命題10:悲壮な紆余曲折
3日ぶりの投稿です!!
にしても、命題10……長い…。
実は、私の中では命題10はあと二倍の分量がありました。
が、全部やってると何時までも投稿出来ない…。
ので、半分に分けることにしました。
残り半分は命題11に回したいと思います。
それではまたっ!!
目の前に、そーかがいた。
そして、すぐに気付く。
ああ、これは夢だ。
俺はさっきまでいたあの殺戮の世界とは似ても似つかない、広い公園にいた。
これは、確か五年前、小学校の時に行った遠足の光景だ。
「ねぇ、蓮君……。」
そーかは気弱そうに呟く。
「ん?何?」
その隣で、まだ声変わりしていない、そしてエロゲはおろかギャルゲすら知らない俺が応える。
「私ね…。最近、夢を見るの…。」
「夢?」
「うん、夢…。蓮君が何かと戦ってて……傷付いて…泣いてる夢。」
「俺は泣かないぞ!」
あれ?
俺ってこの歳から一人称「俺」だったのか…?
ませてるな…俺。
そーかを見ると、慌てたようにこちらに顔を向け、耳元で必死な顔をして言う。
「あの、だから、夢なの!! 蓮君も今よりずっとおっきくって、背も伸びてて……でも、泣いてたの!!」
「わ、わかったから耳元で叫ぶなよっ!」
「あ、う、…ごめん。」
しょんぼりと顔を俯かせた幼なじみの顔を覗き込むと、なんとそーかは泣いていた。
「え……え?」
そんなそーかの様子に戸惑いながら、俺はあたふたとするしか無かった――。
◎◎◎◎◎◎◎
「う………ん?」
何か昔の夢を見ていた気がする。
目を開くと、そこには満天の夜空があった。
「目覚めたようですのねぇ…。」
「!!」
この声は……!!
とっさに起きようとしたが、体が動かない。
よく見ると腰や足に三叉の槍が絡み付いていた。
……便利な槍だ。とりあえず動く部分を駆使して、寝返りをうつと――そこには思った通り、あの北川や田中や橋岡を殺した女がいた。
「テメェ……!!」
「テメェではありませんわ。もう私は伏兵ではありませんし、自己紹介して差し上げても構いませんわね…。私は字那ゆま。この世界へ来て早2年のベテラン能力者ですわ。」
「何を呑気に自己紹介してんだ!! お前、俺をどうする――」
そう叫んだ直後、顎を蹴られた。
「ぐ……ッ。」
「自己紹介は大事ですわ。さぁ、私は名乗りましたし、次はあなたの番ですことよ?」「………。」
どうする。
今のこの状況は完全にこの―字那ゆまにペースを取られてしまっている。
このまま黙っていればいずれ再び俺は顎を蹴られるだろうし……俺も、二発もの顎蹴りを平気で耐えられるほどの丈夫な体は生憎持ち合わせていない。
つまり……
選択の余地は無し、か…。
「……俺は仁科 蓮だ。ここへは今日来た。そして、どっかの誰かのせいでダチを失った。」
皮肉を織り交ぜながら、渋々俺は答えた。
しかしそんな皮肉は全く意に介さず、字那は満足げに頷いている。
「うんうん、これで自己紹介も済みましたわね。さて、それでは本題に入りましょうか。」
「……本題?」
「ええ。貴方は何か他の人間とは違った本質をお持ちのようですし、ひょっとしたら強力な能力者へと覚醒するやもしれませんし…。ですので、貴方は特別扱いすることにいたしましたの。」
買い被りすぎだ。
俺が能力者?
さっきの槍を止めたことを言っているのなら、まるで検討違いだ。
俺自身、どうしてあれを止められたのかまるで分からないが、恐らくあれはただの偶然だ。
しかしまぁ、それをあえて伝えることもないか。
何せ正直に伝えれば俺も殺されちまう。
ここはハッタリをかけて少しでも生き長らえて、俺の出来ることをやるしかないだろう。
そう冷静に判断した俺は、
「そいつはどうも。出来れば北川達も特別扱いしてほしかったんだがな…。」
と半眼で皮肉を精一杯こめて答えた。
しかし、字那は悪びれもせずにそれに答える。
「北川? ああ、あの殿方ですか。ダメですわぁ…あの方は私の槍を素手でお止めになれませんでしたもの…。」
やっぱり、槍を止めたことで誤解したのか…。
「それに比べて貴方は素晴らしいですわ。この三叉の槍の刃を素手で止めるなんて、常人は愚か、能力者ですらありえないこと。貴方はよほどの才能を秘めているに違いありませんわ。」
「世辞はいい。それで、本題ってのは何なんだ?」
「率直に申しますと、私と組みませんこと?」
はぁ?
あれだけ残酷なことをしておきながら、俺を仲間にするつもりなのか、コイツは?
「率直に言う。断る。」
すると、字那は意外そうな顔をした。
いや、当然だろ?
目の前でクラスメートを殺した奴と組むだなんて正気の沙汰じゃない。
「…そう。もしこの話を呑んで頂けたなら、貴方を同盟者として迎え入れ、その槍を解いて差し上げようかと思いましたのに…。」
「あのな、分かってねぇみたいだから教えてやる。
大魔王の『世界を半分くれてやる』は『いいえ』コマンド安定なんだよ!! 『はい』にしたとたんバッドエンド確定なのも分かんねぇのか!?」
はっ!!
超危険人物相手に俺は何を語ってるんだ!!
しかし字那は全く訳が分からないというように小首を傾げている。
どうやら、怒ってはいないようだ。
「大魔王? コマンド…? 能力の一種ですの…?」
てんで勘違いな方向に思考が進んでいるが、訂正する義理など俺にはない。
だから、
「いや、何でもない。こっちの話だ。」
と話を誤魔化した。
しかしどうもこの行為が悪かった。
字那を見やると、どうやら字那の中では
「大魔王」=能力の一種
の等式が完全に成立してしまったらしく、期待に満ちた眼差しを俺に向けてきていた。
…めんどくさ…。
「どうしても私の同盟者になりませんこと…? 貴方ならば共に最強を名乗れるほどの能力者になれると思いましたのに……。」
「なる気はない。」
思い切り断言してやった。
今までの怒りを込め、ゲームを一切知らないらしいその無知さへの怒りも若干込めていうと、字那は俯いた。
「……そうですか。しかしまぁ、それでは殺すしか―」
「俺はそれでも構わない。」
「………。」
字那の言葉を断ち切るように言うと、字那は黙りこくった。
さっきからの言動から察するに、どうやら字那は余程俺が欲しいらしい。
俺の挑発とも取れる発言はことごとくスルーだし、しかも同盟の話を断っても殺すことなく再び提案してくるのだ。
つまり、ここでゴネればゴネるほど、時間は稼げる。
そう考えた俺は徹底的にゴネさせて貰うことにした。
――しかし。
「……そうですか。では、世間話でもしましょうか。」
「は?」
なにやら字那は妙な方向から俺を説得しようとし始めた。
「私はこの世界に来てから、元の世界へは帰ったことがありません…。ですから、ここに来て以来まともに会話した事すらないのですよ。なにせ、私と会う人は皆、逃げるか攻撃してきましたから…。ですから、攻撃も逃走もしない方とお話出来るのは久方ぶりですわ。」
攻撃も逃走も出来ないように槍でがんじがらめに縛ってるのは誰だよ。
それに……
「…そりゃあ、あんな殺戮をする奴と話し合ったりするなんて――」
「…違うのです。」
字那は俺の声を遮り、俯きながらそう言った。
「違う……って……?」
「私だって、最初は好き好んで人殺しなんかしませんでした。
――でも、私の意志とは関係なく、人々は争い、殺しあっていました。…この世界の覇権を巡って。」
「……。」
不思議な話じゃない。
確かに、こんな世界だ。
ヒトの欲望を炙り出すには、ここは絶好の場所。
そして、欲望を剥き出しにした人間は、他者を顧みない。
恐らく字那がこの世界に来たばかりの時は、そんな血なまぐさい場所だったのだろう。
「でも今は、争いなんて全く起こって無いじゃないか。こんなに平和なら、あんな風に人を、俺のクラスメートを殺さなくたって――」
「平和……ですか。」
静かに、陰鬱な声で再び俺のセリフを遮ると、こちらを暗い眼差しで見つめてきた。
「……何か違うのか?」
「いえ、見方によっては平和なのでしょうね…。」
でも、と字那は続ける。
「争う人間そのものが、私と――詩乃とノゾキしかいない状況で、平和と果たして呼んでもいいものでしょうか…。」
「な……」
「この世界には幾人もの能力者がいました。しかし、その全ては詩乃とノゾキと私の手によって死んでいるのですよ……。
先週まではまだ5人程いましたが、つい先日全員殺しましたの、私が。」
「……待て…!! どういうことだよ!? 幾人もいた能力者を、お前だけじゃなくて、笠音も殺していたのか!?」
「…話せば長くなりますし、かいつまんで申しましょうか…。」
◎◎◎◎◎◎◎◎
――ほんの二年前。
このイデアでは、様々な能力者がしのぎを削り、己の欲望の為に争いあっていた。
そこに立ち上がったのが、笠音だった。
彼女は何かしらの方法によってイデアの性質を突き止め、その発動には全員の意志を統一するだけでよく、争う必要がないことを数々の能力者に伝え回った。
……しかし、その話に耳を傾けたのはノゾキだけだった。
そんな中。
ある少女がイデアへと迷い込んだ。
それが、字那ゆまだった。
笠音に助けられた彼女はいつしか笠音やノゾキと共に行動し、そして数数の能力者を説得し、聞かないものは倒してでも無理やり説得し、そして願いを叶えるべくイデアの能力を発動させるのにあと一歩、という段階へ至った。
しかし。
そこで事件は起こった。
笠音の願いは
「殺された妹を助けたい」
という物だった。
そして、字那の願いは
「人殺しの冤罪を被せられた父を助けたい」
という物だった。
普通、親族―特に親が罪を犯した場合、その子供を両親のどちらかの旧姓に戻すことがしばしばある。
字那も例外ではなかった。
字那ゆまの元の名前は、矢井場ゆま。
父親は矢井場譲。
それを聞いたとたん、笠音が怒りだしたのだ。
何が因果か――字那ゆまの父親は笠音の妹の仇だったのである。
それ以来、この二人は絶縁し、笠音・ノゾキのグループから外れた字那は一人、厳しい砂漠の世界で生きることとなった――。
◎◎◎◎◎◎
「それ以来、私と笠音は会えば殺しあいばかりしていましたわ。そしてそのうち…人とは怖いもので、お互い、人を殺すことにも慣れてしまいましたの。もっとも、私の場合はそこに快楽を見出だしてしまうのですけれど…♪ それは、また今度お話いたしますわ。
それでグループから仲間外れにされてしまった私に構うものなどおりませんでした――いえ、それどころか殺そうとする者さえ居ましたわ……恐らく詩乃の回し者でしょうけど。だから私は私なりの戦いを始めましたの。」
……そんな事があったのか……。
でも、その話には一つ不自然なことがあるぞ。
笠音は決して他人に汚れ仕事を押しつける性格じゃない。
それどころか自分から突っ走っていく性格だ。
それを伝えようと口を開くが、先に字那が喋りだす。「だから私は、私なりの戦いを始めましたの。」
「…?」
「あの事件の後、私達の不和を見た能力者達がまた争いだしましたの。だから、笠音達はまた説得――というよりは征服でしょうか――をしに、イデア中の能力者の元へ行くようになりましたわ。そ・こ・で…。」
字那はそこで一旦息継ぎをした。
その顔を見ると、あの、北川を殺した時と同じ顔…悦にいった顔をしていた。
「……!!」
「笠音達が去った後の能力者はズタボロでしたわ……。まだ当時、微弱な能力しか持っていなかった私でも容易に殺せる程に。」
「……そうやって力を蓄えつつ、能力者を…殺していったのか。」
「ええ。そして私は気付きましたの。なにも意志を統一するなんて面倒なことをする必要など無いと。」
「奪ってしまえばいいのですわ…!! その者の本質ごと、その意志を!!」
「…それが『本質を奪う』ってことか。」
確か字那は俺と初めて対峙したとき、いい本質がうんたら……と言っていたが、そういう話だったのか…。
「その通りですわ。私は死体…いえ、死にゆく体とした方が正しいでしょうか…からその存在の本質を取出し、意のままにすることが出来るのを発見しましてね…。そして、その本質を集めることで、イデアの力の一部を発動することが出来るようになりましたの。
……こんな風に。」
字那は静かに右手をあげる。
と、そこで地響きが起こり…一瞬の後には……
「……ここは!?」
あたり一面が熱帯雨林と化していた。
「あなた方も似たようなことをしていたでしょう?
あなた方はビル。そして、今、私はジャングルをイメージいたしましたの。」
「俺の意志も存在するのに、どうして…!?」
笠音が言うには、誰かの意志が混ざるとイデアは上手く働かないはずじゃあ…
「貴方の意志を相殺出来るだけの本質を私が手に入れているから。」
「つまり…それだけの人を…」
「殺しましたわ。」
あっさりと字那は言った。
かつてはひ弱だった少女をここまで変えさせた世界。
その中で、少女はただ呟く。
「……どうしてこうなってしまったのでしょうね…。」




