「伏兵がいない保証がどこにあるんだよ!!」

自分で言って、ハッとした。


伏兵……そうだ……伏兵がこのビル内に潜んでいて……そして………

戦いが始まってから丁度今くらいのタイミングで俺たちの後ろに――!!


とっさに振り返る。

そして、次の瞬間――


大会議室の大きな観音開きのドアが、全て吹き飛んだ。

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