命題15:明かされた罪悪
だれもが皆憧れ、そしてその理想を求めたイデア。
その結末は、それに関わった全ての人間の理想を奪う皮肉な結果に終わる。
崩れ去る俺は、さっきの爆発で生じた巨大なクレーターの中にいた。
砂漠にぽっかりと開いた巨大な穴…それは二人の能力者の墓だ。
「笠音……!!」
その内の一人の名前を、俺は呟いた。
爆発に巻き込まれた笠音の姿は無残なものだった。
描写できない…いや、直視すら出来ない。
焦げた匂いが辺りに漂い、それが砂が焦げた匂いであることを知って、爆発の威力をまざまざと思い知らされた。
笠音と戦い、竹田や田中や北川や橋岡やノゾキを殺した少女―字那もまた、無惨な姿となっていた。
そして――
恐らく彼女が狩ってきたのであろう本質――即ちあらゆる人間の死体の一部や全身が、彼女が死んだことで解放され、彼女の傍らにゴロゴロと山積みになっていた。
北川と橋岡の首もあった。
あの時――字那の襲撃の時に見た俺の幻覚は、確かな実感とともに現実の物となったのだ。
変えられなかった―。
助けられなかった――。
「俺は……最低だな。最低で、無能だ……。」
「否定はしないな。」
「!!」
「動くな。」
この声……そして、俺の後頭部に当てられた金属質の筒。
まさか――――
「ノゾキ、お前、どうして――?」
「いいことを教えてやる。
敵を欺くにはまず味方から。
そして、その味方が居なかったら、味方を作ってソイツを騙し、利用しろ。」
利用しろ。
その言葉は明確にある一つの事実を指していた。
「――まさか、お前…」
「まぁ、それにしても、まさかあの場にいた全員が俺のハッキングにばっちり引っ掛かってくれるとは思わなかったがな。
正直あれは出来すぎだ。
うまい幻覚だっただろ?
何せお前ら三人供、俺が死んだと思ったんだから。
それに、俺が死んだ程度でここまで自暴自棄になってくれるとはな…。
笠音がバカで助かったよ。」
「騙していたのか…?
笠音を!!!!」
「騙していた?
夢を見せてやったんだよ。
アイツの理想に振り回される相棒役を買ってやったんだ。
それを最大限利用して何が悪い?
死んだフリで騙したりはしたが、まぁその程度だ。
その程度で自爆を選ぶとは思わなかったがな。」
それに。
「ここは完全な世界。
完全な俺にこそ相応しい。」
ノゾキは、自身が死ぬのを見せることで、笠音に字那と戦うようけしかけて、殺させた――。
今まで協力していたのは、こうなるように着々とこなしてきた作戦の一貫―。
「……汚ぇぞ!!」
すると、ノゾキは鼻で笑って返した。
「だから言っただろ。
相手が嫌がる策こそ上策なんだよ。」
「テメエ!!!!」
俺は一気にノゾキの方へ体を反転させると、その振り向きざまに後頭部につき当てられていたレーザー砲を払いのける。
そして、その勢いのままに拳を振るう。
だが、全身を鎧に包み込み、体の五感と力を増幅したノゾキはやすやすと避け、俺から距離をとった。
空を切った拳を構え直し、俺は叫ぶ。
「まさか……字那と笠音の仲を引き裂いたのも…お前か!!」
すると、ノゾキは余裕の表情でのうのうと言う。
「アレは俺が介入しなくてもいつか起こった事態だ。
俺はただスイッチを押しただけ。」
「――そして、この引き金を押せば、俺の戦略はようやく完遂される。
ようやくこの場所が俺だけの物になる。
じゃあな、バカな無能力者」
そして、ノゾキの引き金が引かれ――――
再び、俺を妙な感覚が包み込む。
しかし、それはいままでのそれとは比べものにならない程、強烈な感覚だった。
最早俺の体は自分の意志を離れ、そして今まさに引き金を引き終わったノゾキ目がけて走りだし――
俺はノゾキへと右手を翳した。
バチッ
バチバチバチッ
「―――え?」
ノゾキはその顔に似合わないすっとんきょうな声を上げた。
確かにノゾキは仁科を撃った。
しかし、その光線は――
仁科の右手に阻まれた。
ノゾキでさえ見たことの無い、漆黒の鎧の小手に包まれた右手で。
そこでは、先程ノゾキが放った光線が吸い込まれ、僅かに漏れだしたエネルギーが火花を散らしていた。
たじろぐノゾキ。
「まさか……このタイミングで覚醒――!?」
しかし、そんなノゾキを無視して、仁科は唱えた。
『躍れ―跳ねろ―そして舞え―絶望の道化、道化の切り札……!!』
さっきまで声を張り上げていた時のものとは明らかに異質の声。
その声が、仁科の口から流れだす。
『……どうした?
笑えよ……?』
そして
砂嵐が巻き起こり―仁科の右手と左手が砂に包まれ―
砂塵が消え、あらわになった仁科の手には
左手に――
笠音が普段から持ち歩いていた一丁の拳銃。
右手に――
字那が持っていたかの一本槍、『矛盾の戈』。
「……バカな。
どうしてお前がそれを持っている!?」
しかし、仁科は応えない。
おののくノゾキを無視して、その銃口をノゾキの頭に向け、躊躇なく引き金を引いた。
ノゾキはそれに対抗すべく、鉛玉の軌道を一瞬で解析し、レーザー砲を放たれた鉛玉に向け、放つ。
だが、仁科の攻撃はそれだけでは終わらなかった。
右手に残った槍を、鉛玉をこえる速度で放ったのだ。
鉛玉に気をとられていたノゾキに為す術はなく――
その胸は投げられた槍に貫かれた。




