接近。
午後6時。俺は部屋に籠ってベッドに横たわっている。下の台所からトントントンとリズミカルな音が聞こえて、ジャガイモとニンジンを煮たような匂いがした。母が肉じゃがを作っているようだ。
隣部屋では妹と妹の彼氏が愛を囁き合っているようだ。
壁越しで聞こえにくいが、「誰よりも愛してる。」とか「愛があれば地球なんていらない」とか、中学生にしてはくどい事を言っている。こっちからすれば歯が浮くようで居心地が非常に悪い。
「死ね!!お前らが地球いらなくても、俺はいるんだよ!!爆発しろ!!」
力限り心の中で叫んだ。
やりきれない気持ちが混み上がってくる。どす黒い何が頭を包む。
特に理由もなく、おもむろに携帯を開いた。着信履歴が一つだけあった。
番号登録のされていない物で、市街地局番が頭についてる。つまりは固定電話からの着信と言う事。
「誰だ...」
考えたくはないが、田井中とは親い関係だったので固定電話の番号は登録してある。
つまりは友人関係か...それとも間違い電話か。
スルーしようとも思ったが、何故かかけ返してしまった。
通話ボタンを押した後で少しばかり怖くなったが、どうやら恐いもの見たさは人一倍のようだ。
【現在、この電話番号は使われておりません。番号ご確認の上...】
返事は予想外にも留守番電話サービスのお姉さんのお声。しかし、脱ぐいきれないのは、このお言葉だ。
??
電話が使われていない。通話中ではなく、繋がらない?俺は眉をひそめる。
【現在こ...でん....ご...】
突然ノイズが走り、優しいお姉さんの言葉が途切れ途切れになる。そしてそのノイズは波のように声を遮って次第に大きくなり
【ザーー....】
完全に飲み込んでしまった。
俺は気味が悪いので携帯を閉じて、電源を切った。
なんだろう。もしかすると、幽霊でもかけてきたのかも知れない。非科学大嫌いな俺がそんな事を真面目に考えてしまった。
「カレー出来たよー」
母の声が聞こえた。
まぁ、もうそうそうないだろうよ。考える事を放棄するように、携帯をベッドに放り投げた。