学校。
吹き上がった汗と、寝起き特有の体の暖かさが今まで寝ていた事を自覚させた。
息も切れ切れに顔を上げて辺りを見ると、先生の黒板に書く古文を、生徒らがノートに移しているようだった。
俺は学校に来ていた。
そうだ。思い出した。俺は、あいつにあの時の事を聞くために学校に来たんだ。ほんとうに人間を解体していたのかを、確かめるために。
「今は国語の時間だよ。」
記憶をたどっていると後ろの席から声がした。反射的に体がビクッと震える。
「...大丈夫?風邪でも引いたの?」
俺は後ろの奴に返事をした。
「あ、ああ、悪い。ちょっとな。」
悟られては行けないといつもの調子を装った。誰にもわかるわけないのに。
....だが今になって考えてみれば、ほとほと現実味が薄い。
容姿端麗。性格も、人間関係も、成績も、困る所がない所が困る所のような完璧超人が、人を殺し解体した。誰も信じないし疑わないと思う。
とは言うが、現実に起こってしまったのだ
から仕方がない。そう、だから俺は彼女に自主して欲しい。俺をいつも助けてくれたように、彼女を助けたい。
ふと机には二枚の古文の問題がかかれている紙が置いていた。
「悪い。一枚多くないか?」
肩をこづいてプリントを一枚差し出した。振り向くと迷惑そうなに眉を寄せて、当たり前のように言った。
「綾瀬さんいるじゃん。」
は。
心臓の鼓動が一層際立った。
「ねぇ、プリントは?」
後ろにゆっくりと目だけ動かした。
そこには手にもったザラ紙のプリントを待つ、田井中の笑顔があった。
口の端が勝手に歪む。笑いが込み上げる。絶望の色が脳を支配して、汗と恐怖心を造る。
「おはよ。長井くん。」
いつもの笑顔は、いつものではない。そんな気がした。