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命題11:耐えて、堪えて、絶えて

仁科が捕まった。


あの猟奇的な少女に攫われたとなれば、生きている保証などどこにもない。


しかし、笠音は使命感の炎を絶やす事はない。

ノゾキもまた、己の責任感を吹き消すことはなかった。


自分が救った命が、自分たちの過失によって失われてしまった――。

そして、残った命もまた、危険に曝されている。

迷いは無かった。ましてや議論の必要など一切いらなかった。


ただ、助けるために少年と少女は準備を着々とすすめていく。


「……田中……。」


先程の襲撃が終わってすぐに、竹田は襲われた田中の元へと急いだ。

北川に橋岡―よき仲間だった二人は確実に死んでしまった…。

だが、田中だけは確認出来ていない。

僅かな希望を胸に、田中の叫び声が聞こえた場所へと行くと――


全身から血を流し、息も絶え絶えだが、しかし、まだ生きている田中がいた。



それから数分の後、笠音とノゾキによる応急手当てをし、田中はの容態ある程度安定した。


しかし――


「……この状態もいつまで持つか分からないわ。早急にイデアの力を使うしか、回復する見込みは無いわね……。」

「……確かにな。」


そこで竹田ははっとしたように笠音に質問した。

「そうだ、北川達は……!!北川達もイデアの力で助けられるんだよな!?」


「………それは――」



  ◎◎◎◎◎◎◎◎



……夜が更けてきた。

きれいな満月が夜空に上り、俺はただそれを見つめる。

しかし、別に俺は名月に趣を感じているわけではない。

「……動けねぇ…。」

相変わらず俺は槍で固定されたままだった。

地面にはそこらの木の葉っぱを積んでいるから痛くはないが、首の角度からしてこのまま寝たら寝違えるのは確定事項だろう。


「すぅ……。」

隣から呑気な寝息をたてているのは字那だ。

この状況なら楽に脱出出来るのではないか…と思った俺が愚かだった。

まず槍で全く動けないし、しかもモゾモゾすればするほど槍の締め付けが悪化する仕様だったのだ。

その結果、俺はあり得ない体勢で寝ることを余儀なくされた。

それでこれだよ…。

動けはしないし腰は痛えし首は妙な方向を向いちまってるし…正直自分が明日まで生きているかすら怪しい。



……嘆いても仕方ない。

アイツになぶり殺されるよりはマシなはずだ。

そう考えて俺は寝ることにした、のだが――。


「!?」


俺の体がコマ回しのように一回転して、ぬかるんだ地面をゴロゴロと転がった。

見ると、槍から解放されている。


「うっ…!?」

今まさに寝ようとしていた俺は情けなくもその体勢で転がって近くにあった木にぶつかり、呻いた。


「ってて……なんだよいきなり……。」


見上げると、さっきまで隣でのどかに寝息を立てていた少女…字那は立ち上がり、その手に先程まで俺を拘束していた三叉の槍を持っている。


「…もう来ましたの…。」


字那が対峙していたのは――

うりざね顔に、角張ったフレームのメガネ。

外見は知的に思わせつつも、実際のところはただただいい加減な少年。



「『いい加減』はないだろ、『いい加減』は。」


バッチリ俺の思考を読みつつ不平をあらわにしたノゾキだった。



   ◎◎◎◎◎◎◎



数分前。

ノゾキと笠音は、崩壊しかけたビルの大会議室で作戦を練っていた。

竹田は隣の部屋で絶対安静の田中を見ている。


「……アイツ、いつの間に仲間なんて用意していたのかしら…?」


当時の状況を整理すると、このビルを襲ったのは二人いた。

共に槍使いであり、同じ技を使い、同種のESUを纏っていた。

そのためにノゾキの探知能力ではその二人の人物を同一の存在と勘違いし、大会議室の伏兵、すなわち字那の侵入を探知出来なかったというのだ。


「状況だけを見れば、あたかも字那が分身したみたいだけど……字那にはそんな能力無かったはず…。」


「…笠音。最初に字那が言っていたセリフ、覚えているか?」


「…え? ええと…本質がどうのって話?」


「違う。それよりも前だ。

アイツはこう言った。


『背面の鎧を展開』


とな。」

「…アンタは、あの私たちが戦っていたのが本物の字那だって言いたいの?」


「それは否、だな。

俺たちが戦っていたのはあくまで囮だ。だが、最初は字那本人だったんだ。」


「……どういうこと?」


「これはあくまで仮説だが、多分最も真実に近い。

……恐らく字那は鎧を分解して、且つそれらの鎧をリモートコントロールすることが可能だ。」


「……私たちの相手をしていたのは単なるアイツの鎧の一部だったってこと…!?」


「…ああ。最初の『背面の鎧を展開』というのは背面に着けた鎧を分解して、自動律式のロボットのようにするためのシグナルコード。

絶えず砂ぼこりを発生させていたのは、戦っているのが字那本人ではないことを見破られ、本人が伏兵として侵入していることを知られないようにするためだ。

当然、この手ならば両者から発生するESUは同種のものとなる。もとは字那の一部だからな。

そして、ESUはそもそも能力の鎧を起動させるためのエネルギー。

つまり鎧のいる場所を中心に広がっていく。

これによって、俺はまさに字那の居場所を鎧がある場所と勘違いしたんだ。」


「そして自分はのうのうと侵入して、残りの鎧を起動させて、竹田や仁科を襲った――。」


「……ああ、だから感情が読めないときに気付くべきだったんだ。無論、鎧には感情などない。あの時ロボットと言った線はあながち間違っていなかったんだ…。」


「そして、私たちが背面の鎧に全力で攻撃したタイミングで、鎧を回収した…。」


「だから突然ESUが消え、別の場所に移動したかのように錯覚したんだ。

移動したのではなく、もとからそこに居ただけだったのに…。」


「…その自動律式の鎧に対して、なにか対策はある?」


「ある。結局のところ、この鎧は罠や伏兵、陽動作戦としてしか作用しない。

つまり、それそのものが強力というわけではなく、奇襲にしか使えないのだ。

だから――。」


「――――――――。」


「そういうことだ。」


作戦は立て終えた。

あとは、仁科を助けに行くだけだ。

しかし、ノゾキはずっとあることを気にしているようだった。


「……本当にアレでよかったのか?」

隣の部屋を見ながら、笠音に尋ねた。

同じく隣の部屋――竹田と田中がいるその部屋を見つつ、笠音は淡々と言った。

「……ええ。下手なことを言って期待を持たせるより、酷でも真実を告げたほうがよっぽどマシだから…。」


「……。」


「体を本質化するこの世界で死んだ人間は、決して生き返らない。

その死体もある程度時間が経過すると消え去ってしまう。

それどころか、この世界で死ぬということは、その本質が死ぬということ。

つまり――。」




竹田に告げられた真実。





「この世界で死んだ人間は、元の世界では『存在すらしなかった』ということになる。これだけはイデアでさえも覆せない事実よ…。」

北川と橋岡の冥福を祈ります。

黙祷……(チーン)

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