狂気ぃー
友達とのカラオケ祭りからの暗い帰り道を歩いていた。
時間は日にちが変わった12時15分。歩く道は人通りの少なく、街灯が途切れ途切れに点滅を繰り返していた。
俺はペットボトルに入ったぬるいコーラを飲みつつ、お巡りさんを警戒していた。何せ今は制服のままであり、見つかると補導されるかも知れないからだ。
まぁ...この道自体、迷路のようにいりくんでいるから撒くのは簡単だけど。
野球部さながらのエナメルバックを揺らしながら歩く。
すると、家と車道に囲まれた小さい公園が見えてきた。
青いペンキの塗られた滑り台、鉄の鎖で繋がれたブランコ、砂場、コンクリートの塗装か剥げている目がでかい楕円形の可愛らしい蛙の像。すべてが夢と共に色褪せ、塗装が剥げていた。
思い起こす友達との思い出。
(あの頃が一番楽しかったのかも知れない...)
気持ちは初老だが、今は高校生。先を急ごうと足を進めた。
その時だ。
砂場に人影が揺らいで、何か堅いものをノコギリで切り分ける音が響いた。
「あ。音だしちゃった。」
声もする。女の子の声だ。
「まいいか。誰もいないしね。」
周りを見回して言った。
イヤイヤ俺いますやん。と思いつつ電柱の影に隠れていた。
途切れた音が今度は連続して繋がった。
ギコギコギコギコギコギコギコ....バキ!.....ギコギコギコギコギコギコギコ....バキ!....ギコギコギコギコギコギコギコ..
ノコギリが何かを削り、折れる音。
しばらくすると、鉄臭い臭いも漂ってきた。
不穏な雰囲気と現実味の湧かない恐怖は吐き気を催して、それを必死に堪えながら、道を変えようと公園に背を向けた。
(何か知らないけど、あんなマッドサイエンティスト染みた事みてらんねーよ!)
そそくさと逃げようと歩を進めると、背後に気配を感じた。動物などではなく、人間独特の雰囲気を。
「...がいくん?」
か細い声がしっかりと耳に届いて、汗が瞬く間に引いていく。俺は恐る恐る振り向いた。
俺と公園の間には街灯がある。その街灯が照らす明るい光の枠組みの外に、断片的なパーツがシルエットとして浮かんでいる。勿論それだけではどんな姿なのかはわからない。
だが、何故か俺の頭にはある人物の顔が浮かんでいた。俺は知っている。
その声。その呼び方。俺はこいつを知っている。
恐怖に震えながら、もっと別の感情が沸き上がる。間違いであってくれ。そう願った。
震えた声で、名前を呼ぶ。
「田井中?」
名前を呼ばれるのを待っていたかのように、ソイツは街灯の下に現れた。
細い眉。細い首。白い肌。茶色の目を大きく見開き、ハーフのような顔立ちは驚きの表情を作っている。田井中もまた制服のままだった。
そして何よりも右手にはノコギリをしっかりと握って、全身は血で赤く染まっていた。
「何...してんの?」
彼女は驚きからいつもの笑顔になって、手に持っていたノコギリを俺に見せた。
「解体!」
あっけらかんと言いはなった。