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命題12:矛盾の証明

夜、薄暗い熱帯雨林の中。

月明かりの下で、字那とノゾキは互いに睨み合いながら徐々に距離を詰めていく。


「……何をしに来たのです?」


「何をしにきたも何も。」


ノゾキは俺をちらりと見てから、


「ソイツを連れ戻しに来たに決まってるだろ。」

そう言い返した。


「ダァメですわ。その方は私のもの。手放すには惜しい逸材。」


「ふん。人をかっさらって死体じゃなくて仲間にしたがるなんて、お前らしくない。

仲間外れにされて淋しくなったのか?」


「ただ敵に回したくないだけですわよ。他意などありません。逆に、あなたこそどうしてこんなところまで踏み込んでまでこの方――仁科を追ってきたのです?

BLでございますか?」


うわー……嫌な罵りあいが始まっちまったぞ…。

つーかBLはねぇよ…。


「残念だが、俺は女にしか興奮しないんでな。弄るのも虐めるのも、本気でやるなら基本女にしかしない。」

マテ。女にも優しくしろよ…。


「ふん、そのドSはまだ治ってないんですのね?」


「それはお互い様だろ、超嗜虐趣味者(ブラドラバー)。」


じりじりと、互いを蔑みつつ距離を詰めていく。

そして。


掌握(ハッキング)完了。」

そのノゾキの一言で、変化は起こった。


崩れ去る熱帯雨林。

ぬかるんだ土は一掃され、その下から明らかに人工的に斬られて整然と並べられた石の床が現れる。

さっきまでうっそうとしていた森は砂の中へと姿を消し、その代わりに巨大な、これまた人工石の壁が現れる。

そこはまるで…


「……そんな。」


唖然とした様子で呟く字那。


さっきまでジャングルを形成していた区画の内、俺達のいる場所のみが巨大な石壁に囲まれ、ワンルームの空間のようになった。


壁には短剣やサーベル、晴竜刀や弓、盾や鞭など、様々な武器が置いてあった。


「武器庫……?」


思わず呟いた俺に、ノゾキが返す。


「ああ、武器庫だ。俺にはまともな武器がレーザーキャノン一発しか無いんでな。これで近接にも対応できる。」



「馬鹿な……!! どうして、こんな……!! 私はさっきまでフィールドを熱帯雨林に設定していたのに…!!

私の持っている本質を覆した――!?」


「いいことを教えてやる。

俺の異名に含まれている『諜報士(ハッカー)』は、ただネットで相手の情報を盗み見るだけが能じゃない。

……書き替えさせてもらった。お前の、意志を。」


「何ですって…!?」


「今のお前にはジャングルもセルバもリャノも想像出来ない。フィールドに関する情報は武器庫以外全て消去させてもらった。

……まぁ記憶は俺が能力を解除すれば後々復活するから安心しろ。」


「……面倒なことを…!!」


「いい策とは、相手が嫌がる戦略だ。

その台詞は今の俺には最上の誉め言葉なんだよ。」


「……許さない。私の頭を勝手にいじったことを後悔しなさい!!」


罵りあいで油断している間に頭をいじられていた―。

その事実は、字那のプライドに傷を付けるのに十分だったらしい。

激情にかられた字那は、右手に何をも通過する槍、「矛盾の戈」を構えると、その先端をノゾキの胸へと向けた。

「ノゾキ!!」

今のでこのフィールドはノゾキの手の内だ。

しかし、あの槍にはそんなアドバンテージさえ覆しかねないような能力が備わっている。

何をも貫通するということは、ノゾキが纏っている鎧でさえ例外ではないのだから。


しかし、ノゾキは全く意に介さない様子で、壁に掛けられた武具の一つ…盾を持ち出してきた。


「大丈夫だ。問題ない。

字那…お前の槍にはこの程度の装備で十分だ。」


エ〇シャダイ…だと……!?

って…そんなことより、本当にあんなただの盾であの槍を防げるのか!?


字那の方を見ると、その顔は僅かに歪んでいる。


即ち――


「仁科。『矛盾』の故事を知っているか?」


「矛盾……?」


「かつてある商人が盾と矛を売る際に

『この矛はいかなる盾さえ貫く』

と言って槍を売り、同時に

『この盾はいかなる矛も跳ね返す』

と言って盾を売っていた。

無論、この2つの理論は両立出来ない。その様子を見たある人はこう切り返したんだ。

『では、その矛でその盾を突いたらどうなるのか』

とね。

その商人は何も言えなかったらしい。

これが『矛盾』の故事だ。

…………つまり……。」


そう一旦言葉を切ると、ノゾキは字那を一睨みして続けた。


「お前の『矛盾の戈』は盾だけは貫けない。

そうだろ?」

「さ、あ……ね…。私自身、この槍を止められたことはありませんから。

ですからいい機会です。

この場をもってあなたの浅はかな理論をぶち壊してさしあげますわ。」

「もう一つだけ教えてやる。

槍とは人類が旧石器時代に初めて作り出した武器にして、大きく形を変えることなく今にも残っている武器。

そこからして、その実用性と殺傷能力は折り紙付きだ。

今でさえ銃剣という形で、槍の体術は使われているしな。

だが……」


自分の頭を指差して、ノゾキははっきりと言い切る。


「人類が初めて得た武器は決して槍じゃない。

その槍を作り出したこの頭脳だ。

そいつを証明してやる…!」


「能書きはいりませんわ!!

さっさとくたばりなさい!!」


字那はノゾキのセリフを無視して、突撃した。

矛盾の戈の柄が伸び、その先端が盾を、その先にあるノゾキの心臓目がけて突き出される。

そして……。




「な………?」




「……!!」

ゾワリと鳥肌がたつ。

その勝負の結果はあっけなくついた。

槍は――矛盾の戈は――盾を無視して貫いた。




ノゾキの心臓と一緒に。



「ノゾキィィィィィィ!?」

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