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命題1:理想論への離脱点

あの後、そーかにガミガミ言われつつ、無理矢理そーかを部屋の外に出しつつ、それでもなお部屋に侵入しようとするそーかに

「今から着替えるんだが、そんなに俺の裸が見たいのか」

と言って撃退しつつ、エロゲを片付けつつ、学校の制服に着替え終えた。

この間、およそ5分。


………せっかちなそーかのお陰か何なのか、最近手際がよくなっていることに気付き、複雑な気分になる。

「ま、いいか…」



現在時刻は7時半。

これならゆっくりと歩いても学校には余裕で間に合うだろう。

たとえ歩くのがとても遅いそーかを連れていても、だ。

以前もこんな風にそーかが奇襲を掛けてきたときがあったのだが、その時はそーかの足の遅さ、スタミナの無さのせいで新学期早々そろって遅刻という間抜けなことをしでかしたのだ。


さらに…俺自身はそんな気はさらさら無いのだが、どうもそーかは疑心暗鬼なところが有るらしく…

俺が自分のことを置いていくのではないかと思ったらしく、通学中ずっと腕にしがみ付かれたのだ。


結果「腕を組んで一緒に遅刻なんて…ヤツら、デキてるぅ」

と1週間も噂された。

そして俺の男友達は皆キレた。

ついでにいうとそいつらとは縁も切れた。


そんな感じで…そーかと登校する時は時間に余裕を持たないといけないことを学んだ俺は、朝食を食うのもそこそこに家を出た。


……にしても鍵と俺の世話を託された人が、結果的に俺の朝食時間を削ってるってのもなぁ…

いかがなもんでしょう?


  ☆☆☆☆☆☆☆☆


学校に付くと、そこには既にチラホラと知った顔が見えた。

知った顔の殆どはこの隣でニコニコしているそーかのせいで縁を切った男ばかりなんだが…

まぁ、それはいいとして。


「盛大だな…。」


そう思わず呟いてしまうほどに、入学式の会場は華美に飾り付けられていた。

「なんと言っても、ここの校訓は『何事も全力で』ですし、全力で歓迎してくれているのでしょうねぇ…」

とそーかは言うが…

その校訓、どこぞの熱いテニスプレイヤーが叫んでそうだぞ…。

つーか校舎の壁にデカデカと吊されてる横断幕の中に

「もっと熱くなれよぉ!!」

って書いてあるのは完全に狙ってきてるよな。


校舎に入って教室を確認すると、幸か不幸かそーかと同じクラスだった。

「わぁっ!!蓮君、おんなじクラスだよっ!!良かったね!!」

「あ…ああ……」


今、口では肯定しましたがそーかさん。

殺到する背後からの視線(主に男の)に殺されそうなので公共の場でそういう事言うの止めませんか?


遅刻したわけでも、腕を無理矢理組まされたわけでもないのに、入学早々敵を作っちゃってるんですけど…。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


クラスに入った瞬間、俺は自分の人生の幕引きを感じざるを得なかった。

普通は幕開けの筈なのに。

概要を詳しく説明しよう。まずクラスの男のメンツが揃いも揃って俺と縁を切ったヤツらだった。

で、そーかと一緒に登校したのを知ったヤツらはことごとく(そーかに見えない場所で)嫌がらせをしてきた。


俺の席のイスにいつの間にか画ビョウが仕掛けられていたり、カバンの中に消しカスの山を突っ込まれていたり、そもそもカバンもイスも無くなっていたりetcetc...

これが入学式1日で行われたと言うのだから驚きである。

団結力と機動力の恐ろしさを身を持って知ることになった。

その後もさらに、一日中何者か(恐らく男)による嫌がらせを執拗に受けた俺は、さらなる被害を防ぐべく一緒に帰ろうとするそーかを「用事があるから」と言って何とか先に帰らせ、家路に付こうとしたのだが…


下駄箱から出した靴ん中に画ビョウ。

「……はぁ……」

時間が経てば鎮火するもんなんだろうか、この炎上。

マジで涙目である。

「全俺が涙したわ……」

そんな絶望感を抱えつつ昇降口を出ようとしたその時だった。

「……うん?」

一つ、妙なものを発見した。

当たり前だが、昇降口にはドアがある。

その内の一つのドアのガラスの部分が……なんだろう、波打っているような感じになっているのだ。

意味が分からないかもしれないが、あたかも…そのドアだけが、ガラスではなく水がはめ込まれているような…

ガラス本来の固さは無く、触れれば液体同様に殆ど反作用も無くすり抜けてしまうような…

そんな感じに見えた。

で、好奇心に駆られた俺はそのドアに近寄り、ガラスを確認するべく触れてみることにした。


(…お?)

触れてみると、本当に液体みたいな感触だった。

いや、水のような抵抗すらない。

どちらかというと、シャボン玉の膜が張っているような感―――――

「………!? お!?」

……抜けない。手が。


……ある程度奥まで差し込んでしまった右手首から先が、全く抜けない。

「な……は…!? 抜けねぇぞ?!」グイグイ引っ張ってみても抜けない。

いや、それどころか―

「ぬぉぉぉぅっ!? なっ…引っ張られて…る…!?」


まるで窓の向こう側から引っ張られいるかのように、俺の右腕がガラスに吸い込まれていく。

しかし、窓の向こう側で俺の手を引っ張る人は見えない。

それどころか、貫通しているはずの俺の右手すら見えない……!!

いよいよ俺の右腕全てが窓に吸収され、窓ガラスは肩にまで至っていた。


(どぉいう…ことだよッ?)

窓ガラスは俺の腕が吸い込まれた場所を中心に、あたかもそこが水面であるかのように波紋を広げる。

そして肩が完全に窓に吸い込まれ、右耳が窓に吸い込まれたとき――


『ふむぅ……全く、ここまで強情に拒まれたのは初めてじゃの……』



その声を聞いたのを最後に、俺の意識は飛んだ。


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